第23話 ワンピース

 シエルはワクワクした表情でリビングにあるテーブルに紙を置き、ペンを並べる。




「うーん……レイちゃんはあまり派手なものは似合わなさそうかな〜」


「やっぱそうだよな?店行った時派手なもんばっか売られてたからあまりピンと来なかったんだよぉ」




 琥羽の話を聞きながら、シエルは手を動かす。隼は腕を組みながらシエルが描きだすデザインを静かに見ていた。琥羽はおぉ〜、と感動の声を漏らしながらはしゃいでいた。


 少しして、ワンピースの大まかなデザインができたところで、優莉が口を開いた。




「レイさん。本当に何も要求とかしなくて大丈夫ですか?具体的なものじゃなくてもいいと思いますよ」




 レイはもう一度考えた。自分が着たいワンピースのイメージを思い浮かべる。




「あ、あの……」




 レイの言葉に全員がレイの方へ集中する。




「あの……ワンピースの袖を、手先にかけて広げることって、可能で、しょうか……」


「どうして最後の方声が小さくなっていってるのよ」




 レイは遠慮がちに要望を言っているので、段々と声が小さくなっていく。




「うーん、手先にかけて広げる……」


「ウィザード・スリーブのことか?それともエンジェル・スリーブか……」




 貸してみろ、と隼はシエルからペンを借りる。そしてシエルが描いたワンピースのデザインに付け足す。




「ウィザードがこっち、エンジェルがこっち。レイはどっちのことを言っているんだ?」


「…………こちらです」


「ウィザードか……」




 なるほど、と隼は腕を組み直す。すると琥羽は隼に話しかける。




「なぁなぁ、それなんかちげぇの?そのなんか、うぃ…うぃぃぃ……」


「ウィザード」


「そ!それ!」




 隼は一つため息をついてからワンピースのデザインが描かれている紙に人差し指をビシッと指して琥羽に言う。




「これ」


「………………おん」


「……見ればわかるだろ」


「………………うっす……」




 ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃんかよ… と琥羽は口を尖らして拗ねる。レイや皐たち女性陣は




「(どうしてこの二人は関係が続いているのだろう……)」




 と、琥羽と隼の様子を眺めていた。








 時刻は夕方五時。外が暗くなり始めた。ワンピースのデザインはある程度終わっていて、後はワンピースの布を買い、仕立てのみの作業になっていた。




「じゃあ俺らそろそろ帰るな!また出来たら連絡くれ!」


「あぁ、わかった」




 琥羽と皐は、優莉やシエルに手を振られながらそれぞれ乗ってきた車に乗る。レイは皐の車に乗ることになった。




「……あ、あの……」




 レイは隼に話しかける。隼はなんだ? と言うようにレイの方を向いた。




「あの、その……ワンピース……よ、よろしくお願いいたします……」




 隼は少し驚いた表情をしたが、ふっと小さく鼻で笑って優しい表情になった。




「あぁ、最高のワンピースを作ってやる」


「…………隼……お前……」




 レイと隼のやり取りを車の中から見ていた琥羽が窓からひょいっと顔を出して口を挟む。



「…………なんだ」


「俺、お前のそんな優しい顔見たことねぇぞ……!?」


「……はぁ?」


「俺にはなんかキッとしてるっつーか、お前のそのほっそい目が俺をぶっ刺してくるっつーか……俺、お前にそんな表情されたことない……」


「……お前がしつこく絡んでくるからだろ」


「え゛!?おおおお俺の事…きききき嫌い?」




 目をうるっとさせた琥羽を見て、隼がこう言った。




「…………別に、普通」


「普通ってなぁにぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「……めんどくせぇ」


「今なんか言ったよね!?ねぇ!?」


「なんでもねぇよ!さっさと帰れ。時間遅くなるぞ」


「ウィッス……じゃよろしく!」




 琥羽は渋々車を動かした。レイも皐の車に乗り、三人は隼やシエル、優莉に見送られながら家に帰って行った。




「はぁぁ」


「隼〜ため息ついたらダメだよ!幸せが逃げるっておばあちゃんが言ってたんだから!」


「へいへい」




 そう言って隼は優莉とシエルと一緒に家の中へ入っていった。そしてしばらくしてから優莉も自分の家に帰っていった。




 ***




 ―――数日後―――




 隼からワンピースの仕立てが完了した、と琥羽に連絡が入ったので、レイ達は隼の家へ向かった。




「いやぁどんなんなってるかなぁ〜!楽しみだなぁ……俺着ねぇけど」


「隼さんって指先器用よね。羨ましいわ」




 運転している琥羽と後部座席にレイと並んで座っている皐が話している。レイも表情ではあまり読み取れないが、雰囲気的に楽しみにしているようだった。




「ていうか琥羽。あまり隼さんにちょっかいかけ過ぎないでよ?」


「…………ん〜」


「聞いてる?そのうち嫌われちゃうわよ」


「……それはやだなー」




 何故か琥羽の返事が適当になった。皐もレイも少し不思議に思いながら琥羽を見つめていた。








「しゅーーーーーーーん!!来たぞ!」


「だから叫ぶのやめろ!」




 また始まった、と皐や優莉が呆れる。そんなことも気にせずシエルはレイ達に出すお茶を用意していた。




「で!服!隼!服!」


「わぁってんだよいちいち急かすな」




 隼がワンピースを取りにリビングから退出する。




「レイちゃん!あまり驚きすぎないでよォ?ふっふっふっ」


「え、えと、はい……あ、ありがとうございます?」


「なんでシエルがドヤってるのよ……」


「あ、あはは……で、でも主にシエルさんがデザインしたのでドヤるのも分かりますよぉ」


「優莉ぃわかってるじゃぁん!」




 そう話しているうちにワンピースを持った隼がリビングに戻ってきた。




「「……え、えぇぇぇぇぇぇ!!??」」



 琥羽と皐がワンピースを見て驚く。レイも驚いていた。目の前には綺麗なコバルトグリーンのワンピースがあった。スカートの丈は膝の下から真ん中ほど、袖はレイの要望通り、袖口にかけて広がるウィザード・スリーブ、そしてふんわりとしたシルエットのスカート。露出は少なく、レイにはとてもピッタリなワンピースだった。




「一度着てみてくれ。サイズとか細かい所を修正したい。」


「しょ、承知しました……」




 レイは驚きながら隼の指示に従った。








「…………うっわ、やっばちょー似合ってんじゃん」


「レイちゃん!すごく可愛いよ!?」




 周りからの絶賛の声がレイに向けられる。レイは戸惑いながらも絶賛の声を浴びる。




「あ、ありがとうございます……」


「何処か気になるところはないか?きついところとか」




 レイは少し腕などを動かしサイズがあっているか確認する。




「……はい、特に問題はございません」


「そうか。良かった」




 レイはじっと自身が着ているワンピースを見る。特に袖を見ていた。




「袖、お気に入りですか?」




 ふわっと笑顔を浮かべている優莉にレイは声をかけられる。




「……実はこの袖の形、私の昔の知人と同じなんです。と言いましても、私の同族は皆、このような袖をしておりました」


「同族?」




 シエルがレイに聞き返す。レイは少し困ってしまった。言うべきか言うまいか。そこで琥羽が頭をかきながら口を開く。




「あー実は、レイ人間じゃないんだよなぁ〜」


「「「えぇ/は!?」」」


「…………うんあの、うん。人間ではあるんだけど人間では無い。あれ?」


「何言ってんの琥羽……さらにややこしくしないで」




 シエルはレイの方へ駆け寄り、レイの体をボディチェックするかのように触り始める。




「あ、あの……」




 レイは困ったように立ち尽くしてしまった。

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