第15話

山田さんの死亡と赤間さんの失踪。この二つの出来事は、恐怪島にいた私たちに恐怖を覚えさせるには十分だった。


そのせいで、元から悪かった空気はさらに悪くなってしまった。どうにかして話を聞きたいのだが、そんなことをしてくれる人はいない。仕方がないのかもしれないが。


とりあえず、他の人よりも圧倒的に殺人事件に慣れが生じているであろう一織ちゃんと話すことにした。


響「一織ちゃん、ちょっといいかな」


一織「響さん、どうかしましたか?」


響「今回の事件のことについて、一織ちゃんと話がしたいんだけど、いいかな」


一織「あ、奇遇ですね。実は、私も響さんに話しておきたいことがありまして」


よし、とりあえず事件解決に一歩は近づいた。どんな内容であれ、ないよりはましだろう。


響「話したいこと?」


一織「はい。実は、昨日の夜はずっとあの辺にいたんですけど」


一織ちゃんはそう言うと、入り口の方を指した。確かに、入り口の近くには彼女が座っていた椅子があった。集められたメンバーが持ってきた箱を置いてある棚もあるし、わざわざそんな場所にいた理由はなんとなく想像つく。


一織「昨日の夜に、私、山田さんと話をしたんです」


響「え!?本当に?」


一織「はい。その時のことなんですけど…」


ここから、一織ちゃんがどのような話をしたのかをまとめる。私がコテージを出た後のことらしい。どうして私だと分かるのか気になったが、戻ったときに遭遇したし、多分その影響だろう。


その後、とあることが気になって箱の中身を調べようとしていたところに、山田さんが来たそうだ。本人曰く、確か日付が変わってからのことだそうだ。


一織「あれ、山田さん。どうしたんですか、こんな時間に」


つぼみ「あ、いや…その…」


一織「えーっと、あの、ですね、もし話しにくい内容なら、無理しないでいいですよ」


一織ちゃんはそう言ったが…


つぼみ「い、いや、あなたに、なら、話せる、かも」


一織「ほ、本当にいいんですか?」


つぼみ「…………うん」


どういう理由かは定かではなかったのだが、どうやら初対面の時と比べても分かりやすく怯え方が悪化していたそうだ。


一織「…じゃあ、話してください」


つぼみ「こ、これ、は、松原さん、のことで」


ここから先の内容は、本当に酷い。こんなことは言ってはいけないのだろうが、殺されても当然のクソ野郎だと私も思った。一織ちゃんも思ったようで、この部分を話すときは、少しばかり怒りが抑えられなさそうになっていた。


松原 麗は、女癖がとにかく悪かったそうだ。顔は良いが(顔が良いからできてしまったようだ)、それでいて女を自分の都合がいいように扱っていたのだ。


そんな彼がある日ターゲットにしたのが、佐倉 のあ(さくら のあ)という名前のADだ。この人こそが、ここまで何度か話題に挙がっていた「さくらさん」の正体だ。


彼女は二十代半ばでまだ若く、松原 麗にしてみれば最高に都合が良かった。彼は、新しく佐倉さんで遊ぶことにしたのだ。


最初は口説いてみる、ぐらいの感じだった。しかし、どうにも佐倉さんは相手にしてくれない。そのことに腹を立てた松原 麗は、とんでもない方法で自分のものにした。


まずは、自身が出演する番組の収録が終わるまで待たせる。そんなことが出来るわけないだろうと思っていたのだが、何故か成功してしまったというのだ。


そして、待たせたところで、彼は無理やり自分の車に乗せた。自分の家まで連れていった。そして、ここからが話のピーク、とでも表現してしまおうか。


無理やり服を脱がせ、性的暴行を行った。さらに、そのことを映像として撮り、「このことを話したらこの映像を流出させる」と言って脅しをかけた。


その後も、彼は自分が求めたタイミングで彼女に性行為を要求した。しかし、彼女も反抗した。そのせいで、さらに状況は悪化した。


松原 麗は我慢できなくなり、彼女を自分の部屋に監禁したというのだ。しかも、やっていた内容はほんの僅かな優しさを与えて、それ以上の苦痛を与えるようなことだ。


そして、最期には佐倉さんは自ら飛び降り自殺をしてしまったとのことだ。


一織「それ、本当ですよね」


つぼみ「う、うん…」


一織「あぁ、そうか。それだけのことをしてしまったから、恨みを買ったってことか。だから、バラバラ死体になってしまったと」


つぼみ「そ、そんな、言い方は…」


一織「…私も口が悪くなってしまいました。すみません」


一織ちゃんは松原 麗に対する怒りを全身で感じていた。もし自分が佐倉さんと親しい間柄なら、自分だって殺そうとする。そんな考えすら持っていたほどだ。


つぼみ「じゃ、じゃあ、私、は、これで…」


一織「え?どこか行くんですか?」


つぼみ「ちょ、ちょっと、呼ばれ、てて…」


一織「そう、ですか…」


彼女はここで嫌な予感がしていた。しかし、止めることができなかったのだ。


一織「それって、どうしても行かないといけないんですか?」


つぼみ「……ど、どういう、こと…?」


一織「そんな、呼び出されたからって、今は行かない方がいいかもですよ。もう深夜ですし」


つぼみ「で、でも…」


一織「それに、忘れてはいけません。松原さんは殺されています。もしかすると、あなたも命が狙われるかもしれないんです」


つぼみ「………」


一織「それでも行くと言うのならば、私もついて行かせてください」


つぼみ「…駄目」


一織「…え?」


つぼみ「…ついて、来ないで」


一織「そんな、どうしてですか」


つぼみ「…これは、私、の問題、だから」


一織「え?ちょっと、どういうことですか」


一織ちゃんの言葉を無視して、彼女はコテージを出た。それが、生きていた姿を見た最後のタイミングらしい。


一織「…ということです」


響「なるほど…」


ここで気になることが、私にはある。一織ちゃんがここにいた理由と、山田さんが最終的に一人でコテージを出た理由だ。


後者については聞こうにも聞けないが、前者については今すぐにでも話が聞ける。聞いてみることにしようか。想像つくとは言ったが、気になってしまったら聞いておきたい。

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