第11話 琥羽と皐

 そしてお盆になった。修治しゅうじ風美香ふみかは2人の孫、琥羽こうさわが来るのを待っていた。レイは少し緊張した表情で修治の小説執筆を見ている。そして―――。




 ―――ガチャ。


「ばぁちゃぁぁん!じぃちゃぁぁん!たっだいまぁぁぁぁぁ!」


「琥羽うるさい!」




 2人の男女が家に入ってくる。




「うふふ。おかえりなさい!相変わらず元気ねぇ!」




 風美香はそう返し、修治とレイを呼びに行った。




「修治さん!レイちゃん!琥羽たちが来ましたよ!リビングで待ってますわね!」


「部屋まで声が聞こえていたよ。少し待っていてくれ。レイちゃんは先にリビングに行ってもいいよ」




 そう言われたのでレイは緊張しながらリビングへ行った。そしてゆっくりリビングを開ける。


 すると、男女の方と目があった。レイは少し体を強ばらせた。それを見た男女は少し戸惑っていて、気まづい雰囲気が流れていた。そしてそれを遮るように、風美香がレイに声をかける。




「レイちゃん!こっちこっち!頼みたいことがあるの!」




 レイは手招きする風美香の方へ行った。頼みたいこととは男女にお茶を渡してやって欲しいとの事だった。




「あまり緊張しなくて大丈夫ですよ。あの子たちは優しいから安心してください!」




 そう風美香に言われ、少し緊張が解けたレイはお茶をこぼさないように気をつけながら、ゆっくりと男女の方へ向かった。




「あ、あの…お茶を、お持ちしました…」


「お!わざわざありがとな!」


「ありがとう!」




 そう笑顔で言われたレイは、ほっとした。そしてその時、修治がリビングに入ってきた。そしてレイと男女を見る。




「良かった。仲良くできてるみたいだな」


「なぁじぃちゃん。この子が言ってた奴?なんだっけ名前。えーと…」


「レイちゃん、でしょ?ほんとにちゃんとしてよ、琥羽」


「そーそー!レイちゃんだ!うん。覚えてたよ?レイちゃんでしょ?うんうん」


「はぁ…」




 女は大きくため息をつく。そして、レイと向き合って話す。




「はじめまして、私は皐。よろしくね!」


「俺は琥羽!こいつの兄貴だ!よろしくな!」


「あ、私はレイと言います…」




 そのやり取りを修治と風美香は優しく見守っていた。そしてご飯の材料を買いに行くからレイちゃんを頼んだよ、と言い残し、修治と風美香は家を出た。




 ***




「なぁなぁ!レイってさ、なんか趣味とかねーの?」




 琥羽はレイに話しかける。レイは急に話しかけられたので驚いたが、質問に答えねば、と返事を考える。しかし、レイには趣味がないため、ないと答えると話が続かないのではと思ってしまい、黙り込んでしまった。琥羽と皐はレイが答えるのを黙って待っている。しかし、返事が無いので琥羽と皐は心配になった。




「大丈夫?」




 皐が声をかける。そこでレイはハッとなり、口を開く。




「申し訳ありません。実は…趣味というものがなくて…」




 レイ自身、趣味がどんなものかは知っていた。だが、趣味になるほど好きなことが無いのである。




「それならそうと言ってくれればいいのに!なんで黙ってたんだよ。別にそんなことで怒るとかしないぞ?逆になんで怒んだよ(笑)」


「へぇ。琥羽のくせにちゃんとしたこと言うじゃない。何、カッコつけてんの?」


「なんでそうなんだよ!俺はいつも真面目だぜ☆」


「……」


「なんか言えよ!」


「レイ!あ、もうレイって呼ばせてもらうわね。琥羽もそう呼んでるし!」


「無視かよ」




 皐に無視をされてがくんと肩を落としている琥羽を横目に、皐はレイに話す。




「趣味がないのも別に悪いことじゃないのよ?それに、おばあちゃんとおじいちゃんから話を聞く限り、結構訳ありっぽいしね」


「…は、話、とは?」


「そうね…。可愛いとかいい子とか?悪いようには言ってないわよ。なんなら悪いとこない」


「は、はぁ。ありがとうございます?」


「んふふ。なんで疑問形?あんまり言ってることわかってないでしょ(笑)」




 そう言って皐は笑った。レイは改めて琥羽と皐を見る。今も肩を落としている琥羽は、外見も性格も一言で言うと、チャラい。色白で明るめの茶色い髪の襟足が胸の辺りまで伸びている。そして耳たぶにはピアス。手で口元を隠して笑っている皐は巻かれた黒髪が胸の下まで伸びている。背は女性にしては高めになるだろう。レイが上を見あげて話す必要があるからだ。話し方は“気の強い女”というかっこいい印象がある。そしてどこか色気を感じるものがある。

 本当に同じ血が流れているのか疑うほどあまり顔は似てないし、性格なんてもってのほか。それほど性格が異なっている。妹の皐の方がしっかりしているのはおそらく、兄の琥羽の性格がおちゃらけているからだろう。




「じゃあ、趣味探し手伝うぜ!趣味がなくても、その趣味を探すのも楽しかったりするしな!……うぉ!俺めっちゃいいこと言った!なぁなぁ!俺天才だわ!ふぅぅ!」


「そうね。最後のがなかったら完璧だったわよ」


「……うぅ…(泣)」


「まぁでも琥羽の言う通りよ。私たちがいる時は一緒に好きなこと探しましょ!」


「は、はい。ありがとうございます」




 琥羽と皐のテンションの差に戸惑いながらレイは感謝を伝える。どうやら琥羽は“残念なイケメン”という属性に当たるようだ。こうしてレイは琥羽と皐と会話をして、老夫婦の帰りを待った。




 ***




 老夫婦が買い物から帰り、ご飯の用意をする頃にはもう既に琥羽達の仲は深まっていた。




「あ、おかえり!ばぁちゃんじぃちゃん!」


「ただいま。レイとは仲良くできてるみたいだね。仲良くしてくれて私は嬉しいよ」


「うふふ。あなたたちなら仲良くなれると思ってたわよ!」


「当たり前よ。こんな可愛い子、仲良くしろって言われてるようなものよ」


「か、可愛い…?」


「んふっそう!可愛い。レイは可愛い!琥羽もそう思うでしょ?」


「そうだぜ」




 そう言ってから琥羽は咳払いをしてからレイの前にしゃがみこみ、手を取って言う。




「あぁ。お美しいお嬢さん。良ければこのあと食事に…!?いってぇ!」


「なぁにやってんのよ!バッカじゃないの!?レイが困ってるでしょ!」


「あ、いやあの、私は全然…」


「んだよ!茶番だよ茶番!ノリが悪いやつはモテねぇぞ?」


「別にモテなくてもいいわよ!てかなんでそんなにモテたいわけ?」


「えぇ、あ、あの…」


「はぁ!?チヤホヤされてぇだろ!なんか…気分いいじゃん!」


「はぁ…。呆れた…」




 レイは琥羽と皐の言い合いを困惑しながら見ていた。




「逆になんでお前はモテたいとか思わねぇんだよ」


「別に好きじゃない人からモテても何も無いでしょ?好きな人に振り向いて貰えればそれでいいのよ」


「……なるほどな…」


「納得するのね」




 琥羽と皐の言い合いが収まったようだ。常にこんな感じなのだろうか。




「(一緒にいると騒がしいのでしょうね…)」




 レイはそう思いながら、琥羽に取られた手を見つめていた―――。




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