第19話 手紙〜レイ〜 そして新しい居場所へ

 レイは老夫婦からの手紙を読み始めた。




『レイちゃん


 まず、君の意見も聞かず家に連れて帰ってしまって、すまなかったね。しかし私達は君を連れて帰って良かったと思っているよ。私達に色々なことを体験させてくれてありがとう。名前を呼んでくれたり、ブレスレットもくれたりとても幸せだよ。


 レイちゃん。私達からのお願いを聞いてくれるかね?いや、約束と言った方がいいかな。これは、私達がレイちゃんを拾った立場としてでは無い。君を1人の人として、思う願いだ。レイちゃん。あまり自分を思い詰めないで欲しい。自分を大切にして欲しい。もし、それでも辛くなって消えてしまいたいと思った時は、必ず琥羽や皐を頼ってくれ。レイちゃんには“人を頼る”ということをして欲しい。そして、琥羽と皐にはレイちゃんの過去を話してやって欲しい。もちろん言えるようになってからでいい。あまり、無理しないでおくれ。約束だよ、レイちゃん。


 私達と出会ってくれて、ありがとう。』




 レイは一通り読み終えると、静かに手紙をしまった。このまま行けば、レイは琥羽と皐と一緒に暮らすことになるのだろう。レイはそう思った。




「すみません。少し、神社の方へ行ってきてもよろしいでしょうか。」


「?えぇ、いいけど…。17時半には帰ってきてね。もうちょっとで整理し終わるから荷物がまとまり次第、私達の家に一緒に帰る予定だからね。」


「承知致しました。」


「気をつけてなー!」




 そしてレイはいつもの森にある神社へ向かった。




「何するつもりなのかしら。」


「さぁな。俺たちにはなんもわかんねぇよ。好きにさせてやれ。」


「そうね…。」




 ***




 その頃、レイは神社に着いていた。頭上には小鳥が飛んでいて、森の空気はとても澄んでいた。レイは神社の鳥居をくぐり、本殿の中へ入る…かと思いきや、そのまま通り過ぎてしまった。レイはそのまま森のさらに奥に歩いていった―――。




 レイは大きな湖の前で立ち止まる。その大きな湖は綺麗なエメラルドグリーンの色をしていた。そしてその湖に浮かぶ小さな小屋に向かって伸びる橋を渡り、その小屋に入っていった。




 ***




 中に入るとそこには、小さなテーブルといくつかの箱のみ置かれていた。その中でレイは1つの濃い青色の箱を開ける。濃い青色の箱の中には、老夫婦と同じように古い手紙がたくさん敷き詰められていた。レイはその1番右端に老夫婦からの手紙を敷き詰めた。




「(もう、これ以上は入りませんね…。)」




 レイはふぅ、と息をつくと、ある分厚い本を手に取って小屋の外に出た。


 レイは小屋の外に出たあと、“逆巻之墓”と掘られた墓の前に座っていた。




「……紫雲しうん…。相変わらずここは静かですね。あの事件が起こるまでは、騒がしいぐらいだったのに…。」




 レイの声は落ち着いているのに、とても大きく聞こえた。レイは少し俯き、悲しそうに言う。




「…未だあの3人は見つかっていません。だからと言って、死んでいるとも言いきれない…。彼らの遺体はまだ見つかってないから…。


 彼らは今、どこで何をしてるのでしょうね……。」




 また来ます、と言ってからレイは立ち上がり、ゆっくり老夫婦の家に帰って行った―――。




 ***




「ただいま戻りました…。」


「おう!おかえり!こっちももう整理終わってるからいつでも出れるぞ!あ、皐は今便所。」




 家の中はもうすっからかんになっていた。ダイニングテーブルやテレビ等の大きなものは先にトラックで運んで貰ったらしい。仕事が早いな、と思いながらレイは皐を待つ。




「ごめん!遅くなった!あ、レイちゃん、おかえり。」




 レイは浅くお辞儀をする。




「そんじゃ、帰るか!」




 そうして3人は老夫婦の家を後にした―――。




 ***




「ってわけでぇ〜?俺らの家、“括弧かっこほぼ職場括弧閉じる”、へ〜ようこそぉ!」


「その“括弧”とか要らないでしょ……。」


「……事実だもん…。」




 はぁ、と息をついて皐はレイと向き合う。




「ここが、レイの新しい家よ。これからよろしくね、レイ!」




 レイは皐のその言葉を聞いたあと、ゆっくりとお辞儀をした。それはまるで、はかなく、すぐに消えてしまいそうな、美しい姫様のような姿だった。その姿に琥羽と皐は息を呑む。レイはその2人の様子を見てキョトンとした。




「あ、あの…?なにかついてますでしょうか…?」




 レイの声で2人はハッとした。




「い、いや、別になんもねーよ。」


「……?」




 琥羽の少し乱暴な言い方でさらにレイは首を傾げる。




「……今のレイのお辞儀が、とても綺麗だったのよ…。それを私達は見とれてたってわけ!」


「はっ!?おい、皐!」


「ん〜?なぁに?琥羽?何か都合の悪いことでもあるのかしら?」




 そう言って皐は琥羽の顔を見ながらニヤニヤとしている。琥羽はそれに反論する。




「いや、そんな簡単にき、綺麗だとか言えねーだろっ!?」


「あら?琥羽って前レイに『あぁ。お美しいお嬢さん。良ければこのあと食事に…』って言ってたでしょ〜?」


「い、いやあれはノリだから!」


「なるほど?つまり琥羽って人はその場のノリで誰にでも美しいとか言うような軽ぅい人なのねぇ〜?」


「んんん待ってごめんってぇ!」




 レイはほぼ空気のような状態になっていた。




「(これからちゃんとついていけるでしょうか…このテンションに……。)」




 レイは大変になりそうだなと思い、はぁと小さくため息をついた。




「ほら琥羽!レイがため息ついちゃってるよぉ〜?」


「っだァァァ!皐!お前は一旦黙れ!………ふぅ。レイ、その…き、綺麗だ、ぞ…。」


「あ、ありがとうございます?」




 そして琥羽は照れてぶっ倒れた―――。




 ***




 ここがレイの部屋よ、と言われ1つの部屋にレイと皐は入る。壁の色は落ち着いた白色で、落ち着いた色のカーテンが開いた窓から入る風でなびいていた。




「ありがとうございます。」


「一応ここにレイの部屋にあった物全部入ってっから、レイの好きなように部屋づくりしときなよ。飯んなったら呼ぶからさ!」


「承知致しました。」


「なにか手伝って欲しいことがあったらちゃんと言ってね!」




 じゃ、頑張ってねぇ!と琥羽と皐はレイの部屋から出ていく。それからというもの、レイは黙々と自分の部屋づくりを進めていった―――。






 ―――コンコン




「レイ〜!ちょっと開けていいかー?」


「?はい。」




 入ってきたのは、琥羽だった。




「これレイの?」




 そう言って目の前に差し出してきたのは、錆さびたバッジだった。レイは驚いてそのバッジを受け取る。




「あ、あのこれ…どこに…。」


「なんか俺んとこに入ってた。」


「あ、ありがとうございます。感謝致します。」


「おう!でもこれなんだ?狐?」


「…それは私の身分を表すものでございます。」


「へぇそんなんあるんだ。……これ小説のネタに使えんじゃね?」


「使えるのなら、使ってよろしいのでは……?」


「おう!そうする!ありがとな!」




 そう言って琥羽はレイの部屋を出ようとする。しかしレイはそれを引き止めた。




「あ、あのっ!わ、渡したいものが…ございます。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る