第3話
数日後、私たちは境界島へ向かうための船に乗るために、港へ行った。私は、ついこの間、ここを出た船の中で惨劇が起こったことを思い出してしまい、どうしようもない不安に駆られていた(第四作「マーメイド号の銃声」を参照)。
しかし、同行していない人にしてみれば、そんなことは悩むほどのことでもないようだ。
一織「あの船に乗れば境界島まで行けるということであってます?」
蓮花「そうなんじゃない? 」
一織「どうせなら、もっとしっかりとした理由で行きたかった…!」
今回境界島に向かう理由は、探偵としての活動がメインであるため、なんとなく言いたいことも分かる。
響「まぁ、ここでうだうだ言ってもどうしようもないし、とりあえず乗り込みましょうか」
乗り込んだ船は、私たちが乗ると同時に動き出した。安全性?多分考慮されていないだろう。
響「それにしたって、根室さんは大丈夫なんですか?仕事とか」
蓮花「大丈夫、私フリーターだから関係ないし」
響「なるほど」
向日葵「それよりも、妹ちゃんじゃない?妹ちゃん、名前はなんて言うの?」
一織「月影 一織です」
蓮花「一織ちゃん、一織ちゃんね。一織ちゃんは学校とかあるでしょ?それこそ休んだらまずいんじゃないの?」
そういえば、私たちの事務所に蓮花さんが来た時、一織ちゃんは制服を着ていた。学校が午前中に終わったんだっけか。
一織「心配しないでいいですよ。私、地頭すごくいいんで、ちょっと教科書読めばある程度は理解できます」
言いやがった。
蓮花「そうか。探偵だもんね」
探偵に対する信頼が厚い。やめてほしい。過度な期待なんてしないでほしい。
さて、そうして時間が流れて、ようやく境界島が私たちの前に姿を現した。
境界島。九州の長崎と熊本の間に存在する架空の島だ。厳密に言えば、私たちの世界には存在しているが、読者の皆さんの世界には存在しない。
そんな境界島だが、その名前の由来自体はシンプルで、「島原と天草の境界になる島」というものだ。その影響もあってか、島は北部と南部に柵で境界が作られていた時期もあったらしい。例えるなら、簡易的なベルリンの壁だ。
そして、境界島は二つの異名を持っている。
「教会島」と「恐怪島」。
「教会島」という異名の由来は、島に大きな教会があるからだ。実はこの教会が出来た時期についてはやや複雑になっているようである。
初めて教会が出来たのは、日本にキリスト教が伝来された戦国時代だとされているが、それについての資料が残っていない。資料に基づくなら、なんと戦後になるそうだ。
そして、もうひとつの異名、「恐怪島」について。この島には、とある恐ろしい怪物がいるとされている。
その怪物は、手には大鎌を持ち、大きな黒い羽を持っている。そして、その羽は、右には心を読む目があり、左には罪を見抜く目がついている。
もし、罪人がその怪物の前にでもいようものなら、生きて帰ることは不可能に等しい。怪物が望む通りの、残虐な方法で殺すのだ。それも、見抜いた罪に合わせた方法で。
例えば、他者に切り傷でも付けようものなら、全身を持っているバラバラにする。首吊り自殺をさせるきっかけを作り、さらに反省をしなければ、どこからか取り出した十字架に縛った縄で絞殺する。放火をした者には、魔力で焼き殺してしまう。
これらの伝説から、怪物は恐れられている。そして、いつの日かこう呼ばれるようになった。「黒い天使・アズリエル」と。
そんな島で、私たちは殺されるかもしれないのだ。私と一織ちゃんには主人公補正が働いているので他殺はされないが、それ以外の人なら殺されてもおかしくはない。
そういえば、今回呼ばれたのは何人いるのだろうか。さすがに蓮花さん一人だということはないはずだが。
船から降りた私たちは、蓮花さんの元に届けられた地図を頼りに島のコテージに行くことになった。その時見えた船の操縦士は、全身フードに狐のお面をしていた。不審者にも程があるだろ。
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