第24話
俺がのあと出会ったのは高校生の時だ。当時の俺はクラスの男子のノリに馴染めず一人でいることが多かった。そんな時、たまたま席が隣になったことがきっかけで話すようになった。
のあ「テストどうだった?」
海「まあまあかな。八十だった」
のあ「え?結構よくない?」
海「そうかな。そういう佐倉さんはどうなの?」
のあ「私?私は種子島くんより三点高かったよ〜」
海「マジか。いや、次は負けないから」
のあ「私だって頑張るからね。絶対次も負けないよ」
俺たちは二人で過ごすことが多くなった。一人だった俺に優しくしてくれたのがどうしてか気になっていたが、どうやらのあもクラスにあまり仲がいい同級生がいなかったらしい。だから、俺が友達になってくれたことが嬉しかったようだ。
その年の夏、のあに誘われて夏祭りに行くことになった。
のあ「ごめんね〜、結構待ったでしょ」
海「いや、俺もさっき来たばっか」
のあ「あれ、そうなんだ。じゃあ、行こうか」
海「あ、ああ」
その日は水色の浴衣を着ていて、普段は下ろしている髪の毛も頭の上で編み込んでいた。それに、化粧も俺がぱっと見て気が付かないところまでしっかりとしていた。
俺は私服のシャツを着ていっただけだった。彼女がそこまで気合いを入れてくるなんて考えていなかった。だったら、気持ちだけでも応えようと思って、少しカッコつけようとしてみた。
のあ「いいの?本当にたこ焼き奢ってもらっちゃって」
海「いいよそんぐらい。気にするほどのもんでもないから」
のあ「そっちが気にしなくても私は気になるの」
海「そこまでいうなら、なんか奢ってもらうわ。あそこのりんご飴とか」
のあ「へぇ〜、りんご飴か〜。可愛いじゃん」
海「俺には似合わない?」
のあ「そんなことはないと思うよ。ギャップ萌えってやつ」
海「それ似合ってるって思ってないだろ」
のあ「さあ?どうだろうね」
りんご飴を奢ってもらい、どこか休めるところに行こうということになった。しかし、明らかに人が増えていた。何故だろうかと思っていたが、すれ違う人の話からその理由がすぐに分かった。
男A「なあ、花火っていつからだっけ」
男B「あと二十分で始まる」
男A「マジかよ。まだ何も買ってないぞ」
男C「場所取りはしてるし大丈夫でしょ」
男B「それもそうだな」
海「そうか。もう花火の時間か」
のあ「種子島くん。こっちに来て」
そう言うと、手を強く握って走り出した。すれ違う人々とは全く反対の方向に、汗がダラダラと垂れてしまいそうなほどの暑さの中を走っていった。
着いた場所は高台の公園だった。遊具もなければ誰も人がいないような、ひっそりとした公園だ。
のあ「どう?ここなら誰もいないし、落ち着いて見れるよ」
海「本当だ。どうしてこの場所を知ってたの?」
のあ「せっかく友達と行くんだから、ゆっくりと過ごしたかったの」
海「そうか。佐倉さんも、今日が楽しみだったのか」
のあ「……ねぇ、これからはさ、お互いに苗字呼びなんてやめようよ」
海「じゃあ、なんて呼べばいい?『のあ』って呼び捨てでも」
のあ「いいよ。じゃあ、私も『海』って呼んでみようかな」
なんだか、今日ののあはやたらと積極的な気がする。気のせいだろうか?
のあ「あ、海、花火上がったよ!」
海「ほんとだ。でっか」
のあ「ね。綺麗だよね〜」
海「…そうだな」
なんとなくだが、彼女が積極的になっている理由は分かった。しかし、何がそこまで突き動かしているのだろうか。
のあ「花火、綺麗だったね」
海「そうだな。また来れるなら、来年も見に行きたい」
のあ「来年かあ……。ねえ、ちょっとこっち向いて」
海「どうかした?っ、んっ!?」
いきなり身体を強く抱き締め、唇を強引に合わせてきた。
海「えっ、え?」
のあ「ご、ごめん。急でびっくりしちゃったよね」
海「うん。なんでまたいきなり…」
のあ「もう、来年なんてないからさ」
海「来年がない?」
のあ「あ、病気なんかじゃないよ?ピンピンしてる。ただ、引っ越さないといけなくなって、この街に残れないの」
海「そんな、連絡すれば会えたりしないのかよ」
のあ「だったらこんなことしないよ。もう会うのは今日で最後なんだと思う」
海「……そうか」
のあ「って、もう遅くなっちゃったね。ここ駅から遠いし、急いで行かないと」
海「じゃあさ、はぐれたらいけないし手つなごう」
のあ「え?って、ちょっと〜!」
俺がやられたことと全く同じようなことをした。夜のうっすらとした光の中を互いに手を強く握りあって駆けていった。
海「ほら、電車、来てる」
のあ「そうだね。じゃあ、バイバイ」
海「また会う日まで」
のあ「最後に、一つだけ言いたいんだけど、笑わないで聞いてくれる?」
海「ああ、うん」
のあ「……………………好きだよ」
海「…………え?」
アナウンス「間もなく電車が発車いたします。閉まるドアにご注意ください」
ドアが閉まって、その姿は俺の目の前から消えてしまった。その後は何もないごくごく普通の人生を過ごし…………と思っていたのだが、ノリで部活の先輩とやった漫才がどういう訳かバズってしまいいつの間にかそのまま養成所に入ってしっかり卒業までした。
ここまでは語るほど面白いものも多くないが、ここから先は空想とでも言うべきことが起こった。それまでも大概すごいもんだが、ここから先の方が個人的には印象深い。きっかけはとあるバラエティ番組に出たことだ。とある、どこか見たことのある顔のADに、収録後に話しかけられた。
のあ「あの、少しお時間よろしいですか?種子島さんに用があって…」
海「俺?」
のあ「って、敬語使うのもなんだか変だね」
海「え、まさか、のあか?」
のあ「そうだよ。久しぶり。元気だった?」
海「俺は全然元気だけど。そっちこそ、こんなとこで何してんの」
のあ「仕事だよ。私ここのADなの」
海「そうなんだ。まあ、元気そうだし良かったよ」
のあ「あのさ、今から時間空いてる?」
海「今日はもう暇だけど」
のあ「じゃあ、今からご飯食べに行かない?」
海「いいよ」
そして、近くにあったファミレスに二人で向かった。
海「まさかこんなとこで会うなんて思っていなかった。びっくりしたよ」
のあ「私は嬉しいよ。会えるなんて思ってもいなかったからね」
海「そう?結構色んな番組出してもらえるし、会えそうだと思うけどね」
のあ「あんたは出過ぎなの。まだ二十五でしょ」
海「そりゃあそうだけどさ」
のあ「あ、そういえば花火のやつは十年ぐらい前なのか」
海「十年かー」
あの時は俺があまりにも未熟で気持ちに応えるなんて全く出来なかったが、今なら、出来るかもしれない。
海「なぁ、覚えてるか?例の花火の日、俺に告っただろ」
のあ「お、覚えてたの!?」
海「覚えてるよ」
のあ「恥ずかし〜。無かったことにして」
海「いや、そのことなんだけど…俺なんかで良ければ一緒にいたい」
のあ「え、つ、つまり…」
海「久しぶりに会っていきなりこんなこと言うのも変だけどさ………俺と付き合ってほしい」
のあ「…………うん!」
こうして、長い空白の期間が過ぎてすぐに俺たちは付き合うことになった。どうせならもっと早くこう言えば良かったんだろうな、とは思うが、のあの嬉しそうな顔を見ているとそんなことは悔いなくてもいいのかもしれないと思えた。
しかし、この時の俺は気がついていなかった。近くに欲を抑えきれない獣がいたことを。
麗「いいな、あの女。どんな顔するんだろうか」
楓「や、やめておいたほうがいいわよ」
麗「はぁ、ったくよォ、お前がいちいち口出しするんじゃねェ。分かったか?」
楓「で、でも」
麗「いいか?俺が欲しいって言ってんだ。今日はお前で我慢してやるよ。金もたっぷり出してやる。でも、お前はもう用無しだ。あの女、見てるだけでゾクゾクしちまうなァ」
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