最終回

海「お前をこの手で殺すってな!!」


響「ちょっ、種子島さん!?」


種子島さんはそう言うと懐に忍ばせていたらしい、アイスピックを取り出した。


空「いやいや、なんの冗談だよ。そんなの、でまかせだろ!」


海「でまかせだって?ふざけてんのか!」


空「そうだろ。だって、俺はそんな殺されるような真似はしてないぞ?」


海「………このっ!」


空「そこまで言うなら、俺が何したのか言ってみろよ」


海「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


互いに冷静さを失った男同士の会話、その最後は復讐に燃えた者の残虐な殺人で終わるかと思っていた、のだが。


蘭太郎「ちょいと、頭を冷やせ」


剣持さんは種子島さんの腕を力強く握り、アイスピックを腕から奪い取った。そして、アイスピックを彼の懐に直した。


海「何するんですか」


蘭太郎「殺したい気持ちはよく分かった。しかし、だ。何でも暴力で解決できるほど世界は都合良くできちゃいないんでね」


空「は、ははは。どうだ。俺の正しさが証明されたな」


響「……そんなことはありませんよ。まだ、あなたには話をしてもらわなければ」


空「話、だって……?」


響「仮に種子島さんの発言が本当のことなのだとして、あなたが殺されそうになったきっかけがあるのでは?」


空「いや、んなもんないって。それよりさ、早くその殺人鬼を裁こうとは思わないのか?」


和那「ふざけんなよ…」


空「なんだって?」


和那「ふざけんなって言ってんのよ!」


一織「杉本さん?」


和那「さっきの話を聞いて理解したよ。あんただったのね、のあちゃんが死んだのも、つぼみと楓が殺されたのも、あんたと松原が原因だったんだね!」


空「そ、それは…」


和那「どうせ他にもたくさんの女の子狙ってたんでしょ?」


空「…………………」


和那「なんとか言いなさいよ!」


空「仕方ねぇだろ……!」


一織「仕方ないって……」


空「だってあいつと一緒にいればこっちが何もしなくても女から来るんだぜ?そんなの捨てる理由ねぇだろ?」


響「あなた、本気で言ってるんですか?」


空「そりゃもちろん。むしろ、あんたはどうなんだ、探偵。そんなチャンスがあったら手放さないよな?これが本能ってもんだ」


和那「あんたねえ!」


空「いいだろ!俺は世間的にも特別な人間なんだ、そのぐらいいいだろ。それだけの価値があるんだから。どっかのADとは違ってな」


響「……おい、もういっぺん言ってみろ」


私は花園の胸ぐらを掴んでいた。


一織「響さん!」


空「な、なんだよ、お前。何も間違いじゃないだろ」


響「間違いじゃない?そんなの幻想だ。命の価値はあんた一人で決めるもんじゃねぇよ!」


空「な、なんだよ急に」


響「自分を正当化して、自分のしたことを悪いと思わないのか!?」


空「悪いだって?お前に何が分かるんだよ。事実だろ。世間から求められる俺と知られていないあんた。どっちの味方が多いと思ってんだ」


響「この………!」


蘭太郎「もう落ち着け」


剣持さんによって私と花園は離されてしまった。


蘭太郎「ただし、勘違いするなよ。もうお前はおしまいだ」


響「一体、どういうことですか?」


蘭太郎「ほら、そこにいる、根室さん、だっけか?彼女が途中から動画を撮ってネットにあげたところだ。だいたい、ADの話題がでた辺りからは撮っていたな」


空「嘘…だ……」


蓮花「すみませんね。私の兄も芸能人なんで、教訓にしたほうがいいかと」


蘭太郎「というわけだ。諦めろ」


空「…………あぁ」


うなだれた。やはり、隠していた本性が露呈してしまったのだ。先にあるものは何もかもが黒く濁っているはずだ。もっとも、彼の自業自得であることは間違いないのだが。


海「それじゃあ、俺らはどうしましょうか」


蘭太郎「種子島 海、花園 空。二人にはもうしばらく付き合ってもらう。残りの四人については、軽く話を聞かせてくれればそれでいい。それが終わったら、各自帰ってもらって構わない」


いいのか?そんな適当で。


とは思ったものの、私たちが自分の意思で残る理由もないので、言われた通りに帰ることにした。これで怒られることもないだろう。多分。


そして、物語の最後は船の上での出来事になる。


一織「なんだか、嫌な事件でしたね」


響「やっぱり、事件が起きない、平和な日常がいいよ」


和那「君たちも大変だね」


蓮花「でも、二人がいなかったらずっと殺人鬼にビクビクしながら過ごしていたのかと思うと、依頼して良かったのかな」


一織「そうなのかもですね」


響「…………」


私は迷いがあったのだろうか。一人で考え込んでしまった。それを現実に連れ戻したのは、悪魔からの言葉だった。


和那「……あれ?誰か携帯鳴ってない?」


響「ん?あ、私ですね。すみません」


一織「……?」


響「はい、もしもし」


???「なるほど。あなたが種子島くんの殺人を見抜いた探偵、日野 響ですか」


響「!?だ、誰!?」


???「名乗るほどの者でもありませんよ。ただ、あなたには言っておかねばと思いまして」


響「言いたいことって…?」


???「今まで私が導いた殺人鬼の中でも、ここ最近のはあなたが解決することが多くてですね」


響「導いた、だって…?」


???「そこはどうでもいいです。ただ、今後とも私の可愛い子供たちがお世話になりますと、それだけです」


響「な、どういう」


私が質問をしようとしたタイミングで、電話を切られてしまった。逃げられたのだろうか?


一織「響さん、何だったんですか?」


響「……いや、大丈夫だよ。個人的な問題」


もし、さっきの電話の相手が、失われた私の記憶に関係しているのならば。だとしたら、私はいつか直接会うのだろうか。


恐怪島を後にして、私は先のことを考えていた。自分を待ち受けるのは、悲劇なのか、それとも大団円なのか。


私は本当にこんな人間なのか?


もしかしたら、島にいた本物の黒い天使・アズリエルは見抜いていたのかもしれない。そんなもの、実在するかも分からないが。

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断罪の探偵 5 恐怪島殺人事件 柊 睡蓮 @Hiragi-suiren

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