第22話
響「さて、次は教会での話をしましょう」
和那「教会での話…っていうと、つぼみの?」
響「その通りです。事件のことをお話するのであれば、これは避けてはいけません」
海「しかし、何をどう話すのですか?」
響「犯人がどのようにして自分の姿を見せずに犯行を行ったのか、ということについて話していこうと思います」
教会での事件において、他にも謎はあるのだが、一番重要なのは、一織ちゃんという監視がいたのにも関わらず、どのようにして犯行を行ったのかということだ。
もちろん、彼女が寝ていて監視なんて全くしていない間にこっそり抜け出した可能性もある。が、リスクが高すぎる。彼女が起きない確証はどこにもない。
では、犯人はどのようにしてコテージを出て教会へ向かったのだろうか?その答えはこうだ。
誰も見ることができないところから抜け出す。
このように言われてもさっぱり分からないだろうが、解決策としてはさほどおかしなものでもない。目的だとかそんな考えは一度抜きにすると、犯人が自分だとバレないようにするには的確な解決策だ。
蓮花「で、でもさ」
根室さんがこのように言った。
蓮花「そんなことできるの?」
響「できます。それに、決して難しいものでもありません」
空「難しいものではない、だって?」
響「ええ。ただ、コテージの作りを利用しただけです」
空「分からない。もったいぶらずに教えてくれよ」
響「そうですか。それでは……一織ちゃーん、もういいよー」
私が彼女の名前を呼ぶと、彼女は寝室から出てきた。しかし、それは彼女の部屋ではない。
一織「はいはい。お呼びですか」
響「えぇ、お呼びです」
海「ちょ、ちょっと待ってください。なんで俺の部屋から出てきたんですか」
一織「ん?あ、あそこ種子島さんの部屋だったんですね。すみません、あなたの部屋だとは知らなくて」
蓮花「なんだか、その言い方だと、まるで誰の部屋でも良かったみたいじゃない?」
響「察しがいいですね。そうです。どこから来たかは全く重要ではありません。どうやって来たかが大事なんです」
空「どうやって来たか?何を言っているのか…」
響「そのことは一度後回しにしましょう。さて、どうやって来たのかということについてですが…」
一織「これは見てみたほうが早いですね。着いてきてください」
私たちは種子島さんよ部屋の前に集まった。
蘭太郎「それで、どうやってその部屋から出てきた?」
一織「そんなに変なことでもありませんよ。まず、このドアを開けましょう」
空「…………見たところ、特に変なところもなさそうだけど」
一織「あまり急かさないでください。どうせすぐできることなんですし」
そう言うと、一織ちゃんは窓の方へと歩いていった。そして、その窓から飛び出していった。
一織「はい。これです」
和那「これ?」
一織「私が今やったように、窓を開けてそこから飛び出す。こうすれば人目につかずに外に出れます。反対にコテージに入りたいのなら開けてある窓から入る。鍵をかけていなければいつでもできることです。単純ですよ」
これこそが、犯人が一織ちゃんに見つからずにコテージを出た方法だ。しかし、これに気がついたきっかけは教会のステンドグラスなのだが、セキュリティのことを考えると早急にあれは変えたほうがいい。
響「それじゃあ、教会での殺人についての話をもうひとつしましょう」
和那「もうひとつ、まだ話すことがあるの?」
響「あります。それも、杉本さん、あなたに大きく関係しているものです」
和那「私?」
響「そうです。ほら、山田さんから送られてきたっていう、あのメッセージ少し見せていただいてもよろしいですか?」
和那「え?いいけど…」
響「ありがとうございます」
私は杉本さんからスマホを渡してもらい、山田さんから送られたというそのメッセージを見た。時刻は五時ごろ。「助けて!」という文章。そして……
響「……この天使像の写真です」
海「それって、教会の屋根の写真ですか?確か、教会の屋根にそんな感じの像があったような気がするんですけど」
響「発想としては悪くないのですが、今回ばかりは違います」
海「違う?一体どこが」
響「この天使像が、『屋根にあったもの』という点ですよ」
海「どういうことですか。意味がさっぱり…」
蓮花「あ、そういえば教会の中にもそんな感じのなかったかな」
響「そうです。それこそがこの写真の正体です」
一織「つまりは、この天使像の写真は『教会の中のもの』を外に取り出して撮ったということです」
空「しかし、どうやってそのことを調べたんですか?」
響「私と一織ちゃんとで教会に行ったときに、天使像にうっかり触ってしまったんです。そのとき、前日には付いていた埃が手に付かなかったことからこれを利用したと考えて、あとは実践あるのみです」
蘭太郎「実践?」
一織「試しに、この写真見てみてください」
一織ちゃんは杉本さんに送られた写真と同じような写真を見せた。
和那「これじゃ、私のやつと何も変わらないんじゃない?それじゃ、犯行の証明にはならないよ」
一織「そうじゃないです。これを縮小してみましょう」
その写真を縮小していくと、ある違和感が現れはじめた。
蘭太郎「ん?屋根はおろか、教会そのものよりも前に天使像があるな」
響「そうです。つまり、送られた写真は意図的に一部だけを撮ってあるのです」
和那「言われてみれば、画質がかなりいいな。なんでもっと早くきがつかなかったのかな……」
一織「いきなりあんなメッセージが送られたら普通は気が動転します。気にしないでいいですよ」
響「さて、それではこの殺人のもうひとつ重要なことがあるんです。このメッセージを誰が送ったのか」
空「え?そんなの、山田が送ったに決まってるだろ」
響「だとすると、あんな写真を撮る意味がわかりません」
蓮花「それじゃあ、メッセージを送ったのは犯人ってこと?」
響「そうです。犯人は山田さんを殺害してからこの写真を撮って、山田さんのふりをしてメッセージを送ったのでしょう」
犯人は窓を使った移動をしてから呼び出していた山田さんを絞め殺し、その死体を教会の十字架に括り付けて右腕を切り落とした。その後に死亡時刻を誤魔化すために杉本さんにメッセージを送ったのだ。
このときの絞殺用の縄も切り落とすための道具も、儀式の祭壇の棺に隠していたのか、あるいは自分で持ち歩いていたのか。そこの真相は定かではないが、とりあえず殺意は元々あったのだろう。
海「しかし、それを示す証拠がないのでは?」
響「証拠?ああ、でしたらこれがありますよ」
私が取り出したのは、山田さんのスマホだ。
和那「それ、つぼみの!」
響「この中には二つ重要なものが入っております。一つはこの写真。杉本さんに送ったメッセージのものと同じです。しかし、時刻はどうでしょう」
蓮花「あれ?午前一時になってる」
響「そうです。つまり、そもそも山田さんが殺されたのはずっと前なんです」
まさか犯人もこれを見られるとは思わなかっただろう。どうせなら、スマホまでまとめてボコボコにでもすれば(犯人的には)よかったのでは?
響「そして、もう一つ。山田さんは犯人に呼び出されていたんですよ」
和那「呼び出されていた?」
響「犯人は事前にメッセージを送ったんです。脅迫までしながら。これが、その証拠です」
私はそのメッセージを見せた。その送り主は…
空「おい、このトークの相手、『種子島』ってなってるじゃないか!」
響「そりゃそうです。犯人ですからね」
蓮花「え?」
和那「ご、ごめん、あまり上手く聞き取れなくて…」
一織「だったら、私からも言いますよ。ここ、恐怪島で殺人事件を起こした犯人、『黒い天使・アズリエル』の正体は、あなたですよ!」
_______種子島 海!
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