第三章 新たな家

第18話 手紙〜琥羽、皐〜

 レイは琥羽の後を着いていきながら老夫婦の家に戻った。




「おかえり!」




 玄関の扉を開けると、そこには皐が笑顔でレイと琥羽を迎えていた。レイは勝手に家を出ていってしまったことに申し訳なく思い、皐と目を合わせられずうつむいてしまった。レイはそのまま履き物を脱ぎ、恐る恐る皐の元へ行く。




「もぉ、心配したじゃないの。」


「も、申し訳ありません…。」


「…はぁ。いい?よく聞いて。私たちは別にレイのことを邪魔だとか迷惑だとか思ってないの。だから、あまり自分を追い詰めるようなことは思わないでちょうだい。」




 そう言って皐はレイのことを強く抱きしめた。レイは自分が勝手な思いをして、自分勝手な行動をしたことを振り返り、反省した。明らかにレイの表情がシュン…となっていたため、琥羽はぷっはっはっはっは!と笑いだした。レイは琥羽が急に笑いだしたため、困惑した。




「あっはははは!レイwwお前www表情豊かになったか?良かったわwwあっははは!死ぬ、腹痛てぇwwww」


「ちょっと琥羽!レイが反省してるのに!」




 とか言いつつも、少し笑いながらレイの頭を撫でている皐。レイは琥羽と皐が落ち着くまでのしばらくの間、ずっと戸惑っていた―――。




 ***




 ―――翌朝。




「おっし!遺品整理すっか!」


「琥羽、あなた昨日まですっごい奈落の底に落ちてるみたいな顔してたじゃない。昨日の今日でこれだけ立ち直れるのすごいわね……。」


「………」




 昨日身内が死んだとは思えないくらい、琥羽の高いテンションに皐はドン引き、レイは何も言わず静かに困惑していた。




「(なかなか、着いていけませんね……。)」




 レイ達3人は老夫婦の遺品整理をし始めた。




「うぉ!これじぃちゃんとばぁちゃんの若い頃の写真!?……意外と顔整ってんな…。」


「そうね。」


「え!?これじぃちゃんとばぁちゃんの結婚式の写真だ!!……あ!これじぃちゃんのパイプ!…こればぁちゃんの本じゃねぇk」


「琥羽。うるさい。」


「……あぃすんません。」




 相変わらずだなぁと思いながら、レイは老夫婦の遺品をダンボールの中に種類ごとに分けて入れていく。




 その作業を3人で繰り返していると、いつの間にか昼過ぎになっていた。そろそろご飯を食べようかと遺品整理を1度中断し、昼ご飯は何がいいかを3人で決める。この日は老夫婦の行きつけだった店に行くことになった。




 カランコロン




「いらっしゃ……あぁ、琥羽くんと皐くんか。もう、大丈夫なのか?」




 店に入ると、1人の中年男性が話しかけてきた。そしてそれに琥羽が答える。




「うん。意外と心の整理ついてるっぽいわ。俺も皐もレイも見ての通り意外と落ち込んでないぜ。」


「…目はすごく腫れているがね。」


「…やっぱり?」


「あまり無理をしない方がいい。琥羽くんも皐くんも仕事とか色々あるのだろう?」


「うん。ありがとう、古賀こがさん。」




 琥羽は話し終えると、先に席を取っていた皐とレイの方へ向かう。そしてそれぞれ注文するメニューを頼み、料理が出てくるのを待つ。




「はい、お待ちどうさん。」




 料理が出てきた瞬間、美味しそうな匂いがふわっとした。




「うっひょぉ!いつ来ても美味いわ〜。」


「まだ食べてないでしょ。」




 美味いもんは美味いから食ってなくても美味いの!と意味がわからないことを言い、琥羽はパクパクとご飯を口に運ぶ。それを見た皐とレイもご飯を食べ始めた。




 ***




 料理を食べ終えた3人は料金を支払った後、遺品整理の続きをするために、また家に戻った。そして午前中とは変わらない様子で3人は遺品整理を始める。


 皐が整理していた押し入れの中から1つの小さな箱が出てきた。念の為、皐は箱の中身を確認する。すると、そこにはたくさんの手紙がびっしりと敷き詰めてあった。皐は1番右端にあった手紙を何となく手に取り、差出人と宛名を確認した。




 差出人:氷室 修治、風美香


 宛先:レイちゃん




 皐は少し慌てた様子でレイに手紙を渡す。




「レイちゃん、これ…。」




 レイは少し驚くが、イマイチそれが何なのか分かっておらず、首をコテンと傾げた。それに気づいた琥羽は皐とレイの所へ駆け寄る。




「おい、それなんだよ。手紙?誰からのやつ?」


「おばあちゃんとおじいちゃんから、レイ宛になってる。」


「ほぇぇ。いいじゃん、読んでみろよ。」


「それが…この1枚だけじゃなくて、あの箱にびっしり入ってるのよ。」




 そう言って皐は琥羽に箱の中を見せた。まじかよ…と琥羽は驚きを隠せず、じっと箱の中に敷き詰められた手紙を見つめていた。しかし、ここで琥羽はあることに気づく。




「なぁ、この1枚だけ赤いのなんで?」




 確かに他の便箋の色は落ち着いた茶色をしているが、1枚の手紙の色だけは白色だった。とりあえず皐は、適当に取り出した手紙を元の位置に戻し、白い手紙を取り出した。中には手紙が2枚入っている。皐は1枚の紙をとった。




 差出人:氷室 修治、風美香


 宛先:琥羽、皐




 レイは琥羽と皐にあてられた手紙なので、中身は読まず、手紙の中身が見えない所へ移動した。2人は顔を見合わせ、便箋の中身を取り出し手紙を読む。




『琥羽、皐


 この手紙を読んでいるということは、もう私達はこの世界には居ないということになるね。どのような死に方をしたのかは分からないけれど、私達はもう幸せいっぱいだったから、どんな形で死んでしまっても後悔はないよ。』



 琥羽と皐は驚いた。自分が死んだ後にこの手紙を見つけるだろうと思ってまさに今、見事的中させていたのである。琥羽と皐は驚きながらも手紙の続きを読んだ。




『さて、琥羽、皐。君たちに私達からの最後のお願いを聞いてくれるかね?レイちゃんのことだよ。私達はレイちゃんを森の中にある神社のところに流れている川の近くの岩で見つけて、家に連れて帰った。それで関わっていくうちに、いかにも“訳あり”という感じがしてね。過去になにかあったのではないかと思って、私達も過去を一緒に背負おうとしてきたのだけども…。私達は死んでしまってこの世には居ない。


 つまり、君達にレイちゃんのことを頼みたいのだよ。彼女を過去のトラウマから救ってやってくれないかね?レイちゃんと一緒に過ごしてやって欲しい。そして、色んな人と関わって、色んな経験をさせて、色んな感情をレイちゃんと一緒に取り戻してやって欲しい。頼まれてくれるかね?


 君達なら、きっとレイちゃん自身と感情を取り戻せる。私達は、そう信じているよ。』




 琥羽と皐は涙を流しながら、微笑んでいた。




「ははっ、任せろよ、じぃちゃん、ばぁちゃん。必ずレイを見つけ出す。約束するよ。」




 2人は涙を拭き取り、次に2枚目の方を取り出す。宛先はレイだった―――。

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