第12話
蘭太郎「警察を続けている理由?なんでまたそんなことを聞くんだ」
響「そのことはまた後で説明します。なので、先に私の質問に答えてください」
私は押し付けるように質問をした。
蘭太郎「説明しろよ?じゃ、質問に答えるとするか。俺はな、元々警察という仕事に憧れていたんだ」
響「憧れていた?それはどうしてですか?」
蘭太郎「俺の親父も警察だったんだよ。そんな親父の姿を見ていたんだ。平和を守るために自分の身を捧げるその姿を。仕事をしている時の親父は誰よりもかっこよく見えた。ヒーローだった。そういったわけで、警察を志したんだ」
響「そうなんですね。それで、警察になってから、その後は?」
蘭太郎「俺は警察になって、すぐにこの島に配属された。住んでいたことはあるが、ガキの頃だ。何も分かんなかったな。
だが、島の人たちは優しくてな。未熟な俺を支えてくれた。まぁ、言ってしまえば、恩返しって感じだな。恩を返したいから続けてるって感じだ」
響「へぇ、そうなんですね…」
正直に答えてもらえてありがたい。ありがたいのだが…
響「しかし、それは警察である必要などないのでは?」
蘭太郎「ん?どういうことだ」
響「島の人たちに恩を返したいっていうのは納得しました。しかし、警察でなくても恩返しはできるのではないかと思います」
蘭太郎「なんだ、何が言いたい?」
響「少し、私の質問も良くなかったですね。それじゃあ、質問を変えさせてもらいます」
蘭太郎「いや、なんとなく言いたいことは分かった。お前が言いたいのは、『煉獄の塔事件』のことだろう?」
響「よく分かりましたね」
蘭太郎「探偵から聞かれたんだ。なんとなく想像はつくさ」
煉獄の塔事件。もう随分と前に起きた事件だ。そして、世間での警察の信用を大きく落とすきっかけとなった事件でもある。
数年前、とあるホテルで火災が起きた。そのホテルが大きいホテルなうえに、その事件が起きたタイミングで火災報知器やスプリンクラーが壊れてしまっていて、被害が抑えられなかった。
その事件で亡くなった人は三桁を上回るとも噂されている。生き残った人も、火傷や一酸化炭素中毒などによる後遺症に苦しめられている。
それほどの重大な事件。調べていくうちに、衝撃的な事実が判明したのだ。
なんと、その事件の犯人というのが警察官二人だったのだ。現場の状況を整理していくと、火災が起きた時、彼らは自分の部屋から離れた火元のすぐ近くにいたのだ。
このことについて、彼らは犯行を認めた。当然だが、彼らには死刑が言い渡された。それで事件は終着かと思われたが、まだ続きがある。
なんと、拘置所で二人そろって自殺をしていたのだ。それも、同じ日に自殺したことがわかっている。
彼らは、いつか分からない死刑に怯えて生きていくぐらいならさっさと自分で死刑を執行したいとでも考えたのだろうか。これ以降の話は何も世間には知らされていないため、真相は分からない。
しかし、彼らの自殺は罪を償う行為からの逃亡であると言わざるを得ないと思う。実際、犯行こそ認めたが反省はしていないらしい。そんな彼らに自殺をする権利があったのかはやや疑問が残る。
さて、煉獄の塔事件が警察が起こした不祥事、ということはもう分かっただろう。そして、この事件を機に、世間の警察に対する目は厳しくなった。
街中に警察だと断言できるような服装の人はほとんど見なくなった。そもそも退職してしまった人が多いのと、制服では目立ってしまい警察官が危険になるからと制服での仕事を避けるよう上層部が言ったからだ。
しかし、それだけでは意味はなかったようで、警察というだけで誹謗中傷をされることも増えた。私刑というものがごくごく普通なことになってしまったというわけだ。そんな状況をなんとか落ち着かせようと、警察からこんな内容の声明が出された。
今後、警察は犯人が確定した場合にのみ逮捕をし、事件の捜査には依頼された場合のみ参加する。
これだけで世間は納得してしまうのだ。単純極まりない。しかし、これでは治安の悪化が不安になるだろう。そこで、世間は違う人たちを頼ることにしたのだ。
それこそが、私のような探偵だ。探偵が事件を起こさないという確証などないのだが、とにかく頼れるものが欲しかった彼らは、何も考えずに探偵を頼ることにした。
実際、私や一織ちゃんに限らず、探偵によって解決させられた事件というものも珍しくないのだ。それだけ、警察という組織が信用を失ったともとれる、かもしれない。
今は時間も経ったのである程度は落ち着いたが、未だに警察という存在を極端に嫌う人も多い。影響はまだ残っている。
蘭太郎「確かに、あの事件はあってはいけない事件だった。世間が信用しなくなるのも当然のことだろう」
響「だとしたら、どうしてまだ警察を続けているんですか?」
蘭太郎「簡単なことさ。ただ、この仕事が好きだからな」
響「本当ですか?それ」
蘭太郎「まったく…もっとこう、素直に話を聞けないのか」
響「すみません」
蘭太郎「じゃあ、今度は俺から質問させてもらう。今までの質問の意味はなんだ?」
質問の意味、か。これは正直に答えるべきだろうが、本当にそれでいいのか、少し迷ってしまう。結局、正直に答えるのだが。
響「そうですね…あまり回答として適切ではないと思いますが…私、記憶喪失なようで」
蘭太郎「記憶喪失?それと俺が警察を続けている理由の何が関係しているっていうんだ?」
響「あまり関係はないかもしれません。ただ、警察が機能していたら私が事件解決に奔走することもないのかなって」
蘭太郎「なるほどな。それで、記憶がないってのはいつ頃からだ」
響「つい最近までですね」
蘭太郎「そうか。じゃあ、もう帰らせてもらうぞ」
響「えっ!?もうですか?」
蘭太郎「あぁ、そうだ。俺は忙しいからな。少しでも寝ておきたいのさ」
響「そうでしたか。なんか、すみません…」
蘭太郎「気にしないでいい。俺の勝手だ。まぁ、今日は疲れたろう。せめてよく寝て休むといいさ」
そう言って、私と剣持さんは別れた。このままコテージに戻るのは一苦労なんてものではなかった。
しかし。他人に話して、改めて自分が分からなくなった。私は本当は何者なのか、日野 響という名前すら本名なのか疑ってしまう。
ただ、私は記憶喪失で病院にいたところを一織ちゃんのお父さんに誘われて月影探偵事務所の一員となったのだ。感謝しかないな。
そんなことを思いつつ歩いていると、教会の扉が開いていたことに気がついた。しかし、気のせいだと思ってしまい、そこを無視してしまった。
そこで足を止めていれば、殺人を防げたかもしれないというのに。
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