第10話

教会を出て、そのまま儀式の祭壇へと向かった。だいたい教会とコテージのちょうど間ぐらいの距離だった。


儀式の祭壇は、石階段を上った先にある。そこには人一人ぐらいなら乗れる大きさの台があり、周りはどこから入手したのか分からない南国風の葉っぱで囲まれていた。


それに、歩ける範囲はほとんど落ち葉で覆われていた。雨で濡れていたら滑って転んでしまうだろう。


響「儀式の祭壇ねぇ…何のための?」


一織「分かりませんね。それに、儀式なんて、今時するもんなんですかね?」


響「さぁ…そもそも、教会といい、なんだか長いこと放置されていそうな様子だけど」


一織「確かに。逆に、コテージは新しい建物という感じがすごいですね」


響「言われてみればそうか」


だとすれば、その理由は何なんだ?コテージをわざわざ作る理由は?まさか、黒い天使・アズリエルは、殺人事件を起こすための準備として、コテージにあの芸能人たちを呼び出したのか?


響「ん、なんだ、これ」


一織「え、どうかしました?」


響「なんか、臭いなって」


一織「臭い?気のせいでは?」


私の気のせいなのだろうか。そこが分からない以上、追求しようがないので、ここはひとまず何もなかったことにしておこう。


そのまま、コテージに戻ることにした。気まずさが解消されているといいのだが。


さて、突然だが、私には気になっていることがある。思い出してほしいのだが、境界島に着いたとき、私たちは剣持さんに案内してもらった。


その時、私は剣持さんと話をしていたのだが、一織ちゃんと蓮花さんは何を話していたのだろうか。それが気になり、当の本人に聞いてみた。


響「そういえばさ、一織ちゃん、蓮花さんとどんな話してたの?」


一織「えーっと、いつ頃の話ですかね」


響「あの、島に着いてからこっちに登るまでの間」


一織「あー、はいはい、あの時ですか…」


そこまで言うと、何故か黙ってしまった。


響「え?一織ちゃん?」


一織「あの時ですね、分かってますよ、分かってるけど………あぁー、言いにくい………」


さすがに、しっかりと聞けるレベルだとは思ったので、教えてもらおうとした。ここで踏みとどまっておけば良かったかもしれない。


響「えーっと、これは、あまり聞かないほうがいいやつかな」


一織「んー、覚悟してくれるなら、私も教えますよ?」


響「覚悟…う、うん」


…覚悟?


一織「言ってしまえば、私と響さんで妄想してますね」


響「…妄想?」


お?なんだか嫌な予感がしだしたぞ?


一織「それで、私と響さんのどっちが責めか受けか、とか考えてたみたいで」


響「責めか受け………あっ」


一織「あとは、どんなシチュエーションで、とかそんなことも言ってましたね」


これは…もしかしなくても…


響「蓮花さんってさ、腐ってる側の人ってこと?」


一織「そうですね。あとは女の子の良さについても延々と語っていました。きっと、あの人の頭の中には白百合の花畑でも広がっているのでしょうね」


百合かー。しかも、よりにもよって白色かー。


私は見た目や声が中性的なので場合によっては女性に間違われる。というか、半分以上の人は一回は間違える。


だから百合を想像するのもおかしくはないのかもしれないが…自分がやられるのはあまり望ましくないな。


一織「あ、もしよければもっと詳細に話してあげますよ?『無と無のカップリングって清楚っぽくていいよね』とか言われましたもん。殴っていいですか?」


響「………頭の中、だけね」


あの人って、その時は生首持ち歩きながら話してたんだよな?そんな状況で自分の趣味嗜好(あるいは性癖?)について話すとは、変態なのか、それともサイコパスなのか。


なんだかんだで、コテージに帰ってきてしまった。すると、コテージのすぐ目の前に一人でいる女性がいた。山田さんだ。


つぼみ「違う…そんなはずは…だって、私は悪くないんだから…そうだよ…!悪いのは全部松原さんだ…!!!」


島で会った時の可愛らしい印象も残ってはいたが、それ以上に感じたのは、彼女から溢れ出る怒りや憎悪だ。近寄ってはいけないのだろうかと思い、しばらく待ち続けた。


しかし、私たちの存在はあっさりとバレることになった。


一織「山田さん?何をしているんでしょうか」


響「なんだろうね。すごく怒っているのは分かるけど」


一織「これは、どうやって入りましょうか」


響「一旦待ってからでもいいんじゃない?」


一織「ですね。そうしましょ…うわぁっ!?」


響「どうしたの?大丈夫?」


一織「あの…靴紐、踏んじゃって」


つぼみ「…っ!?だっ、誰!?」


響・一織「あっ」


つぼみ「あっ、あ、あの」


響「えーっと、山田さんは、こんな所で何を?」


つぼみ「………そ、の…」


沈黙が流れ始めた。


一織「どうかしました?私たちで良ければ、お話ぐらいは聞きますよ?」


つぼみ「いや、な、何でもないんです………本当に…」


そう言うと、彼女は何事もなかったかのようにコテージに入っていった。


響「何だったんだろう…」


一織「気にしないほうがいいんでしょうかね…」

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