第30話 噂
琥羽はレイを見送ったあと、自分の小説を作っていたが、集中力が切れたのか、レイが向かった山を眺めていた。その様子を見ていた隼が琥羽に声をかける。
「おい琥羽。そんなに山を見つめていても何も変わんねぇぞ」
「いや……気になっちまうんだよなぁ……。レイ、大丈夫かなぁ」
隼は、はぁぁ、と大きくため息をついた後、琥羽のおでこを軽くつついた。
「おわっ!え!?なに!?」
「お前が山を見続けてもレイの状況は変わらねぇだろ。今は俺らができることをしてレイを迎えることしか出来ねぇんだから、んな辛気臭しんきくさい顔すんな、このバカが」
「……後ろの5文字要らなくない?」
「るせぇこのバカ」
「ヒンッ……」
渋々と琥羽はチラチラと山の方を見つつ、自分の書きかけの小説を書き始めた。家の中は静かになった。
すると次第に風が強くなってきたことにシエルが気づいた。
「…………なんか、ヤバくない?」
「あれ、木浮いてない?」
「やばいですね……」
「おい琥羽、あそこの山って……」
「レイが……いるところだ……」
「どうしよう、桜樹も居ないし……」
皐が桜樹について言及すると、皆一斉に青ざめた。しかし、自分たちが何も出来ない無力さに肩を落として、ただひたすらに荒れ狂う窓の外を眺めているのであった――――。
その頃、レイとリヒターは激しい闘いを繰り広げていた。お互いの攻撃に当たり出血が出たり、周りの木を盾に攻撃を避けたり、長時間動いているのでお互い体力の限界に近かった。よってお互いの魔力調整も狙いも雑になり、さらに体力が消耗されていた。そんな中、ある1人が声をあげる。
「レイ様!!魔力が暴走しております!!直ちに調整してください!!!」
「……え!?」
レイは声がした方に目を向けると、そこには桜樹がいた。
「お、桜樹さん!?どうしてここにいるの!?……というか、今さっき……なんて…………?」
「黙っていて申し訳ありません、レイ様。タイミングが掴めず……。」
「い、今それどころじゃないですよ!?」
ドゴーン!と大きな音を立てて攻撃をしてくるリヒターに気を配りながら、レイは桜樹を抱えて闘いを続けていた。
すると沢山の魔物が一気にレイに襲いかかってくる。そこでレイの意識はそこで途絶えた――――。
***
「(美味しそうな味噌汁の匂いがする……。色んな人の声……?温かくて柔らかいものに包まれて……。ここは一体……?)」
レイは重い瞼を無理やり開いた。
「あ、レイさん。起きましたか?」
「…………桜、樹さ、ん?」
「俺もいるぜ!」
「琥羽、さん……あれ、みんな揃ってる……」
レイは体を起こし、辺りを見回した。
「(琥羽さん達の家……?隼さんもシエルさんも優莉さんも皐さんもいる……。私……)」
「まだ困惑しているようですねぇ。大丈夫ですかぁ?」
「あ、はい……」
レイは少しずつ意識がはっきりしてきたので、今までにあったことを思い出す……。
「……あっ、私……そうだ……リヒターは!?」
「落ち着いてレイ。桜樹から聞いたけど、レイが倒したそうよ。もう大丈夫だって」
「桜樹……桜樹!?」
レイは大きな声をあげた。それに一同は驚く。
「……レイさん、落ち着いてくださいって……」
「桜樹さん貴方ってもしかして……」
レイが桜樹にそう問いかけると桜樹以外は全員ポカーンとして桜樹とレイを交互に見つめていた。そんな中、桜樹はあの時と同じ爽やかな笑顔でこう言った。
「えぇ、そうです。坂巻
「「…………はぁぁぁ/えぇぇぇ!?」」
これにはさすがにレイも驚きを隠せない。死んだはずの、しかも███年以上も前の人間が目の前に居るのだから。
「お、おい桜樹………どういうことだよ!?」
「簡単に言うと生まれ変わりです」
「…………紫雲さん……、し、うん……さんっ……」
レイは泣き出した。そしてそれを慰める桜樹……いや、紫雲というべきだろうか。
「1人で今まで頑張って来たんですよね。お疲れ様でした、レイさん。でも周りを見てください。沢山の人が、レイさんを囲んでますよ。……ふふっ。あの時の同じですね」
「……ちょっと黙っててください……」
「おやまぁ、これは失礼しました。レイ
"様"」
「それもやめてください……」
琥羽達はまだポカーンと口を開けている。その様子をレイと紫雲は優しく笑っていた。
「んで、めでたしめでたしってかーんじ?」
「そうですね、めでたしめでたしって感じです」
「レイ、貴方変わったわね。私たちすごく嬉しいわ」
「……感情のなかった私を、快く引き受けてくれて、ありがとうございました。本当になんとお礼を……」
「レイ!いいんだよ!私たちがしたくてしただけだから!」
「シエルさん……ありがとうございます!」
「ほら、さっさとワンピース着ろ。ボロボロだろその服」
「はい!」
"知ってる?山奥に小さな神社があるの。あそこに近づいては行けないらしいよ"
"でもその噂って嘘だったんでしょ?"
"え?そうなの?"
"魔族?ってのを倒して、この村を平和にしたからね"
"それ誰から聞いたの?"
"聞いたっていうより、どちらかと言うと読んだっていうのが正しいかも……"
"何を読んだの?"
"それはね……"
"琥羽先生と隼先生の小説だよ"
感情無き妖狐ーレイー 谷崎 馨 @Tanizaki_kaoru
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