第7話 老夫婦の家

 妖狐は老夫婦に連れられて、山を降りる。山を降りている間も、老夫婦は妖狐の手を優しく握ってゆっくりと歩いていく。山を降りている時も妖狐は表情を変えず、何も喋らず、ただ老夫婦に連れられていくだけだった。




 ***




 老夫婦が暮らしている村に着いた。村に着いても妖狐の表情は何も変わらない。


 村を歩いているので当然、村の他の人達の目にも触れる。




「あらま氷室さん!その子はどうされたの?」


 村の人が老夫婦に聞く。


「いやね、少し事情がありましてなぁ」


 と、修治しゅうじが優しく村の人に答える。


 では失礼します、と優しい笑顔で言うと老夫婦は妖狐を連れて自分たちの家へ向かった。




 ***




 妖狐が連れられて来たのは、少し大きめの木造建築二階建ての家だった。外見はとても綺麗で、花壇にはいろんな花が植えられており、立派に咲いていた。


 さぁさぁどうぞ中へお入り!と妖狐に一言声をかけて、まるでお姫様の執事かのように紳士的な行動で中に入った。その時の老夫婦は何故か楽しそうだった―――。




 中に入ると、廊下があり、右手に広めのリビングがあった。そして左手には、洗面所や風呂場などがあった。妖狐はまず風呂場に連れられ、風美香ふみかによってされるがまま体を綺麗に洗われていた。


「あらら、これはこれは綺麗な髪ね!」


 泥で汚れていた髪の毛が綺麗になったため、金髪がさらに美しく見える。


「前髪の下のお顔、見てみたいけどさすがに嫌なら強引には見ないわよ」


 すると、妖狐は風美香を見上げた。風美香は妖狐が怖がらないようにゆっくり前髪をあげた。


 紫色の目と目が合う。その目は美しく、そして、光がなく、生気がない。風美香は驚いた。焦点が合っていない。どこを見ているのか分からなかったからだ。この子には一体どんな過去があったのだろうか。そう風美香は思った―――。




 ***




 体を洗い終えると、誰のものか分からないが落ち着いた青色の着物を着せられた。


「うん!大きさはピッタリね!」


「君と大きさが合って良かったよ」


 微笑みながら老夫婦は妖狐に話す。


「……」


 妖狐はまた何も言わない。だが老夫婦はそんなことも気にせず、


「さぁ、ご飯を食べよう。風美香のご飯はとても美味しいんだぞ」


「うふふ。褒めても何も出ませんよ、修治さん」


 そう言って風美香は台所に行き、作業をしだす。


「さて、ご飯ができるまで家を案内するよ」


 そう言われたので、妖狐は修治のあとを着いて歩く。


 ここがリビング、ここが私たちの部屋、洗面所、風呂場、便所……そして


「ここが君の部屋だよ。ちょうど1つ空いていたから好きに使いなさい」


 そう言って修治は妖狐に向かって笑いかけた。


「ここは元々、私の女孫おんなまごが使っていたところでね。今は仕事で家にはいないよ。そして、今君が着ているその着物も、私の女孫おんなまごの物だ」


 じゃあ他行こうか、と修治は家の中の案内を続ける。すると妖狐は1つの扉をじっと見つめた。それに気づいた修治は


「あぁ、ここの部屋は私の男孫おとこまごが使っていた部屋だよ。今は女孫おんなまごと一緒に仕事をしている。まぁ、あいつの世話係みたいなもんだがね」


 と言った。そして、修治はこう続ける。


「2人とも、私たちの子供のような存在だよ。」


 と、愛おしそうに言った。本当に2人の孫を本当の娘や息子だと思っているのだろう。


「ご飯出来ましたよ!」


 風美香が修治と妖狐を呼ぶ声に2人は反応し、


「な?美味しそうな匂いがするだろ?風美香の料理は美味しいからな」


 と修治は嬉しそうな笑みを浮かべてリビングに戻った。

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