第11話

相変わらず、コテージの中は重々しい空気だった。むしろ最初は普通に会話できていたということのほうがおかしいのだろう。


私たちは一度一織ちゃんの部屋に行くことにした。わざわざコテージに戻ってきた意味とは。


響「お邪魔します」


一織「はーいどうぞー」


響「いやぁ、それにしてもねぇ」


一織「やっぱり空気地獄でしたね。話を一切していないのにこんなことを話すのもおかしいとは思いますけど」


響「ただなぁ。話を聞こうにも相手してもらえるか分からないからなぁ」


一織「どうでしょうかね。杉本さんにでも聞いてみます?」


響「今は一旦やめておいた方がいいかも。何か辛いことでも思い出させたらいけないし」


犯人の目の前で、それも随分と丁寧に推理をして、動機を語らせたりしているが、一応私にも多少は人の心がある。思いやることぐらいはできるのだ。


もっとも、誰に話を聞くのかということは考えていない。わざわざ教える人もいないだろうと思っているが、誰かしらには聞いておくべきだろうか。


そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「はーい、誰ですか?」と言いながら一織ちゃんがドアを開けると、そこには蓮花さんがいた。


一織「あれ、どうかしました?」


蓮花「そんなに大したことでもないんだけど、なんだか二人がいるほうが落ち着けそうだったから」


一織「なるほど、そういうことですか」


こちらとしては、なんだか良くない妄想をされていると思うと落ち着いていられそうにない。一織ちゃんはそんなことは気にならないのか、それとも感覚がおかしくなったのか部屋に招き入れた。私も警戒しすぎか?


蓮花「あー、やっぱ誰かと一緒にいると落ち着くわ」


響「さっきまでずっと一人だったんですか?」


蓮花「うん。なんとなく疑心暗鬼?みたいな感じにやっててさ、みんな」


一織「やっぱり、今回の出来事は精神的にかなりのダメージを受けるのかもですね」


一織ちゃんの言うことは納得できるのだが…どうにも気になる点がある。蓮花さんが余裕すぎるのだ。明らかに生首を押し付けられた人の態度ではない。


そもそも、紫陽さんから届けられた時点で何かがおかしいのではないだろうか。理由が何であれ、仕事をしている場合ではないと思うのだが。


受け取る妹も大概だが、それ以上に兄がイカれてる。どうしてそんなに落ち着いた行動ができるのだろう。


いや、落ち着いているのは他の集められた人たちも同じだ。誰のものか分からないとはいえ、相談が難しいことだとはいえ、よく指示された場所に向かう意志が持てたものだ。


もしくは、やましさでもあるのだろうか。やましさのせいで逃げることすらも許されないのか。


…少し一人の世界に浸りすぎてしまったな。せっかく人がいるんだし、何か話でもしておこう。


蓮花「…で、私は世の中に清楚と両立したエロスを広げていきたいのだよ少女、分かるかい?」


一織「ははは、さっぱり分かりませんね」


蓮花「ほう、それではどうかな、私が今からみっちり教えこんであげるよ」


一織「いや、いいです。遠慮させていただきます」


蓮花「まぁまぁ、そう言わず、ね?」


そう言うと、蓮花さんは一織ちゃんの腕を引っ張っていった。


一織「え、ちょ、まっ」


蓮花「みっちり扱くぞー!」


あーあ、どうすんのよ。女の子の部屋に一人取り残されてしまったよ。


私に欲が全くないとは言わないが、あそこまで堂々としたことはできない。蓮花さんがおかしいというだけのことだとは思うが。


しかし、意味もなく女の子の部屋に残り続けるのもまずい。部屋からは出ることにしよう。


私はそのまま自室に籠ることにした。一人でいたいとかではなく、わざわざ話をする相手がいないだけだと思っていただけだ。


友達がいないだけだって?そりゃそうだよ。ほぼ初対面の人しかいないし、一織ちゃんは友達ではなく義理の妹だし。


そのまま、スマホを見たり本を読んだりしながらダラダラと過ごして、気がつけば剣持さんとの約束の時間が迫っていた。自分としては、気が付かなかったことがあまりにも衝撃的だ。


そして、私はコテージを出た。時間は十一時ぐらいだろうか。もう全員が自分の部屋にいたのかは定かではないが、コテージで人影を見るのはもう一度戻ってからのこととなった。


私はコテージを出て、島の港へと向かった。暗い道をスマホのライトで照らしながら進む。こんな夜道では、殺人鬼に会ってもすぐに気がつけない。危険だな。


歩き続けて、私はようやく港についた。その頃には日付けも回っていて、街はすっかり静まり返った様子だ。


そして、そこに一人の男が立っていた。


蘭太郎「待ってましたよ。ちょっと待たせすぎなのでは」


響「すみませんね。このぐらいの時間でいいのかなって」


蘭太郎「意外に適当な感覚ですね」


響「そうかもしれませんね」


挨拶のような感じで会話をしたところで、剣持さんから本題が求められた。


蘭太郎「それで、今回はどうしてわざわざ私と話がしたいだなんて思ったのでしょうか」


響「あなたなら教えてもらえるだろうと思い…あ、あと敬語はいいですよ。きっと私よりも年上ですし、その方が色々やりやすいでしょうし」


蘭太郎「ん?どういうことだ?」


響「私みたいな若者に夜中に呼ばれて、正直嫌でしょう?だから、気を使われるのもなあって」


剣持「あぁ、なるほどな。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうか。それで、肝心の目的は?」


響「そうですね。こんなことを聞いていいのかと迷わされるところですが…どうして、警察を続けているのでしょうか?」

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