第4話

私たちは境界島を、地図を頼りに島を進んでいった。島はそこまで田舎といった感じではなかった。なんとなくの印象だが、島は栄えているし、人も多くいた。


しかし、私たちが用があるのは街ではなく、街から奥の方へ進んで行った先にある教会の周辺だ。渡された地図にそう描かれているのだ。だが…


一織「何これむっず!」


蓮花「すごく適当に描かれてる…」


響「えーっと?私たちが今いるのがこの辺ですよね?」


そう、地図があまりにも難解すぎるのである。馴染みのない土地で、なんのヒントもなしに目的地にたどり着くのはあまりにも困難なのだ。だからこそ、渡された地図に苦戦させられているというわけだ。


蓮花「え?これって、こっちであってるよね?」


一織「え?あっちじゃないんですか?」


困った。私たちだけでは埒が明かない気がしてきた。しょうがないので、誰か島の住民に頼ることにしよう。


響「あの、私たちだけじゃ分からないでしょうし、誰か島の人に頼りませんか?」


一織「確かに、そうした方がいいかもですね」


というわけで、近くにいた人を頼ることにした。


蓮花「すみません、少しいいですか?」


蘭太郎「はい、どうかしましたか?」


蓮花「私たち、島の教会の方に行きたいんですけど、行き方が分からなくて」


蘭太郎「はぁ、またか」


響「また?」


蘭太郎「何でもないです。着いてきてください」


また、というのが少し引っかかる。島の中でも特に大きな場所だからよく案内を求められるのか、それとも私たちと同じような手紙を受け取った人が頼んだのか。


それに、この人は警察官なのだろう。それっぽい服装をしている。今どき珍しい。


響「ありがとうございます」


蘭太郎「いえいえ、これも仕事なのでね」


響「名前を聞いてもいいですか?」


蘭太郎「剣持 蘭太郎(けんもち らんたろう)です。 どうぞよろしく」


響「よろしくお願いします、剣持さん」


蘭太郎「あなたは、なんていう名前なんですか?」


響「私は日野 響です」


蘭太郎「響さんと。職業は?」


響「探偵です」


蘭太郎「ほう、探偵ですか。じゃあ、今回も何か依頼で?」


響「そうですね。あちらの女性、根室 蓮花さんという方なんですが、あの人からの依頼で」


蘭太郎「その依頼というのは?」


響「それは…秘密です。まだ」


蘭太郎「…ほう」


響「そういう剣持さんは、お仕事は何をされているんですか?」


蘭太郎「警察官です」


響「へぇ、警察官ねぇ…」


蘭太郎「どうかしましたか?」


響「いえ、特に何も」


蘭太郎「そうか…」


さすがに露骨に態度に出しすぎたか?どうしても警察官という存在に疑念が…。


響「そういえばなんですが、剣持さんはこの島の出身なんですか?」


蘭太郎「そうです。元々この島で生まれて、育ちは北の方ですがね」


響「じゃあ、この島で警察官をしているのは、地元で働きたいとかそういった理由ですか?」


蘭太郎「そういうことですな」


なんて地元思いのいい人なのだろう。こういうところは見習うべきだろうな。


響「地元の方なら、この島の黒い天使の伝説もご存知で?」


蘭太郎「一応、です。あまりそういった話に興味はないのでね」


響「そうですか」


蘭太郎「いったいなぜそんなことを?あなたは興味があるんですか?」


響「全く…いえ、多少は」


だいたい友人のせいである。あいつのせいで少しばかり興味が湧いてしまった。


蘭太郎「しかし、黒い天使とは、よく考えられたものですよ」


響「そうなんですか?」


蘭太郎「あの伝説は、いわば『罪を犯す』ということから人々を遠ざけるための迷信です。そのためにあの話を考えるのだから、昔の人はそれだけ想像力豊かだったのだろう。もしかしたら、私が会ったことがないだけで、実在しているのかもしれませんがね」


響「なるほど」


確かに、そういう観点で伝説のことを思い返すと、剣持さんの考えは核心をついているのかもしれない。彼は怪物など信じていない様子だし、そういう考えに行き着くのはあまりおかしくないことなのかもしれないな。


蘭太郎「さて、長いこと歩きましたが、ようやく着きました。ここが、教会です」


響「ありがとうございました」


蘭太郎「いえ。それじゃあ、私はこれで」


響「あ、待ってください」


蘭太郎「おや、どうかしましたか?」


響「また後で…夜にでも、少し話がしたいんです。いいですか?」


蘭太郎「夜ですか…じゃあ、港の方に来てください」


響「分かりました」


どうしても彼とは話がしたい。私にとって、何か重要なことに関係しているのではないかと思う。

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