第9話
さくらさんの話題が上がってから、すっかりコテージの空気は悪くなった。私も、最初の一時間ぐらいは我慢していた。しかし、それ以上は無理だった。
かといって、他にしたいことがあるわけでもない。残っていたいわけではないのだが、わざわざ出る理由がないのも事実だ。結局、ズルズルと残っていた、つもりだったのだが…
一織「響さん、少しいいですか?」
響「一織ちゃん?どうかしたの?」
一織「ちょっと、着いてきて欲しいところがあって…」
響「あぁ、いいよ」
私たちはコテージから出た。一時的に、ではあるが重苦しい空気から解放された。
響「それで、行きたいところってのは?」
一織「………」
響「一織ちゃん?」
一織「あのですね、こんなこと言っちゃいけないと思うんですけど」
響「うん」
一織「……あそこの空気地獄すぎませんか!?」
良かった。私と同じようなことを感じてたらしい。
響「まぁ、あんなことになっちゃたんだし、ギスギスするのもおかしなことではないと思うよ」
一織「いやいや、死体持って島に来た時はなんともなかったんですよ!?その時点でビビるもんなんじゃないですか?」
彼女の言っていることは正しい考え方だろう。よく考えてみれば、死体の一部を持った状態で普通に会話していたのだから、とてもだが正常とは言えない。
響「確かに、それはそうだね。それで、結局行きたいところって、どこなの?」
一織「あ、そうですね。私、今蓮花さんから地図を借りてて」
彼女はそう言うと、地図を取り出した。
一織「ここの教会と、儀式の祭壇ってところです」
教会は一度前を通りかかったのでなんとなくわかっているのだが、儀式の祭壇という場所までは知らなかった。
地図上ではコテージと教会を結ぶ道から分かれたところにあるため、意識していなかったのかもしれない。……あ、そういえばなんか分かれ道があった気がする。それで、直接コテージに向かうために無視したんだった。
とにかく、その二箇所に向かおう。何か大切なことというわけではないが、気晴らしみたいなものだ。
先に向かったのは教会だ。
一織「うわぁ…やっぱり大きいですね」
響「そうだね…うっ、眩しい…」
一織「大丈夫ですか?」
響「大丈夫だよ、ありがとう。それにしても、本当に大きいね。学校の二階ぐらいの高さあるんじゃない?」
一織「確かに、そのぐらいはありそうですね」
島の教会は壮大という言葉がしっくりくる大きさだった。屋根の上にあった天使像も、日が昇りきってしまうとなかなかに見づらい。見えなくても問題はないが、高さと眩しさのせいで見るだけで疲れてしまう。
一織「それにしても、どうにかして入れませんかね、この教会」
響「さぁ、どうだろう。一回試す?」
と言いながら、私は扉を押していた。話を聞くつもりなどないのか、私は。
すると、意外にもあっさりと扉は開いた。油断していて、思わず躓いてしまった。
響「うおっと」
一織「大丈夫ですか?」
響「うん。まさか、本当に開くとは思ってなくて」
入ってすぐのところには、屋根のものと似た天使像があった。しかし、こちらの方が形状はハッキリとわかる。
背中に羽が生えた人が、体の前で手を組んでいるというものだ。服は天使というよりも修道女のほうがしっくりくる。
それと、白いものでできていた。怖くて触れなかったが、おそらく石膏か、あるいは陶器のようなあれだろう。作者の語彙力のなさがここで現れている。
そこからさらに進むと、目の前に十字架が現れた。
響「あれは…十字架か」
一織「そうっぽいですね。それにしても、なんであれだけポツンと置かれているのでしょう?」
響「え?置かれてるの?」
一織「え?違うんですか?」
ここで考え方の違いが現れた。真相を確かめるべく、十字架のほうまで行った。壁のステンドグラス越しの光に照らされた十字架は、最初から教会の一部として作られているようだった。
一織「あ、これそういう作りなんですね」
響「それにしても、これはどんな意味で造られたのかな」
一織「さぁ。昔の人の考えなんて、私たちには分かりませんよ」
そういった点において、彼女はどこかドライな考え方をしている。単純に興味がないだけだろう。
他に特に気にするようなものもなかったので、教会を後にしよう、と思って教会を出たのだが…。
響「一織ちゃん、その手どうしたの?」
一織「え?」
響「なんか、埃みたいなのが付いてるから」
一織「ああっ、本当だ。ちょっと気になって十字架を触った時に付いちゃいましたね」
この教会、もしかすると長いこと掃除されていないのかもしれないな。私なら絶対に掃除なんてしないだろうが。
…「絶対」に推測を重ねるの、明らかに矛盾しているな。
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