第12話 知りたい
みんなで食事をしている。
いつもはレイと老夫婦、3人で食べていたので、琥羽と皐が合わさって5人で食べるのが慣れていないせいか、落ち着かない様子でレイは食卓を囲んでいた。
「んっまぁ〜!やっぱばぁちゃんの味好きだわぁ。なんていうの?薄めの味?好きだわぁこの感じ!」
「味が濃いと体に悪いからねぇ」
「あ、そうだ。おばあちゃん!明日の夜ご飯って決まってたりする?肉じゃが教えて欲しいのよね…」
「えぇ!いいですよ!」
「やった!」
という訳で明日の夜ご飯が決まった。レイは“肉じゃが”がどういうものか分からなかった。レイは“肉じゃが”というものを待つことにした。
***
それぞれのすることを終えて、現在氷室家は自由にゆったりしている。修治と風美香は一緒にクロスワード。レイは皐と会話。そして―――。
「………」
黙々とノートパソコンと睨めっこをしている、メガネをかけた琥羽。先程まで騒いでいた人間とは思えないほど、集中していて、とても静かだ。レイはその姿に困惑を覚えた。それだけ熱中しているものがあるのだろうか。どれだけ眺めても画面をスライドしたり、クリックしたりする動作はない。一体どんなことをどれだけ画面に文字を打ち込んでいるのだろうか。レイは気になって皐に問いかけた。
「あの、琥羽様は一体何をされているのですか?」
「……琥羽“様”?え、様?」
「…?はい。お名前は琥羽様ではなかったでしょうか?」
「いや、あってる。あってるけど…。あ、琥羽は小説を書いてる最中よ」
驚いた。まさか彼も小説家だったとは。そうなのですね、とレイは返し、琥羽を見つめた。やはり何度見ても真剣な顔でキーボードを打っている。
「ああやって小説書いてる時は普通にかっこいいとは思うんだけど、普段があれだからねぇ…。ギャップがすごすぎるのよ」
「確かに、同じ人とは思えません」
「こっちも調子狂うわ、まったく…」
はぁ、とため息をついて皐は琥羽にコーヒーを出す。
「ありがと」
「うん。頑張ってね」
お互いの対応も日中とは大違いだ。
琥羽の小説の作業の仕方は修治とまったく同じやり方だった。目の前にはノートパソコン、そしてその横には手書きのノートが置かれている。そのノートにはその小説の人物の相関図やその人物の設定、小説の大体の設定が書かれている。
「(方法が同じなのは、修治さんの作業を皐様と一緒に眺めていたからでしょうか…)」
「琥羽の執筆姿、修治さんと似てるでしょ」
「よく子供の頃おじいちゃんの横で見てたわね」
「あの…、修治様はどうして小説を書こうと思われたのですか?」
「私の母が小説家でね。見よう見まねで私は小説を書き始めたよ。母を追いかけるように書き続けていたら、ある日母が私にこう言ってきてね。『あなたも出版してみますか?』ってね」
「それで出版してみたら思いの
「そんなこと初めて聞きましたよ、修治さん!」
「言ってないからね(笑)。それで琥羽も私の姿を見て、小説を始めたらしいからね」
「そうなのですね…」
正直、こんなこと聞いてもなんにもならない。しかし、レイには、いつの間にか【知りたい】。そんな感情ができていたのだった―――。
そして就寝の時間がきたので、
***
それからお盆は5人で過ごした。皐は風美香に肉じゃがを教えてもらったり、レイは初めての肉じゃがを黙々と食べていたり、琥羽と皐は相変わらず言い合いをして、琥羽が執筆する時は静かになる。そんな日々を送っていた。
そしてお盆最終日。琥羽と皐は家に戻る時間になった。レイは琥羽と皐の荷物をまとめて皐に手渡す。
「じゃあ…じぃちゃん、ばぁちゃん!また来る!」
「また時間があったら来るわ!」
「2人とも気をつけてな」
「うふふ。待ってるわね!」
「おう!レイ!またな!」
「あ、はい。お気をつけて…」
「またねレイ!」
レイは琥羽と皐にペコッとお辞儀をする。琥羽と皐はレイたち3人に手を振り、車を走らせた。
「ふぅ。琥羽と皐がいるとやっぱり賑やかになるわね」
「いいじゃないか。賑やかで楽しいだろう?」
そう言いながら修治と風美香は家に入る。
「たのしい……」
レイはその言葉について考えた。確かに、少しいつもとは違う感情があった。でもそれが“楽しい”という感情なのかはレイにはまだ分からなかった。
「レイちゃん!早く入っといで!修治さんが今から小説の続き書くって言ってますよ!」
「す、すぐに行きます…」
レイは慌てて家の中に戻る。そして、修治の部屋へと入っていった―――。
***
レイは修治の執筆作業を眺めながら、このお盆の出来事を振り返っていた。新しく知り合った琥羽と皐という2人。以前、修治と風美香から2人の存在はこの修治の部屋で聞かされていた。だが、どのような人なのかは詳しくは聞いていない。実際に会ってみると、レイとは全然違う性格をした人だった。1人はおちゃらけた人で、もう1人はしっかりした人。レイはこのお盆を通してまた、新しい感情を思い出した―――。
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