第14話 誕生日

 ―――冬―――




 冬になったので村の人達は手袋やマフラーをして寒さをしのいでいる。村を鮮やかに彩らせていた紅葉やイチョウも今では1枚も見当たらない。その代わり、雪が村を覆っている。子供がその雪で雪だるまや雪合戦をしている様子が見られた。


 今レイ達は、修治が孤児院に行って本の読み聞かせをしに行くのに車を使うのだが、車には雪が積もっていて動かせそうにないので3人で雪かきをしている。修治と風美香は雪かきを初める頃は元気だったが、どれだけ元気だと言っても歳には勝てず、今ではクタクタになっていた。




「はぁぁ。さすがに腰にくるわねぇ」


「少し休もうか。まだ時間まで余裕はあるからね」




 ほら、レイちゃんも少し休憩しよう、と風美香と修治は玄関のドアを開けて待っている。しかし、レイからすると、こんな雪かきという行動はレイの能力で一瞬で終わらすことができるのだ。レイは自分の能力で終わらせようとしていたが、就寝と風美香の目の前でやるのに少し躊躇ためらっていた。レイは迷った。このまま休憩して自分の能力のことを隠すか、能力を使って修治たちが雪かきをしないで済むようにするか。


 悩んだ結果、レイは修治どれ風美香の目の前で鈴を取り出す。修治と風美香はレイが鈴を使って何をするのか気になったため、そのまま静かに見ていた。レイは鈴を鳴らした。するとレイの後方には修治と風美香の家があるはずなのに、その後方から勢いよく風が車の方へ吹く。そして車の上に積もっていた雪を吹き飛ばした。修治と風美香は一瞬の出来事で混乱していた。だが、今レイが雪を吹き飛ばすまでの過程はよく見ていた。修治と風美香は礼に駆け寄った。




「まぁ!凄いじゃない!なになに?レイちゃんってこんなことできたの!?」


「いやぁ、驚いたよ。ありがとうねぇレイちゃん」


「いえ、申し訳ございません。初めからこうしていれば良かったものを…」


「いいのよそんなの!結果的には一緒だしね!」



 レイは安堵あんどした。そして修治と風美香と一緒に家の中へ戻っていった―――。




 ***




「そろそろ出るよ」


「えぇ。気をつけて行ってらっしゃい!」


「お気をつけて…」




 修治は薄い絵本をかばんの中にしまい、車を走らせた。




 することが無くなったレイはたまには外にでも出て、散歩をしようかな、と思い風美香に一声かける。




「風美香様。少し、外に出て歩いてきてもよろしいでしょうか…」


「まぁ珍しいわね。いいですよ!あ、夕飯の時間までには帰ってきてくださいね!」


「了解いたしました」




 レイは玄関から1歩外に出る。辺りは雪で真っ白だ。そしてレイは神社に向かって歩きだした。


 レイは昔の出来事を思い出しながら神社に向かう。ある時は兵士が。ある時は青年が。ある時は女性が。ある時は少年が。色々な人がレイのいる神社に訪ねてきた。その度にレイは彼らをレイの能力で村に返していた。なのに行方不明になっている人がいる。野生の動物に襲われたのだろうか。それとも村で事件に巻き込まれたのか。レイには分からない。そんなことどうでも良かったので考えるのをやめて、レイは鳥居の下をくぐり抜けた。




 神社はレイが老夫婦に連れられた日の様子と全く変わっていなかった。変わっていることと言えば、雪が積もっているか積もっていないかだけの違いであった。レイは本殿の中へ入り、横になって目をつぶった―――。




 ***




 レイは夢を見ている。周りを見渡すと墓を見つけた。レイはその墓に駆け寄る。そこには、“逆巻さかまき之墓”と掘られていた。レイはその墓を優しく撫で、墓の後ろにしゃがりこみ、墓に体を預け、目をつぶった。




 レイは目を覚ます。本殿の外に出ると、辺りは薄暗くなっている。レイは老夫婦の家に戻った。




「ただいま戻りました…」


「おかえりなさい!ちょうど夕飯を作り始めたところなのよ。まだ少し時間がかかるし、まだ修治さんも帰ってきてないから、ゆっくりしてちょうだい!」




 そう言われたので、レイはソファに座り、テレビの画面を何となくボーッと見ていた。

 しばくすると、修治が帰ってきた。修治はかばんを自分の部屋に一旦置いてから、リビングへ向かった。




「ただいま。どこに行ってもクリスマスの飾りつけで賑わっていたよ」


「おかえりなさい!もう冬ですものね。もう1年が終わるのねぇ…早いわねぇ…」


「あぁ一瞬だったね(笑)」




 そう言うと、修治は何かを思い出したように固まった。




「どうかしたの?修治さん」


「レイちゃん……。君の誕生日はいつなのかね…?」




 風美香はあっ…というようにレイの方を見る。




「…忘れました…」


「待ってちょうだい。忘れた…?」


「誕生日なんて何年も祝われていないので…。……でも確か雪が降っていた時期だったと…。正確な日にちは分かりません」


「そうか…。でもまだ間に合うね。雪が降っていた時期となると、ちょうど今だからまだ誕生日は過ぎてないと思っても間違いではないだろうね。……おそらく」


「ちょうどクリスマスも近いから、その時に一緒にお祝いしましょうか!あ、でもちゃんと日にち思い出したら言ってちょうだいよ!」


「はい…」


「それじゃあ夕飯食べましょうか!」




 こうして、レイたち3人は夕飯を食べた。




 ***




 レイは風呂に入っている。




「(誕生日…ですか。私の誕生日を祝ってくれた方なんて、あの4しかいませんでしたね…)」




 レイはふと自分の腕を見る。そこには斬られた傷があった。風美香に洗われていた時は能力で傷を消していたが、ありのままの姿となると傷痕が体のそこらじゅうにある。特に1番大きな傷となると、背中になるだろう。背中には大きな烙印らくいんがある。一時期は奴隷として生かされていた。その時に付けられたものがその背中の烙印だ。辛くなってしまうので思い出すのはやめようと切り替え、風呂から上がった。


 リビングに入ると、風美香に話しかけられた。




「レイちゃん!明日私と修治さんで買い物に行くけど、レイちゃんはどうする?」


「あ、私は…結構です。部屋でのんびりしておきます」


「そう。わかったわ!じゃあ明日、留守番お願いするわね!」




 そう言って風美香は明日の支度を進めた。修治は部屋で小説の執筆をしているらしい。レイは特にすることもないので、部屋に入り、布団に潜った。




 ***




「じゃあ行ってくるわね!」


「レイちゃん、なにかあればリビングにある固定電話ですぐに連絡するのだよ?」


「承知いたしました。お気をつけて」


『行ってきます!』




 レイはいつも通り修治と風美香を見送り、自分の部屋へと戻った。しかし、その日を境に修治と風美香の“ただいま”を聞くことは無くなった。誰も、村の人たちも、琥羽も、皐も、そしてレイも。あんなことが起こるなんて、思いもしなかった―――。

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