第8話

私は箱を一つずつ開けた。


響「うわっ…やっぱりこんなのか」


その箱の中身は言わずもがな、バラバラにされた人の身体の一部だ。松原さんのものだろう。


杉本さんは左手、花園さんは右足、赤間さんは左足、種子島さんは胴体、山田さんは右手を持っていた。これに、何か意味はあるのだろうか。


しかし、他の人にとってはそれは重要ではなかった。むしろ、自分が持っていたものが誰のかがはっきりした、そのことの方が圧倒的に重要だ。


海「な、なんですか、これ。え?現実…?」


和那「この顔って、まさか松原のやつじゃ…」


つぼみ「いやぁぁぁっ!」


この人たちがバラバラ死体の一部を持ってきたことも驚くべきではあるが、やはり恐ろしさが上回るようだ。特に、今回のように面識がある存在ならば。


すると、花園さんが何かに気がついたようだ。


空「待ってくれよ。ここにいるやつと松原を合わせたメンバーって、前のシェアハウス企画の共演者じゃないのか!?」


ようやくその事実に気がついたらしい。が、その仮説(正解なんだけどね)に対して、杉本さんから反論があった。


和那「分かるわよ、花園くん。アンタの言ってることはだいたいあってるし。でも、だとしたら根室くんはどこに行ったの?」


そうか。この人たちは蓮花さんのことは知らないのか。だとすると、彼女が根室 紫陽の妹であることをどうにかして説明しないといけないのだろう。


響「杉本さん、少しいいですか?」


和那「どうしたの?」


響「実はなんですけどね、この人…」


私はそう言って、蓮花さんを指さした。


響「彼女、根室 蓮花というんですけど、どうやら根室 紫陽さんの妹らしくて」


楓「何言ってんのよ、そんな都合のいい話があるっていうの?」


蓮花「本当にそうなんですよ。私は根室 紫陽の妹です」


彼女の口からそう言われても、信用はなかなか容易にできない。そんな彼女が根室 紫陽の妹ということを信じてもらえたのは、花園さんの発言だった。


空「でも、確かにあいつ言ってたな。三つ下の妹がいるって」


和那「え?そうなの?…ちなみにだけど、蓮花ちゃん、だっけ。歳はいくつ?」


蓮花「二十三、ですね」


和那「根室くんが…」


楓「二十六。なんだ、ホントのことだったのね」


つぼみ「じゃ、じゃあ、この人、根室さんの代わり、てことでいいんですね?」


空「あぁ、たぶんな」


蓮花さんが紫陽さんの妹であるということは、もはや共通の認識になったらしい。その疑問が解決したところで、また別の疑問が提唱された。


楓「でもさ、なんでアタシたちなわけ?」


一織「なんで、と言うと?」


楓「アタシたちがシェアハウスの時の共演者、というところは疑うまでもないじゃない?じゃあ、なんでアタシたちをこんな島に呼ぶ必要があったのかって話」


彼女の疑問はもっともな内容だ。すると、今度は種子島さんがこんなことを言った。


海「それに、松原さんのことも引っかかります。死んでいた、というのも驚きですが、それよりも殺す必要があったのか…」


種子島さんの言っていることも納得ができる。実際、このような状況からはここまでする必要性が見つからない。


しかし、可能性が一つでも浮上してきたらどうだろうか。この出来事に、正当性を作り出すことができるのではないか。例えば、今回の事件ならこうだ。


つぼみ「き、きっと、復讐しにきた、んだと思います…」


楓「復讐?誰がそんなことするのよ」


つぼみ「さ、さくらさん、とか」


海「っ!?」


楓「な、何を言ってんのよ!そんなことが、あるわけないでしょう!?」


さくら?誰だ?あの番組で共演していたのは七人だけのはずだが。


つぼみ「そ、そうじゃ、そうじゃないなら、誰が、こ、こんなこと出来るんですか!?きっと、ま、松原さんを殺したのは、その、見せしめですよ!」


楓「ふざけんなつってんのよ!」


そう言うと、山田さんに殴りかかった。いやいや、ふざけんなとかそれまで一言も言ってない。


楓「そんなことがあるわけないでしょ!だって、アイツは…!」


和那「もうその辺にしとけば?」


楓「なによ!」


和那「どうしてそんなに焦る必要があるの?何かやましいことでもあるの?」


海「それに、あの人、あくまでただのスタッフですし、特に関係ないんじゃ?」


なんだ?この会話の絶妙な違和感は。会話として成立しているのに、何かが欠けている感覚がある。何が欠けているというのだろうか。


響「すみません。その、さくらさんというのは…」


和那「例の番組でADをやってた子よ。ただ、その子が自殺しちゃったらしくて」


響「自殺って、だったらどうしてそんなに淡々としているんですか?」


和那「もうどうしようもないから。理由も分からないまま死んだから、私たちにできることはないの」


自殺したAD…。もし本当のことなのだとしたら、彼らに原因があるのだろうか。だから、山田さんは「復讐」なんて言葉を選んだのだろう。


だとすると、その人が影響を与えて誰かが復讐を決意したのか、彼女が本当に復讐するために境界島に呼んだのか。それは分からない。分かるなら、殺人事件なんて防げる。

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