第2話

一織「それにしても、ずいぶんとひどいことをする人もいたものですね」


響「ひどい?この生首のこと?」


一織「それもそうですけど、これを送り付けるところのほうですね、私が言いたいのは」


響「確かに…」


完全に感覚がおかしくなっている。よく考えなくても分かることだ。誰かが殺したあとの死体の一部を別の人へ送り付ける。これがどれだけ酷いことなのか、これが分からない人のほうが間違いなく少ない。その程度のことだ。


ただ、作品としての都合なのだが、こうでもしないと私たちが事件に巻き込まれることもない。世間で「死神」と言われてバカにされるようなキャラクターは、あくまで作品の都合上そうなっているだけだ。


それはそれとして、なぜ死体を送り付ける必要があったのか、なぜ生首だけ送ろうとしたのか、疑問がいくつか生じる。状況にも疑問を抱けというところではあるが。


響「これって、お兄さんのところに送られてきたって言ってましたよね」


蓮花「そうだね。だから、あまり私もこのことはよく分からないんだけど…」


響「じゃあ、何かお兄さんは言っていましたか?」


蓮花「えーっと、そんな何も言われてないと思うけど…」


そして、蓮花さんは少し考えてから、「いや、ひとつだけあった」と言った。


一織「なんて言ってたんですか?」


蓮花「『これが届けられたのは俺だけじゃない』って。なんのことだかさっぱり」


響「俺だけじゃない?」


あまりにも予想外だったので少しばかり理解が追いつかなかったが、わざわざ生首だけが送られてきた理由が分かったかもしれない。


恐らくだが、何人かに死体のパーツを分けて送り付けたのだろう。たまたま根室 紫陽さんのところに送られてきたのが頭部だっただけだろう。


しかし、今度はこんなことが気になってしまった。紫陽さんと松原さん、二人にはどんな関係があったのだろうか?もしかしたら、度を過剰に越しただけの嫌がらせのつもりなのかもしれない。


芸能人同士である以上、接点があることは何もおかしくはないだろう。私が興味無いから何も想像がつかないだけで。


………いや、興味無いからという理由で無視できるものでもない。これはもしかすると、事件の解決に必要な情報を秘めているかもしれないのだ。


響「根室さん、教えて欲しいことがあるんですけど、いいですか?」


蓮花「いいよ。どうかしたの?」


響「お兄さんと松原さん、二人に交流ってあったかご存知ですか?」


蓮花「交流?プライベートは知らないけど、なんかの番組で共演してたはず」


一織「共演ねぇ…何かありましたっけ?」


蓮花「あったはずだけど、全く思い出せないや」


早くも事件が迷宮入りし始めたか?どうすれば解消できるだろうか。


一織「こうなったら、ネットで調べるしかないですね」


簡単なことだった。


一織「えっと、これですかね。『人気芸能人たちが1ヶ月シェアハウス生活してみた!』」


蓮花「あー、それか!」


何も分からない。動画配信の企画か何かか?


響「え、何それ」


一織「なんか去年やってたみたいですね。私は見てなかったですけど」


響「ふうん。それで、二人はそれで共演していたと」


一織「そうみたいですね。他の出演者たちも、すごく有名な人ばかりです。見とけば良かったかなぁ」


響「でも、それと今回の件とで関係があるかはまだ分からないな」


一織「根室さん、他に今回の件について、知っていることはありますか?」


蓮花「他?あ、そういえば、こんなのが箱の中にあったんだよね」


彼女はそう言って、一枚の紙を取り出した。

その紙にはこんなことが書かれていた。


???「貴様の元に現れた死体、それは罪人、松原に報いを与えたものである。何の報いか?貴様らが共同で生活をしたあの時のことだ。忘れたとは言わせない。


そして、貴様は罪人である。我はそう思っている。そこでだ、己の潔白を証明したいのであれば、我が住居、境界島(きょうかいじま)へと来い。


我が、直接、この目で貴様らの秘められし罪を暴き、罪深き者には相応の報いがもたらされるであろう。己の罪からは逃れられぬ。怯え、苦しみ、そして悔いながらの死を楽しみにしておくがいい。


我は『黒い天使・アズリエル』である」


これは、やはり松原さんを殺した犯人から送られてきたものに違いない。となると、私たちがすべきことは自ずと見えてくる。


響「ありがとうございました」


蓮花「どういたしまして、でいいのかな?」


一織「それで、どうします、響さん?」


響「どうするって、一織ちゃんはどうするか決めてるでしょ」


一織「あ、やっぱり分かっちゃいます?」


響「もちろん」


この時の私たちは、二人そろって探偵としての責任感が生じていた。


響「根室さん、境界島に行きましょう」


蓮花「え?嘘でしょ!?」


一織「いいえ、私たちは本気です」


蓮花「そっかー。じゃあ、お願いしちゃおうかな」


響「もちろんです。任せてください」


一織ちゃんがどうかは知らないが、私は既に嫌な予感を感じていた。誰かが死ぬと。


根室さんは問題ないだろうと思っていた。あくまでも芸能人の兄の代わりに来たのだから、犯人が殺すことはないだろうと、そう思っていた。


だから、余計に怖かったのだ。もしかしたら自作自演なのではと疑っていた。どれだけの人が狙われているのかということも恐れていた。そんな私を、アズリエルは馬鹿にしていたのだろう。

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