第20話 琥羽と皐とレイの初めてのお出かけ

 レイは部屋から出ていこうとする琥羽を呼び止めた。渡したいものがある、と。琥羽はなんだろうと思い、足を止めレイと向き合う。レイはある物を琥羽に手渡す。




「こちら、持っていて頂けませんか…?」




 そう言って手渡した物は少し古めの小さな御守りだった。袋口には小さな鈴がついている。琥羽はそれを不思議に思いながら受け取った。




「おう…いいけど。これなんの御守りなんだよ?なんかすっげぇ古そうでこことか結構解ほつれてっけど…。」


「なんの御守りかは言えませんが、持っていて欲しいのです。」


「……俺が?」


「はい…。」


「……う、うす。じゃあとりあえず解れてるとこは皐に縫い直してもらうけどいいか?」


「はい。問題ございません。」




 じゃまた飯の時呼ぶわ、と琥羽はレイの部屋から退出した。




「(これで大丈夫、ですかね…。)」




 しばらくすると、下の階から琥羽の声が聞こえる。




「レーーーイ!飯ぃぃぃぃ!!」


「す、すぐに向かいます。」




 レイは部屋から出て、琥羽と皐のいるリビングへと向かった。




 ***




「どう?美味しい?」




 レイは皐の問いかけにコクリと頷いた。




「良かった!これおばあちゃんから教わったの!」


「あぁ、お盆の時肉じゃが教えてくれって言ってたなそういや。」


「肉じゃが…。」




「(そういえば以前にも食したことがありましたね…。)」




 あれから結構練習したのよ〜とフフンと鼻を鳴らしながらレイを見る。レイは以前と変わらず黙々と食べていた。




「そういえばレイちゃん、このお守りのことなんだけど…。」




 そう言って皐はレイにお守りを見せる。解れていた所は綺麗に縫い直されていた。




「このお守りはどこに置いておけばいい、とかある?」


「いえ、琥羽様がお持ち頂いていれば大丈夫かと。」


「了解。琥羽、無くなさいでよ?」


「任せろっ!」




 そう言って琥羽は自分の胸元にしまった。




「あ、風呂は洗面所に置いといていい?」


「そ、それはそうしてください…。」




 それくらい考えたらわかるでしょ、と呆れながら皐はレイと琥羽の会話を聞いていた―――。




 ***




「なぁなぁ!レイって明日暇!?」




 夕飯を終え、レイと皐がゆったりしている所に琥羽が話しかけてきた。




「い、いえ特には…。」


「まじ!?じゃあさ、明日着物買いに行こーぜ!もちろん皐もな!」


「……レイのためだからね?」


「…あ、あの…?着物はこれで十分ですけど…。」




 そう言ってレイは自分が今着ているかつて皐が着ていた青い着物のすそを持ち上げる。しかし琥羽は納得していないようだった。




「だ〜め!それしか持ってねぇんだろ!?じぃちゃんもばぁちゃんも事故に遭った日に買い物行ってレイの着物を買ってきてたみてぇだけど、それも事故で袋ごとぐしゃってなってて変なとこに挟まって抜けませんって警察に言われて、結局着物同じの二着しか持ってねぇじゃねぇか。」



 そう言われてレイはズバッと事実を言われなんとも言えない顔になってしまった。皐は確かに…と納得しているようだった。




「ってことで!レイの着物を買いに行こう!って話なんだけど、どう?」


「いいんじゃない?なんなら髪飾りも買ってみたらどう?」


「……では、お言葉に甘えて…。」


「ふふん♪決まり!」




 そういえば以前もこんなことありましたね、と思いながらレイは明日を来るのをのんびりと待っていた―――。




 ***




 ―――翌日―――




 レイ達3人は衣類や小物、生活用品などが立ち並ぶ所に来ていた。たくさんの人で賑わっており、レイは老夫婦とセールの売り場に行った時のことを思い出していた。




「おっし!じゃあとりあえず着物んとこ行くか!」




 そう言って琥羽は楽しそうに着物屋へ向かった。




「なんで琥羽が1番楽しんでんのよ……。」


「(琥羽様もなにか欲しいものがあるのでしょうか…?)」




 レイと皐は子供のようにはしゃぐ琥羽の後を着いていった―――。










「…………」




 突然琥羽が立ち止まった。レイと皐はそれを不思議そうに見つめる。すると琥羽が下を向きながらレイと皐に向き直り、こう呟いた。




「なぁ、着物ももちろん買うけどさ…。その……あの…。」


「なによ、さっさと言いなさいよ。」


「……着物もいいけど、ドレスっていうかワンピースっていうか…そっち系もいいんじゃないかって…今、思った。」




 予想外の言葉に皐はうわ…と引いたような反応をした。レイは訳も分からず、大人しくしている。しかし少し間が空いてから皐は指を鳴らし、こう言った。




「いいわね、それ。」


「だっよっなっ!!だと思ったッ!」


「レイ、着物は後にしましょ。ドレス見に行くわよ。」


「なんなら着物じゃなくて、これからドレス一択で行くか!?」


「いや、一応着物も買うわ。色んなレイが見られるからね。」


「ふっ。分かってんじゃねーか。さすが俺の妹なだけあるぜ。」


「(この時だけ気が合うのは何故なのでしょう……。)」




 レイは皐と琥羽に手を引かれ、足早にドレスを見に向かう。




「(それにしても、ドレス……私に似合うのでしょうか…。)」




 少し不安になりながらも、レイは皐と琥羽に連れられて着いていくのだった―――。








「うぉぉぉ!着いたぁぁぁ!」




 売り場に着いたレイ達はドレスの種類の豊富さにワクワクしていた。さすがのレイもその種類の豊富さには驚いている。




「さて、レイ。似合うと思うドレス持ってくるから待っててちょうだい!」


「俺も似合うと思ったやつ持ってくる!」




 こうしてレイの着せ替え大会が開幕した。










 レイは琥羽と皐が選んできたドレスを片っ端から腕を通していった。これも違う…あれも違う…。琥羽と皐はあまりしっくりきていないらしい。うーんどうしたものか、と頭を捻らせる。琥羽と皐曰く、レイのキャラに合うものが無く、近頃は派手なものが流行り始めており、落ち着いた色のドレスがないため、ピンと来ていないようだ。




「仕方ない。違う店行くか。」


「あ、あの。そんな必死にドレス探さなくても、私はお気持ちだけでも嬉しいので……。」


「ダメよ。ドレスの件に関しては絶対しつこいくらい探し回るって決めたのだから。レイも気になるお店とかあったらちゃんと言うのよ?いいわね?」


「…は、はい。」




 そうして、レイ達3人は一旦店を出て、着物屋の方へ向かい、着物を買うことにした。

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