第27話 戦い

 そして戦当日。妖狐四天王と村長の紫雲しうんは何者か分かりもしない敵を構えて待っていた。




「おい、敵はいつ来るんだよ」


「さぁ、分からない。でも今日なのは間違いないはず……」




 シンとジルは言葉にならないような緊張した雰囲気で待ち構えている。




「敵が来てもわしがすぐに片付けるから大丈夫じゃ!」


「そういう奴が1番先にやられんだよ」


「わしはやられんっ!」




 カムイがシンに対してふんっと怒ったように腕を組み、そっぽを向いた。すると……




 ドォォォォォン




 大きな音が村を襲った。音と共に地面が揺れ、シン達はバランスを崩す。




「…………来たか……」




 シンの目線の先にはたくさんの影があった。目があかく光る四足歩行の獣、頭に様々な大きさの角が生えた二足歩行の動物。たくさんの影はだんだん近づいてくる。近づいてくるうちにだんだんと姿がはっきりしてきた。




「な、なんで……!!」




 姿を見た紫雲は姿を見るなり、目を見開き青ざめた表情をした。紫雲は村長と言っても人間には変わりは無いから逃げろ、とシンは言ったのだが紫雲は村長だから、という理由で村に残っていた。




「村の奴らを逃がそうが、俺たちにはカンケーない事だ。紫雲。俺たちはお前を取り戻しに来たのだからな!」


「おい!紫雲!こいつら知ってんのか!?」




 シンが紫雲に説明を求めたが、紫雲は罪悪感とおそらくなにかトラウマがあるのだろう。とても青白い顔をしていた。




「……紫雲さん。大丈夫ですか?大丈夫ですよ。私たちが紫雲さんのことを守りますので!」


「…………す、みませ、ん……」




 紫雲はガタガタと震えている。その様子を見たジルはレイに指示をする。




「レイちゃん!紫雲さんをお願い出来る?」


「う、うん!わかった。紫雲さん!!こっち!」




 ジルはレイに紫雲を託し、目の前の敵に集中した。




「ほぅ……妖狐四天王様方が俺たちのお相手してくれるのだな?めいいっぱい楽しませてくれよっ!!」


「るせぇよ!紫雲はなにがなんでも渡さねぇぇぇぇぇ!!」








「ハァハァハァ」




 その頃、レイと紫雲はひたすら敵から離れようと走っていた。




「レイ様!もういいですよ!これは私が引き起こした事です!私が原因なんです!私が何とかしますから!レイ様はっ」


「うるさい!いいから早く離れるよ!」


「で、ですが!」


「紫雲さん。私たちがどれだけ紫雲さんのことを頼りにしてると思ってるか分かってる!?紫雲さんは居てくれなきゃ困るんだよ!私たちだけじゃない!村の人たちも紫雲さんのことを慕ってるし頼りにしてるし、信じてる!だから今は敵から逃げることだけに集中して!!」




 走りながら必死に伝えるレイに紫雲は目を見開き、そして微笑んでレイに返事をした。




「ありがとう、レイさん」


「!?い、今……」




 ドォォォォォン!!





 レイの話を遮るようにまた大きな音が鳴り響いた。すると前から多数の影が近づいてくる。




「あぁいたいたァ〜!ここに居やがったんだなぁ?」


「紫雲さん、下がってて。私がやる」


「君…………なるほどな。気が変わった。お前も連れて帰ろう」


「ど、どういうつもり?」


「そのままの意味さ。お前たち二人を連れて帰る」




 そう言って敵は構えをとった。そこでレイはあることに気づいた。




「…………ねぇ、もしかしてあなた……シンとジルと戦ってた人じゃない?」


「ん?あぁあの男か。あれはもう使いもんにはならねぇだろうなァ?そこら辺に転がってるぞ?女の方は活きがよかったなァ……。だが、欲しくはないな」




 レイは青ざめた。まさか二人がやられるなんて。




「そうだ、カムイさんは!?」


「あいつは魔物に変えたぞ?ほれ、後ろにいるだろう?」




 敵に言われて後ろを振り向くと、目を紅く光らせたカムイがよだれを垂らして唸っていた。




「か、カムイ、さん……?嘘でしょ……?」


「レイさん!レイさんだけでも逃げてください!」


「…………ごめん……私も一緒に行くことにする。村のみんな……ごめんね。ごめんなさい……」


「レイさん……すみません。私のせいで、村も四天王様達もこんなことに……」




 レイと紫雲は敵に連れられるまま歩いていった。こうして、妖狐四天王が中心に成り立っていた村は終わりを告げた――――。




 ***




 そこからは地獄の日々が続いた。敵のトップはリヒターというらしい。リヒターは紫雲とレイを奴隷のように扱った。










 ある日、紫雲が死んだ。拷問や詰問などの酷い扱いによるもので体がボロボロになり、怪我を負ったところから細菌が入り、感染して死んだらしい。これで、レイにとっての最後の心の支えになる人が居なくなった。




「妖狐四天王だというのに酷いツラだなァ……。まぁ、仲間が全てこの世から居なくなったんだ。無理もないか」


「…………」




 リヒターが話しかけているのにも関わらず、レイは虚ろな目をしてどこかを見つめていた。それを見たリヒターはレイに続ける。




「…………あいつの遺灰が欲しけりゃ実験室に来い。思い出の品ぐらいはお前にくれてやる」




 そう言ってリヒターはレイのいる地下から出ていった。








 レイは紫雲の遺灰を取りに実験室に行くため、暗い廊下を歩いている。その姿はフラフラしていて目に光が入っておらず、まるで亡霊のようだった。




「来たか……」


「…………」




 レイは返事をせず、ただ紫雲の遺体を見つめている……ように見える。リヒターは紫雲の遺体に火をつけた。そしてレイは燃え上がる炎の前で微動だにせずに立っていた――――。








 紫雲の遺灰を手に入れたレイはまた、先程歩いてきた廊下を引き返す。レイの手には紫雲の遺灰が入った小さな箱があった。レイは自分が閉じ込められている地下の牢屋に入るなり、箱を抱きしめてそのまま眠りについた。

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