第二章 出会い

第6話 出会い

 ある老夫婦がいた。その老夫婦は器が広く、太陽のような温かい笑顔が特徴で、村の人達からとても愛されていた。その老夫婦は氷室修治ひむろしゅうじとその妻、風美香ふみかという。


 修治は天才有名作家として活動しており、風美香は専業主婦として過ごしていた。


 そんな2人にこんな噂が流れてきた。


 ―――山奥の神社に化け物がいる。―――


 老夫婦はどこまで優しいのだろうか。その“化け物”と言われている者を哀れに思った。老夫婦は心優しい。言い換えてみれば困っている人を見返りを求めず助ける神様のようだった。老夫婦はその噂をおおむね聞くと、噂の神社に向かった。




 ***




 老夫婦は手を取り合って山の中を歩く。歳は老いているのに体は元気だ。何か特別な運動でも食事でも取っているのだろうか。そう思わせるほどリズム良く軽々と歩いた。道はない。落ち葉で埋め尽くされ、見えなくなっていた。だが、聞いた話によると、まっすぐ行けば辿り着けることが可能らしい。


 少し歩くと地蔵を見つけた。老夫婦は地蔵の前にしゃがみこみ、拝んだ。


(怪我なく、無事に辿り着けますように)


 老夫婦は拝み終えると、また手を取り合って足を動かした。いつの間に現れたのか分からない目の前の神社に向かって―――。




 ***




 老夫婦は噂の“化け物”と呼ばれている者を探す。何処どこにいるのだろう。まず、どんな見た目で、どんな性格で、どんなことをしてくるのか。情報は何も無い。老夫婦はただ優しさと哀れな気持ちで探していた。


 だがどれだけ探しても見つからない。老夫婦は仕方なく来た道を折り返した。




 老夫婦は疑問を感じた。目の前に見た事のない川がある。川の水は澄んでいて、とても綺麗だった。少し休もうか、と岩を見つけたのでそこに向かう。すると、どういうことなのだろうか。そこには女が倒れていた。老夫婦は驚いて、その女に優しく声をかけた。顔は前髪で隠れて見えない。髪の毛はボサボサで着ている服もボロボロで破れて女は痩せ細っている。風美香が女に落ち着いた声で心配そうに聞いた。


「だ、大丈夫かい?とても汚れているわよ?」


「………」


 女はゆっくりと起き上がり、じっと髪越しに老夫婦を見つめている…ように感じた。


「風美香、この子どうしようか?」


「ん〜、どうしましょうねぇ。それにこの子、獣耳が生えてるのよ」


「……みんなが“化け物”って言ってたのはこの子のことなんだろうねぇ…。何もしてこないのに化け物呼ばわりされて…可哀想に…」




 修治がそう言うと、風美香と目を合わせ、太陽な笑顔で声を合わせてこう言った。


『うちに来るかい?』




 この日は春の暖かいポカポカした心地いい日だった―――。

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