第26話 新しい村長

 妖狐四天王決定から数年後、村長に病が襲った。村の医師によると、もう年齢的にも長くは無いらしい。よって、新しい村長を決める必要があった。村長には子供は居ない。よって選挙をすることになった。村長になるのは人間、というのはルールであった。




「村長誰になんだろ〜な」


「村長って私たちと村長の同意があれば、一緒にお仕事もできるってことだよね?怖い人じゃないといいなぁ……」


「なぁに言ってんだよレイ。村長だし、そもそも選挙制なんだから村のやつに人気のあるやっさしぃ人に決まってんだろ」


「そ、そうだよね!余計な心配しちゃったな……」




 シンとレイは二人で村長の看病をしている。ジルとカムイは村の見回りをしているので今はいない。シンはベッドに横たわっている村長に声をかけた。




「村長さーん、なんか食えるもんある?」


「あまり食欲が……」


「そっかァ食欲無いかぁ……でも食わねぇとダメだぞ〜?あ、そうだ!俺目の前で焼肉食っちゃうぞぉ〜?それでもいいのかなぁ?」




 煽っているように聞こえるが、これもシンなりの気遣いだった。




「シンさん……不器用……」


「うっせ!こっちがアゲてかねーとどんよりしてたらそれこそもっとしんどくなっちまうかもだろ!?」


「あまりアゲすぎないでね……。逆に疲れちゃうから」




 村長はシンとレイの様子を微笑みながら見て、こう言った。




「では、卵とじを作っていただけますかね?」


「ふっ。お易い御用だぜ村長さん!」




 こうしてシンとレイは村長の看病を進めていった。






「あ、ジルさん!カムイさん!おかえりなさい」


「カムイ様が帰還したぞっ!」


「ただいま、レイちゃん!村長はどんな感じ?」


「特に問題ねぇよ!いつも通り食えてる」


「シン様の卵とじは美味しかったですよ。優しい味です」




 ジルは食べれてるようで良かった、とホッとした。




「それで、村はどうだった?異常なしか?」


「えぇ。今の所何も異常はなかったし、犯罪も起きてなかった。今日も村は平和でなによりですね」


「そか。良かった」


「…………妖狐四天王様に私から伝えておかなければならないことがあるのですが、よろしいでしょうかな?」




 ジル達は一気に村長の声に耳を傾け、村長のいるベッドを囲み、目線を合わせるためしゃがみこむ。




「次の新しい村長についてなのですが、私は逆巻さかまき紫雲しうんというとても若い男性だと予想しております。おそらく三十もいってなかったはずです」


「へぇぇ……三十しか生きてねぇんだ」


「シン、私たちと比べちゃダメですよ」




 へへっと笑って誤魔化しながら、シンは村長の話の続きを促す。




「彼に親はいません。ずっと小さい時から一人で生きておりました。その分、生き抜こうと考え、行動する力がございます。ですから、なにか問題にぶつかった時などは彼の力を借りるとよろしいかと思います」


「ほぅ……その紫雲とやらはわしより頭がキレるやつなのだな!会う時が楽しみじゃ!」


「わかりました。助言ありがとうございます!」




 こうして、月日が過ぎていった――――。








 選挙の日も終わり、結果は村長の予想通り逆巻紫雲に決定した。紫雲は、妖狐四天王の元へ挨拶をしに基地へ向かっていた。すると肩をトントンと叩かれ、振り向いた。




「急にごめんなさいね。えっと……逆巻紫雲さんで合ってるかな?」


「はい。貴方は……レイ様で間違いないですか?」


「あ、はい!えっと、今から基地へ向かおうとしてなかったかな?もし良かったら一緒にどうかな……?」


「よろしいのですか?ではお言葉に甘えて」




 レイと紫雲は並んで基地へ歩き出した。








「……………………でっか」


「会って一言目でそれですか……」


「ジル。目の前に何がある?」


「逆巻紫雲さんです」


「俺の目線の先にはこいつの首がある。しかも下の方。ちょいと下を向けば鎖骨だ。こんな理不尽なことあるかよ」


「シンも身長はある方だと思うけど……」




 シンは紫雲を見るなり、紫雲の身長について触れた。挨拶も無し。一言目が




「こんにちは。初めまして!一言目から失礼をおかけしました……。私ジルと言います」


「逆巻紫雲です。分からないことだらけですが、村のお役に立てるよう精一杯頑張ります」




 そう言って紫雲はニコッと微笑んだ。




「…………そして爽やかイケメン……勝ち組じゃねぇか……」


「シン様も素敵な男性ですよ。自信を持ってください」


「……ケッ……よろしくな」


「わしはカムイ様じゃ!よろしくな、小僧!」


「カムイさん!小僧じゃなくて紫雲だよぉ!ちゃんと名前で呼ばないと……」




 カムイにレイが軽い注意をすると、紫雲は軽く笑ってレイに言った。




「ふふっ、大丈夫ですよ。四天王様たちに比べたら我々はまだまだ子供のようなものです」




 紫雲の器の広さに驚くシンとレイ、それにやれやれ、と軽く横に首を振るジル、そして小屋の屋根に登り口笛を吹いているカムイであった――――。




 ***




 それからというもの、村はより一層発展し、村の人たちとの交流も、他の村との交流も進んでいった。




「俺ら物事進めるのうめぇな!」


「紫雲さんのおかげだね!」


「お褒めに預かり光栄です」


「ぐぁっ……!爽やかな笑顔……眩しいぜっ……」


「何を言ってるの……」

 レイはシンに突っ込みを入れる。するとすごい勢いで小屋の扉が開いた。目をやると、そこには息を切らしたジルとカムイがいた。




「ど、どうしたんだよ。そんなに慌てて……」


「大変じゃっ!これを見ろ!」




 シンはカムイから突き出された紙を読み上げる。




「来たる十月十日、村を堕とす。妖狐四天王諸君、お主らは我々の魔力に勝るのか、どれほどのものか……楽しみにしている…………は?」


「なんか、すごいことになってるね……」


「それ、差出人は誰からですか?」


「それが……書かれてないのじゃ」


「つまりどこから来んのかわかんねぇってわけだな」




 皆、黙り込んでしまった。何者がどこから来るのか分からないので、対策しようにもできない。すると、紫雲はある質問をした。




「我々の魔力……妖狐以外にも魔力を使う者がいるのですか?」


「えぇ。一応獣を魔物に変える魔族がいるという話は聞いた事がある……でも本当にいるかどうかは……」


「なら、おそらくそれも視野に入れておいた方がいいと思いますよ。小さなことでも対策をしておいて損は無いですしね」


「そうですね。では、作戦を立てましょう。村の人たちには他の村へ移動するように広めておきますわ」




 こうして作戦を立てる会議が始まった。




 これは村が堕ちるまで、あと十日のまだ平和だった時の話――――

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