第17話 最後の日
レイ達3人は葬儀に参加している。3人は参列者の
皐は琥羽の背中を擦りながら、目に涙を溜めている。レイはその様子を横目で見ながら、参列者を見ていた。するとレイは嗅ぎ覚えのある匂いのする老人2人を見つけた。その匂いはいつか森の中に来た少年2人と同じ匂いを放っていた。
「(ちゃんと帰れていたようですね…。)」
レイは老人が焼香をしている様子を懐かしみながら見ていた―――。
***
焼香が終わり、琥羽が遺族を代表して参列者に挨拶をする。
「今日は、本当に来てくださってありがとうございました。ばぁちゃんとじぃちゃんは俺達の両親が死んだあと、快く引き取ってくれました。俺達には本当の子供かのように接してくれて、村の人達にも愛されてきました。そしてレイのことも…本当の家族のように接していました。」
そう琥羽は言い、溢れる涙をぐっと堪こらえながら深呼吸し、老夫婦のような優しい笑顔で続ける。
「皆さん、ばぁちゃんとじぃちゃんと仲良くしてくれて、ありがとうございました。」
参列者はほぼ全員と言っていいだろう。ハンカチで目を抑えながら泣いていた。そして、琥羽の最後の言葉を言ったあと、琥羽と皐は抱き合って泣いた。そして花入れの儀が始まる。参列者は老夫婦の棺桶に1人ずつ順番に花を入れていく。そして、参列者全てが花を入れ終わったところで琥羽と皐が老夫婦の棺桶に花を入れる。この時の琥羽と皐の表情には悲しいような寂しいような笑みを浮かべていた。
琥羽と皐は花を入れ終わった。そして残りはレイだけとなった。しかし、レイは老夫婦の元に行こうとはしない。琥羽はレイに声をかけた。
「レイ。どうかしたか?」
「……いえ、なんでもございません。」
「レイ。おばあちゃんとおじいちゃんにお花を入れてあげてくれないかしら。レイが入れてくれたらきっとおばあちゃんとおじいちゃんもう喜ぶと思うの。」
レイは皐から花を受け取り、ゆっくりと老夫婦の元へ向かう。
「(……あぁ、…見たく、ない。)」
レイは老夫婦の元に向かいながら行きたくない、と真逆のことを思っていた。レイが現実から目を背けていたのだ。レイにとって老夫婦の存在はとても大きかった。自分を拾ってくれた。自分に優しくしてくれた。自分を“人として”接してくれた。レイは自分に優しくしてくれる人と出会うことなんて何十年、何百年もなかった。そして、なにかを感じるものがあったのだろう。レイはすぐに老夫婦に懐いていた。
そんな人が急に亡くなってしまうとなると、さすがのレイでも
ついにレイは老夫婦の元にたどり着いた。そしてゆっくりと花を老夫婦が入っている棺桶に入れる。すると、レイは体を少し震わせていた。
琥羽と皐は慌ててレイの元へ近寄る。そしてレイの表情を見る。琥羽と皐は驚いた。感情の少ないレイが大粒の涙を流していたからだ。琥羽と皐は思わず、レイを抱きしめた。
「……う、…て……か…。」
レイは1人で小さく何かを呟いている。ごめん、聞こえなかったからもう一度いい?と皐がレイに言う。
「……どうして…私の周りの方たちはみんな、…死んでしまうのでしょうか………。どう、して…みんな、私を置いてい、くの?」
琥羽と皐はその言葉を聞き、呆気にとられた。どれだけ自分を追い詰めているのだろうか。琥羽と皐には想像もつかない。琥羽と皐は何をすればいいのか分からなかったため、そのままレイを抱きしめ続けていた。
「……どうして、この力が選ばれたのでしょうか…。どうして……私なのでしょうか…。どうして…どうして…。」
レイはずっと聞いていて悲しい言葉を吐き続けている。
「…おいレイ!もうやめろ!過去に何があったのか俺らにはわかんねぇけどっ…!でもレイが自分を今責める時じゃねぇ!」
「レイ…あなたの過去にあった出来事はまた私たちが聞くからっ、今はっ!」
琥羽と皐はレイにしか聞こえない声で止めようとする。しかしレイには効かなかった。そしてレイの最後の言葉。
―――私は…“役立たず”―――
***
琥羽と皐とレイの3人は遺体を焼く火葬場の待合室にいる。レイは先程取り乱していたが、今は落ち着いている。
「…あの、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……。」
「まじで焦ったわ…レイの目の光がまじでなかったもん。」
「まぁでも、落ち着いて良かったわ。」
レイが申し訳なさそうに身をすくめる。
「火葬の準備が整いました。こちらへ。」
火葬場職員が3人に声をかけ、案内する。琥羽と皐は緊張した顔つきで職員に着いて行った。
3人は老夫婦に最後の言葉をかけ終えると、職員は老夫婦が入った棺桶を中に入れ、お辞儀をし、スイッチを押す。そして琥羽と皐は行ってらっしゃい、というように笑みを浮かべながら、涙を流した―――。
***
時刻は変わってその夜。琥羽と皐は老夫婦の家で寝ている。一方レイは琥羽と皐が起きないように、ゆっくりと玄関から外へ出た。そして、老夫婦の家に向かって1度お辞儀し、レイは元いた場所、神社に向かった。
「(もう、迷惑はかけられません……。)」
レイはもう一度、神社に戻ることにしたのだ。老夫婦がいなくなった今、氷室家との関係を断つのは今が好都合だと考えたのだ。レイは1人で黙々と神社に向かっていた―――はずだった。
「へぇこんなとこに神社あったのか。噂ってまじだったのな。」
聞き覚えのある声がしてレイはバッと後ろを振り向いた。
「こ、琥羽、様……?」
「よっ!」
そう言い、軽く片手をあげる琥羽がレイの後ろに立っていた。
「どうして、ここにいらっしゃるのですか…?」
レイは少し後ずさりしながら琥羽に問いかける。
「ん〜。えぇ?なんでだろ。なんか夢ん中でばぁちゃんとじぃちゃんに言われて…?あ、ちげーな。前ばぁちゃんとじぃちゃんがうち来た時?」
琥羽は一体何を言っているのだろうか。まるで文章が成り立っていない。レイは首を傾げていると、琥羽は思いついたように手をポンと叩きながらこう言った。
「つまり!ばぁちゃんとじぃちゃんがレイを頼んだって言われたから、着いてきた☆」
「……?」
「……え、通じてる?」
夜中で暗い神社で2人はポカンとしている。琥羽はガシガシと頭をかきながら真剣な顔でレイに言った。
「ばぁちゃんとじぃちゃんさ、お盆の時に俺と皐にこう言ったんだ…。『もし私たちが死んだ時、レイちゃんは恐らく、この家を出ようとする。その時は、わかっているね?レイちゃんを頼んだよ。』って。それを言ってるじぃちゃんとばぁちゃんの顔、忘れられねぇよ。」
レイは目を見開き、その後うつむいた。そしてそのまま続けて琥羽はレイをまっすぐ見つめて真剣な眼差しでこう言った。
「ばぁちゃんとじぃちゃんもそうだけど、俺たちはもうレイのことを大事に思ってる。だからさ、戻ってきてくれよ。な?レイが何を抱えてんのか俺はなんもわかんねぇ。だってなんも聞いてねーし。でも、少なくとも俺と皐はレイの過去も全部受け止めて、支えたいと思ってる。」
レイはその言葉を聞いて、今まで我慢していたものがドッと解放されたかのように泣き崩れた。琥羽はレイを抱きしめて背中をさする。霧に覆われた森の中にある神社は妖狐の泣き声が響き渡っていた―――。
老夫婦の死を通して、レイは感情を取り戻した。
【悲しみ】【寂しさ】【焦り】【驚き】【悔しさ】
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