第5話
一織「おーい、響さーん、どうかしましたか?」
一織ちゃんに呼ばれた。本当のことを話しても、何か余計なことを考えさせてしまうだろう。ここは、適当に嘘をついてごまかしてしまおう。その方がいい…と信じよう。
響「あ、えっと、黒い天使について聞いておきたいなと思って。ほら、剣持さん、地元の人だし」
一織「あー、そういうことですか」
蓮花「…あんだけ話してたのに、なぜ今更?」
やばい!思わぬ所から勘繰られてしまった。誤魔化しきれそうにない。どうすれば…
一織「でも、ああいうのって、急に気になったりすることもありますよね。もしかしたら、そういうやつなのでは?」
蓮花「そうなの?」
響「そうなんです。一回気になってしまうと、どうしても知りたいという気持ちが抑えられないもので」
蓮花「あぁ、やっぱりそういうものなんだ」
危ない危ない。なんとかその場を誤魔化しきれた。一織ちゃんもナイスカバーだ。私の心情を察したのかは知らないが。
蓮花「それで、ここから先はこの道を進めばいいのよね?」
響「そうだと思いますよ。他に道らしきものもないですし」
そう言いながら私たちが見ていたのは、さらに遠くまで続く道だ。それも、私たちが進んだ道から繋がっていると思われる。蓮花さんが持っていた地図と照らし合わせたら、一つの道が現れるという感覚がしたのだ。違ったら絶望するしかない。
そして、私たちはその時、教会の近くにいた。さすが、島の異名の一つになっているだけのことはある。想像よりもはるかに大きい。教会というものは実に神秘的であった。おそらく、教会の屋根に乗っていた真っ白な天使像、それのせいだ。
私たちが用事があるのはその奥にある建物である。それに、今回は観光目的でこんな所に来たわけではない。そのため、教会を後にして先へ進むことにした。
蓮花「それにしても、随分と大きな教会だったね」
響「そうですね。異名は伊達ではないようです」
一織「あれだけ大きな教会、一体誰が作ろうだなんて言い出したんでしょうね?」
響「さぁ?誰か物好きな人でもいたんじゃない?」
蓮花「まぁ、教会を建てるにしろ、もっといい立地にすれば良かったんじゃないかとは思うけどね」
そういえば、すっかり説明するのを忘れていた。私たちは剣持さんに会ってからここに来るまで、長いこと時間をかけて歩いた。時計で確認したところ、ざっと三十分ほどだろうか。
しかも、私たちは山へ向かっていた。教会の周りは比較的そうでもないのだが、全体的に木が生い茂っている。信仰の場としては、あまり向いていないように思われる。
響「ひとまず、目的地に向かいましょう。誰かいるかもしれません」
蓮花「そうだね。誰かいるといいなぁ」
私たちは、明らかに人の手が入った道を進んでいくことにした。道に迷うことはあまり起こりえないと思う。なんてありがたいのだろう。
そして、私たちは、ただ道に沿って進んで行った。途中で分かれ道が現れた。しかし、地図はまっすぐ行った先に目的地を示している。そのため、分かれ道など無視して、さらに奥へと進んで行った。
教会を出発してからおよそ十五分ほど経ったころ、ようやく目的地に到着した。ものすごく簡易的な建物だ。しかし、サイズは教会に負けず劣らずといった様子である。
響「うわぁ、でっか…」
一織「ここが、地図にあった『コテージ』ですかね」
蓮花「多分そうなんじゃないかな」
響「じゃあ、試しに一度入ってみましょうか」
そう言って私が扉を開けると、そこには男女合わせて四人いた。それも、どこかで見たことがある顔ばかりだ。
しかし、相手は私たち三人を誰一人として認知していない。だから、突然現れたそれらに対し、驚きを隠せていない様子だった。
和那「なに、今度は誰…本当に誰!?」
空「ん、見たことないな」
楓「それな。誰なのよアンタら」
海「いやいや、いくらなんでも厳しすぎでは?まだ挨拶もしてないんだし、まずはそこからの方がいいかと」
楓「アンタはアンタで呑気すぎなのよ。もっと危機感ぐらい持てば?このキャバクラ通い」
海「通ってねえですけど!?それは空さんでしょう!」
空「そうだぞー。他人に対する煽り方がなってないな。もっと練習して、力をつけろ」
海「つけなくていいんすよそんなの!」
なんだこの人たち。私たちに関心を示してほんの少しで蚊帳の外か。これじゃあ相手私たちが邪魔してるみたいだ。案外間違いでもなさそうだが。
すると、そこに一人の女性が来た。さっきは座っていたから気が付かなかったが、すらっとした体型が特徴的だ。それに、顔立ちも整いすぎていると思わせるほどの綺麗さをしている。美人だの可愛いだのと評判の一織ちゃん(本人談)でさえも敵わないだろう。
和那「ごめんね、騒がしくしちゃって」
響「いえ、いいんです。それより、あなたは…」
和那「和那。杉本 和那(すきもと かずな)よ。モデルをしてるの。よろしくね」
モデル、ということは、私よりも一織ちゃんが興味を抱きそうだ。さて、どんな反応をしているのか、と思ってその目を見ると、どことなく真剣な眼差しをしていた。そして、杉本さんにこう話しかけた。
一織「もしかしてですけど、ここにいた皆さんは、ある番組で共演したことがありますか?」
和那「え?うん」
一織「なるほど…響さん、蓮花さん、あまり大したことではないですが、多分もう一人追加で来ますね」
どういうことか分からなかったが、蓮花さんと初対面の時に話題が出た番組のことを言いたいのだろう。ということは、ここにいるのは全員が有名人な可能性が高いわけだ。私には関係ないが、蓮花さん、というか彼女の兄の紫陽さんは関係があるはずだ。
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