過去篇 平和な時代と全てが崩れる夜

第25話 妖狐四天王

 約███年前。妖狐と人間が共に共存していた頃、ある村に男一人、女三人の妖狐が誕生した。女三人のうち、一人はとてもまれな遺伝子を持っていた。その妖狐の名前はジルと名付けられた。




 ***




 その妖狐達は産まれてから常に共にしていた。皆が物心ついた頃、ある儀式が行われた。




「これより、魔力讓渡式を始める。妖狐四天王候補者は前へ」




 司祭なのか牧師なのか分からないが、今回の儀式の司会を担当している男性が儀式を進めていく。隅には5人ほどの審査員もいた。司会の合図に従っているのは、魔力を保持するのに値する多数の妖狐たちである。その中には稀な遺伝子を持つジルを含む、例の四人の姿もあった。




「これから君たちには、この魔法石に手をかざしてもらう。すると色んな情報が審査員の元へ届く。その情報でこれからの妖狐四天王が決まる。…………ではさっそく始める。番号順に―――」




 いよいよ儀式が本格的に始まった。予あらかじめ配られていた番号に沿って順調に儀式が進んでいった―――。








 儀式も終わり、結果発表の時間となった。




「これより、神に選ばれし妖狐四天王候補者の発表を始める。」




 司会の男性の合図により、妖狐たちはもちろん、式に見に来ていた人間を含む者達も静かになる。




「魔力を保持するのに値し、神に妖狐四天王の資格を与えられた者は以下の者とする。…………シン、カムイ、レイ、ジル。名前を呼ばれた者は前へ」




 皆ある程度予想はついていたのだろう。驚く様子も見せず、ただ大きな拍手を送っていた。呼ばれた四人は司会の男性の元へ歩いていく。




「それでは、お入りください」




 四人はどこから出てきたのか分からない謎の大きな扉の中へ入っていった―――。







 数分後、大きな扉が開き四人が戻ってきた。その場に居た人は驚いた。扉の中へ入るまでの四人とは全く異なる雰囲気が出ていたからだ。すると、代表としてジルがその場にいた人に声をかけた。




「妖狐四天王を代表して、わたくしジルが皆様に伝えさせていただきます。私ジルは神から水の魔力、シンは火の魔力、カムイは雷の魔力、そしてレイは風の魔力を与えてくださいました。これからはこの力を使って、皆様の生活とこの村を守っていくと、ここに誓わせてもらいます。


 これからも私たちを、よろしくお願いいたします!」




 ジルの言葉の後、いつも通りの様子で安心したのかその場にいた人達はまたもや大きな拍手を送った。




「これにて、魔力讓渡式を終わる。解散!」




 こうして、妖狐四天王はジル、シン、カムイ、レイの四人となった。




 ***




 妖狐四天王には妖狐四天王にしか知られていない秘密の基地があった。それはエメラルドグリーンの綺麗な色をした大きな湖に浮かぶ小さな小屋である。中には小さなテーブルといくつかの箱が置いてあるだけだった。箱の中にはほかの村との交流に使った資料や交流をするのに送られた申し出の手紙などが敷き詰められていた。




「んで?この箱いる?ちょっとは整理ぐらいしていいんじゃねーの?」


「……そうね……でもどれが必要でどれが不必要なのか、判断はついているのですか?“シン”」


「…………んーや、全然わっかんね」


「では何も出来ませんね」


「物多いと俺イライラしちまうんだよォ……なんか判断できる奴いねーの?」


「あ、あの……村長さんに聞いちゃダメなのかな?」


「“レイちゃん”!“カムイ”の相手お疲れ様!」


「あ゛ぁ゛!?わしが相手をしてやっておるのじゃ!」


「はいはーいお元気な様子でなによりですよカムイちゃーん」




 カムイの女としては荒々しい口調にシンは胡散臭うさんくさい笑顔と返事をした。カムイはそれに舌打ちをする。そしてそれを落ち着かせるようにジルは話を進めた。



「それで、レイちゃんの意見なんだけど、私は賛成させていただこうかな。村長さんなら、今どういう問題に直面しているのかとか、どこの村と交流しているのかご存知でしょうしね」


「んじゃ早速行ってみっか!」




 こうして妖狐四天王は村長の所へ向かったのだった。








 俗に言う役所という所に村長はいるというので、妖狐四天王はそこに向かった。




「村長さーん!こんにちは〜!」


「これはこれは妖狐四天王様、こんにちは。どうかなさいましたかね?」




 役所の中へ入ると高年の男性が妖狐四天王を出迎えた。




「実は、私たちの基地に手紙や資料が敷き詰められている箱が沢山積まれているのですが、さすがに多すぎるので捨てようと話していたんです。しかしながら、私達にはどの資料が必要でどの資料が不必要なのか判断がつかず……。そこで、今この村はどういう状況で、どの資料がいるのかを教えて欲しいと思い、村長さんなら判断ができるのでは無いか、とここへ来たのです」




 ジルのとても丁寧な言葉遣いと説明に関心しながら、村長の男はこう言った。




「なるほど、左様でございますか。それなら、これを持っていくとよろしいでしょう」




 そう言って村長の男は分厚い本を五冊ほど渡した。




「この本には、今まで起こった出来事をつづった村の日記のようなものです。この日にどんなことが起きて、それはどのようにしていつ解決されたのかが記されております。なのでそれを見れば、資料が必要かどうかわかるでしょう」


「なるほど、つまりその本を見て解決されてたらそれに関する資料は捨ててもいいってことだな!」


「左様でございます、シン様」




 ふんっと得意げに鼻を鳴らすシンを横目に、ジルは村長の男にお礼を言って役所を出る。




「では基地に戻りましょうか」




 こうして妖狐四天王は五冊の分厚い本を大切に抱えて、基地へ向かった。








「さて、やりますか!」




 基地に着くなり、シンは気合いの入った声を口にした。




「うるさいぞシン!わざわざ言わなくても分かっておる!!」


「んじゃなんでお前は屋根の上にいんだよ」


「…………見張りじゃ!」


「要らねぇよ!さっさと降りてこーい」



 シンはカムイと、ジルはレイとペアを組んで書類などの整理を始めた。


 皆、丁寧に一つずつ色んな書類や手紙の内容と本に書かれている事柄を照らし合わせながら、必要なものと必要でないものを分けていく。




「ジルさん。これは解決済みだからそっちの袋に入れてもらってもいいかな?」


「えぇ、構いませんよ!」


「おいカムイ!てめぇそれ菓子の袋じゃねぇか!なんでまず今食ってんだよ!」


「腹が減ったからに決まっておるじゃろ!ブンベツもちゃんとしてるから別にいいじゃろ!」


「良くねーよ!お前どんだけカスこぼしてんのか分かってんのかよ!」




 順調に整理が進んでいるジルとレイに比べて、シンとカムイはあまり進んでいないようだったが、なんだかんだ言って整理はしているので許そうと思ったジルとレイであった―――。








「綺麗になりましたね!」


「やっぱり村長さんに聞いて良かったね」


「そんじゃ、基地も綺麗に片付いたことだし!」


「これから本格的にわしらが四天王としての役割を担う時がきたか!?」


「ふふっ!みんな、頑張りましょうね!」




 こうして、ようやく妖狐四天王としての仕事が始まり、村の人達との交流や仲をより一層深めようと決意した日になったのであった。

















※妖狐四天王:ある一定期間ごとに交代する。今回出てきたレイ達の村のみならず、ほかの村にも妖狐四天王が存在する。妖狐四天王になった者は村のトップになり、村の安全や取り組み、交流などその村のみに限らず、ほかの村とも交流する時に村のリーダーとして出向いたり、活動する役割を担っている。


人間は魔力を持てないので四天王にはなれないが、村の人からとても尊敬されていたり、評判が良かったりするとなれなくもないが、そのような人間は今まで居たことはない。




シン:男


ジル、レイ、カムイ:女

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