第29話 悪い予感

 レイの焦った様子に全員が驚く。琥羽はレイを落ち着かせていた。



「い、言うから落ち着けって、レイ!」

「も、申し訳ありません……」



 リビングで話そーぜ、と琥羽はレイを連れて部屋に入る。皐達は心配した様子でレイ達の話を静かに見ていた。



「そんで震えるタイミングなんだけど、あんまり定まってないんだよなー」

「…………今日は震えたのですか……?」

「今日はね、桜樹と公園行ったっしょ?あん時ずっと震えてたんよ。別に震えるのは初めてじゃなかったし、まぁいっかって思って何も思わなかったんだけど……もしかしてやばい?」

「…………し、死ぬ可能性もないとは言えません……」

「死っ!?」



 レイのまさかの言動に琥羽達は驚く。皐は耐えられず、レイに思っていたことを恐る恐る質問した。



「ね、ねぇレイ。前から思っていたけど、そのお守り……なんの役目を担っているの?」

「…………ま、魔族から守る、役目……です……」



 思いもよらない返答に皐達はまた驚いた。確かにレイという女は人間では無いので自分たちと同じような生活を送っていない。感情もあまり無いのも普通の生活を送っていないのを推測するのも容易であった。



「ま、魔族って……え、俺なんでそいつらに狙われてんの?てか俺狙われてんの!?」

「こ、琥羽様には狙われやすい気質をお持ちです」

「ど、どういうことだよ……」



 琥羽が戸惑いながらレイに聞いた。



「……あまり詳しくは説明できません。ただ…………」

「ただ……?」



 レイはなにかを決心したような今まで見たことがない眼差しで琥羽を見つめた。その向けられた眼差しに琥羽はゴクリ、と喉仏を動かして息を呑んだ。



「……ただ、私が琥羽様のことをお守りします」



 ***



 あれから数ヶ月、レイの感情は少しづつ取り戻していった。そのおかげで、死んだような生気のない目から少し意思のある目に変わっていった。その変わりように皐や琥羽、隼、シエル、優莉は驚きつつも自分の子供の成長を見守っているような嬉しい気持ちにもなっていた。ただ1人を除いて――――。



「おわっ!!レイ!また震えた!」



「あ、レイ!また!」



「レーーーイ!!」



 あれからというものの琥羽はお守りが震える度にレイに報告するようになっていた。その度にレイは焦った様子で周囲を見渡す。だが魔族の姿は確認できた日はなかった。



「(……おかしいですね……。どこかに必ずいるはずなのですが……)」



 お守りは震えるだけで魔族の姿の確認はない。レイは少し怪訝けげんそうに頭の中で思考をフル回転させる。



「うぉぉ……。皐、見ろよあれ。レイのあの顔……なんか刺さる」

「何言ってんの」

「俺らが出会った当初はマジで焦点があってなかったっていうか、何考えてんのか分からんかったっていうか……」

「確かにあの時と比べたら全然違うわ。でも私たちからしても少なくても感情を取り戻してくれたのは凄く嬉しい。あのまま順調にいってくれたらいいのだけれど……」

「レイは俺らのことを守ろうとしてくれてんだ。なら俺らもレイのサポートしようぜ」

「……ふふっ、そうね」



 そう話していると、皐と琥羽はレイが1点を見つめていることに気づいた。



「おーいレイ!何見てんだよ〜!」



 琥羽が問いかけてもレイは目線を離さず、1点を見つめている。気になった2人はレイの元へ駆け寄り、レイが見ている方に目を移す。

 そこにはただの木々が生い茂った森だった。



「……お、おい何があんだよここに。なんもねぇぞ?」

「…………いる」

「……なにが」

「…………魔族」

「……まじ?」

「…………まじです」

「……え、やばいじゃん」

「……私、行ってきます」

「え、ちょ、おい!」



 琥羽は慌ててレイの腕を掴んだ。皐も不安そうな目でレイを見つめる。



「本気かよ……それ」

「……今行かなければ、また見失ってしまいます」

「……そ、うかよ……。俺はどうすればいい?」

「……家に居てください。お守りを持っている以上、魔族は琥羽様に近づくことは出来ませんので」

「わ、わかった……。」


 琥羽は納得していないようだったが、レイの指示通りに動くことを決めた。



「レイ、ほんと気をつけてね。レイの好きな肉じゃが作っておくから。絶対帰ってきてね」

「ほ、ほんと気をつけろよな……」



 不安そうにしている皐と琥羽を見たレイはなにかがプツンと切れた。そして皐と琥羽の姿があの時の不安そうにしている村の人と重なった。レイはふんわりと笑って、あの時の心優しい妖狐四天王のレイに戻っていた。



「……うん。楽しみにしてるよ、皐さん。待っててね、琥羽さん」

「「……………は/え?」」



 いつもと違うレイに困惑した皐と琥羽に背を向け、魔族のいる森の中へレイは消えていった――――。







「…………やっぱ心配!!!」



 琥羽達はレイに言われた通りに家に居る。



「気持ちはわかるけどここにいなきゃダメよ」

「……」

「ムスッとしてもダメ。それにレイを一緒に迎えようって隼さん達もいるじゃない」



 琥羽はそう言われて隼達の方へ目線を送る。隼はなんだ?というように首を傾げていた。



「そうだよなぁ……わかってんだけどぉぉ……。……桜樹はいねぇの?」

「え?桜樹はトイレに行くって言ってたけど……確かに戻ってきてないわね」

「うんこか?」

「私見に行ってくるわね」



 皐は桜樹の様子を見に、トイレへ向かった。



「桜樹〜?大丈夫??お腹痛いの??」



 皐は問いかけるが、桜樹からの返事は返って来なかった。ふと皐は電気のスイッチを見ると、電気のスイッチがついていなかった。皐はトイレのドアを開けてみる。そこに桜樹はいなかった。皐はリビング返事戻り、琥羽に伝える。



「琥羽……!桜樹がいないわ!?」

「うぇ!?なんでぇ!?」

「分からない……。電気もついてなかったの」

「なぁんでぇぇ……?」

「探しに行きたいけど、家に居てって言われてるし……探しに行けないわね」



 琥羽達は少し重い空気の中でレイと桜樹の帰りを待っていた――――。



 一方その頃、レイは魔族と対面していた。



「よォ、久しぶりだなァ、元妖狐四天王様よォ」

「お久しぶりでございます、リヒター様」

「……くくっ。お前、いい女になったな」

「……どういうことですか?」

「あー、そのままの意味だ。深い意味はねぇ」

「そうですか」



 重い空気がレイとリヒターを囲む。しばらく沈黙が続くと、リヒターが口を開いた。



「かかってこないのか?」

「今考えてるんです、静かにしてください」

「……?」



 すると、レイは目を瞑り、深呼吸をした。途端に、膨大なレイの魔力が溢れ出し、強風が吹き荒れ落ち葉でリヒターの視界を悪くさせた。



「っ!?……ふっはははは!いいぞレイ!!お前はそうでなくちゃなァ!!!」



 こうして、元妖狐四天王レイと元妖狐四天王を潰したリヒターの激しい闘いが再度、始まったのであった――――。

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