第9話 バーゲンセールでの思い出

 翌日、レイは太陽の光で目が覚める。いつもと違う景色に少し混乱を覚えたが、すぐに老夫婦の家だと理解した。レイは何をすれば分からなかったため、とりあえずリビングの方へ向かった。




「あら、おはようレイちゃん!ちょうど起こしに行こうと思ってたところなのよ」




 風美香ふみかはレイに笑いかける。




「そうだ。修治しゅうじさんを起こしに行ってくれないかしら。レイちゃんが起こしてくれたらあの人はどんな反応するのでしょうね。うふふ。着いて行ってみよ!」




 レイは風美香と一緒に修治の部屋に行く。そして―――




 コンコン


「………」




 返事がない。まだ眠りの世界にいるようだ。入っちゃえ、と言わんばかりの顔で風美香に見つめられたレイは恐る恐るドアを開ける。


 ドアを開けると、布団の中でくるまって寝ている修治がいた。風美香に目をやると、面白そうな顔でニマニマとレイを見つめて反応を楽しんでいる。レイは勇気を出して修治に話しかける。




「あ、あの。起きてください…」


「……ん゛ん゛ん゛…」




 起きない。困ったように風美香を見るとさっきと変わらぬ表情でレイを見ていた。もう一度声掛けてやってごらん、と風美香に言われたので先程よりも少し声を大きめにしてレイは修治に話しかける。




「っ、あの、起きてください。しゅ、修治…様…」


「………え?」




 風美香の好奇心によって、レイに起こされた修治の1日の始まりの第一声は“え?”となった。




 ***




 食卓を囲みながら修治と風美香は会話をする。




「まさか私の名前を呼ばれるとは思ってもいなかったよ。年寄りには心臓に悪いねぇ」


「修治“様”だってね。そんな大した人様だったかしら。うふふ」


「こんなに名前を呼ばれてウキウキしたのは初めてだよ。なぁ風美香、君もそう思うだろう?」


「うふふ。えぇ!」




 実はあの後、風美香にも名前を呼んでみてほしいと言われて、


「……風美香様…」


 というレイの姿があったらしい。




「(この方達は名前を教えると喜ぶだけでなく、名前を呼ばれるのも喜ぶのですね…)」


 とレイは心の中で思っていた。




 ***




 風美香によると、今日はお出かけをするらしい。どこに行くのか分からないので尋ねてみると、村で“バーゲンセール”というものをやっていてそこに行くらしい。




「風美香は買い物に関しては人一倍ずる賢くてね。こうやって安くなるのを待ってから買うのさ」




 と修治は付け足す。レイはよく分からなかったが安くなっているものを買おうとしているのはわかった。レイは出かける準備を進めた―――。




「さ、着いたよ。この賑わっている場所が全部セールしているところだよ」




 周りを見ると、色んなものが売られていた。服や鞄、生活用品や野菜などが並べられていた。そして家族や友人と一緒にこのセールに来ている人がたくさんいた。




「何か欲しいものがあったら言ってちょうだいね!」




 と風美香が発したところで、氷室家は売り場の中に方入っていった。


 老夫婦は村ではとても人気ということもあってか、知り合いに声をかけられることが多かった。店に行き着くと、“氷室さん!氷室さん!”という声がよく聞こえる。声をかけられる度に足を止めるため、1つの店につき、だいたい20分は足止めされる。


 昼頃になったのでご飯を食べようかと老夫婦はセールででている屋台に向かい、唐揚げを買った。そして修治は話す。




「とほほ…。やっぱり何回来ても声をかけられるのは慣れないね。まぁ人と関わるのはいい事だけども…」


「子供達が私たちの方に駆け寄ってくる時の顔…あれがたまらなく好きなのよねぇ。あの太陽みたいな純粋な笑顔で来られたら追い返せないわよ」


「それを分かってやってたりしてね。あはは」


「あらま、私はめられてたの?うふふ」




 その会話が聞こえていた近くにいる人達は


(あんたらが太陽みたいな笑顔してるだろ…)


 と心の中でつっこんでいた。レイは小さくバレない程度に溜息をついて老夫婦の会話を見守っていた。




「そういえば、欲しいものがあれば教えてと言ったけど、何も無かった?」




 と風美香はレイに問う。遠慮しないでいいのよ、と風美香はそう言った。


 実は気になるものがあったレイは少し考えてから、風美香を連れてその店へと行った。




 風美香と修治は色んな人に声をかけられながらレイの後を着いていく。そしてレイはある店の前で止まった。




『アクセサリー…?』




 老夫婦は口を揃えて言った。老夫婦は好きな物選んでいいよ、とレイに言うとレイはあるものを手に取った。それは5本の薔薇が掘られているブレスレットだった。それを2つ。




「……2つ?誰かとお揃いにするのかしら?」




 風美香はレイにそう聞くと、レイは何も言わずそのブレスレットを買った。そしてそのブレスレットを修治と風美香に手渡した。老夫婦は思いもしなかった。まさか自分達にくれるなんて。老夫婦はそのブレスレットを受け取り、自身の手首につける。そして、老夫婦は見合わせ、店の人に声をかけ、1つのブレスレットを買った。そしてそれをレイに手渡す。レイに手渡されたブレスレットにはサルビアが掘られていた。レイも自身の手首につけ、それをじっと見つめていた。




「レイちゃん。変なこと聞くけど、花言葉とか意識してるかしら?それならとても嬉しいのだけど」




 風美香がレイに問う。




「……だ、ダメだったでしょうか…」


「はぁぁぁ。君は私たちを喜ばすのが得意なようだね。ありがとう。とても嬉しいよ」


「うふふ。じゃあ、そろそろ帰りましょうか。レイちゃん、ありがとう。大事にするね」




 老夫婦とレイは売り場を後にした。






 花言葉


 5本の薔薇:あなたに出会えた喜び


 サルビア:家族愛

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