第25話 勇者、名誉挽回したい

 翌日。

「おいっ、リーゼス!貴様昨日はよくもっ!ってお前らもいたのか・・・・・・」

 リーゼスの部屋に怒鳴り込んだゴーマンは、すでに”薔薇の鷹”のメンバーが来ていたことに驚いた。

 


 ゴーマンの姿を見たワルヨイは目をそらし、タカビィとイビータは、虫でも見たかのように顔をしかめ、自分の鼻をつまんでそっぽを向いた。



――くそっ、こいつら!

 地下牢で小便を漏らす醜態をさらしたゴーマンに、仲間たちは冷たかった。



「フフッ、お似合いですよその首輪」

 というリーゼスの言葉に、ワルヨイが反応した。

「ん、どうしたんだ?その首輪」



「こ、これは・・・・・・」

と言いよどんだゴーマンの代わりに、

「昨夜、少々反抗的でしたのでね、つけさせていただきました。無理にはずそうとしたり、逆らおうとすると締まるようになっているのです」

 リーゼスが解説すると、仲間たちは笑った。



「あぁら、いいものもらったわねぇ?」

「はぁぁっっ!?」



「ほんと!素敵なアクセサリーで羨ましいわぁ~」

「ふむ、暴走ばかりのお前には、いい薬になるんじゃないか?」



「てっ、めぇらあっ!!ぐあっ!」

 仲間につかみかかろうとしたゴーマンだが、リーゼスがパチンと指を鳴らすと、昨日のように首に電撃が走ってその場にはいつくばった。



「そこまでですよ・・・それよりも」

 リーゼスは薔薇の鷹の面々を見回した。



「精霊アウローラの居所が分かりました」

「「「「!?」」」」



「どっ、どこらっ、ろこにアイツが居るんらっ!?」

 痺れてもつれた舌でゴーマンが叫ぶ。



「探索師レイクスのところですよ」

「・・・は?」



 リーゼスの言葉に一同は凍り付いた。


 沈黙を破ったのはしびれがとれたゴーマンだった。

「オイ、今なんつった?アウローラはレイクスのところにいる、と聞こえたんだが?」

「えぇ、そう言いましたよ?」



「ハッ、なんだそりゃ、ギャグのつもりかぁ!?ちっとも笑えやしねぇんだがなぁ?」

「別に冗談など言っていませんよ。事実を申し上げたまで――」



「ざけんな!!アウローラがあのグズでノロマのレイクスと一緒に居るわけねぇだろうがっ!」

 ゴーマンは激しくテーブルを叩いた。



「本気で言ってるとしたらお前も大したことねぇなぁ!そんな偽情報をつかまされる程度の調査能力しかねぇってことだからな!そう思うだろ?おめぇらも!」


 と仲間に同意を求めたが――

「いや、案外あり得る話かもしれん」

とワルヨイがつぶやいた。



「・・・は?」

「サビエ殿やエリス殿も言っていただろう、アウローラ様がレイクスの追放を黙認したのはおかしい、と」

「あいつらの話を真に受けるってのかよっ?」



「だってそのとおりになってるじゃない!あの人たちの言うとおり、アンタは精霊に逃げられたんだから!」

 とタカビィはワルヨイに同調する。



「んだとぉ!?」

 ゴーマンは床を踏みならす。

「あンときのアウローラの言ってたことはどうなんだよ?あのグズを拒否して、勇者である俺に従うと言ってたじゃねぇか!!」



「まぁだそんなこと言ってるのぉ?それは演技だったってことでしょ?」

「ぐっ・・・・・・!」



「思い返してみると、レイクスを追放したすぐ後にアウローラ様はいなくなった。あいつの後を追っていった、ってことなんだろうな」

「まったく、まんまとだまされちゃったわね」

 ワルヨイは腕を組み、タカビィは深くため息をついた。



「彼らは既にドルフェルン辺境泊の後ろ盾をえて、勇者として名乗りを上げているようですね」

 とリーゼス。



「「「「!!」」」」

「あちらは本物の精霊を従えている。それに対してこちらはニセモノ。このままでは遠くないうちにメッキがはがれてしまいます」



「っ、どうすれば・・・!」

 唇を噛むワルヨイに、



「策ならありますよ?」

とリーゼスはこたえた。


「なっ!」

「本当!?」

 驚く一同に、リーゼスは頷いた。



「はい。これは人づてに聞いた話なのですが、実は天界は彼らを勇者として認めていないそうなんです」



「えっ!?」

「まぁ、本来の勇者を置き去りにして他の人間を勇者にしようなどそもそもありえないことですからね。天界も大混乱だったようですよ。その一方で精霊の意思を無視するわけにもいかない。だから今は、彼らにも我々にも荷担せずに静観しているという状況なんですねぇ」



 魔術師は得々と語りながら、勇者一行の顔を見回した。

「それでですねぇ、そんな平衡状態から天秤を傾けるにはどうしたらいいか、ということです。何が必要かおわかりですか?」



 戸惑うパーティに、リーゼスは指を一本立てた。

「それは”人心”です。人々の心がこちらになびけば天も我々に味方してくれる。天界としてもやはり、「元の鞘」に戻ってくれた方が都合がいいはずです。ですから、あなたがたがちゃんと勇者として民衆に支持されれば、天界のほうから手を回して、精霊に元のところに戻るよう命令してくれるかもしれません」



「っ・・・!」

 一同が息をのんだとき、



 バンと部屋の扉が開かれて、一人の兵士が駆け込んできた。

「申し上げますっ、ただいま王都衛星都市、バーセローの城壁外にモンスター群が発生したとのことにございますっ!」



「何っ!」

「現在、街の守備隊が応戦しているようですが、数が多く苦戦しているようでして・・・」



 すると、

 ゴーマンが「ハッ!」と声を上げた。

「ちょうどいいじゃねぇか!そいつらを蹴散らせば、俺たちの株も上がるってわけだっ!」

「えぇ、そうでしょうねぇ」

 とリーゼスは頷く。



「っし!行くぞおまえらっ!」

 ゴーマンは号令をかけたが、他の3人の反応はイマイチだった

「確かに俺たちの出番だが、お前に指図されるいわれはない」

「はぁっ!?」



「そうそう。これ以上アンタに振り回されるのはゴメンだわ」

「っていうか、アタシたちについてこられても邪魔なんだけど?」



「・・・・・・んだとぉぉっ!!」

 最初は仲間たちが何を言っているのか信じられない様子のゴーマンだったが、すぐに逆上した。



「てっ、てめぇら、自分が何言ってるのか分かってんのか?」

「アンタこそ、自分の立場分かってないんじゃないの?もうアンタはこの薔薇の鷹のお荷物なのよっ!」

 と鼻を鳴らしたタカビィに、



「てンめぇえぇえっ!!」

 殴りかかろうとしたゴーマンは電撃で床にはいつくばった。



「全く・・・・・・リーゼス様ぁ、このバカ、牢にぶち込んでおけないんですかぁ?」

 イビータが頬をふくらませるが、リーゼスは首を振った。



「そうは言いましても、精霊が宿った”聖剣”の持ち主はゴーマンさんですからね、彼が戦場に行かなければ格好がつかないのですよ。ですのでーー」

 と言って、彼は小さな杖を懐から取り出した。



「これをお持ちください。彼の首輪を制御できる魔術が施してあります」

「あっ、ありがとうございます、リーゼス様ぁ!」

 杖を渡されたイビータは、うっとりを頬を染めたかと思うと、その杖をゴーマンのほうに容赦なく振り下ろした。



「ぐっあああああああっ!!」

 首輪を押さえてゴーマンはもだえ苦しむ。



「うむ、これならばゴーマンが暴走しそうになっても我々で押さえられるな」

 とワルヨイは頷いた。



「じゃあ行こうか!」

 タカビィの言葉にワルヨイ、イビータは頷き意気揚々と部屋を出ていった。



「・・・・・・クソがっっっっっ!!」

 ゴーマンはリーゼスをのろい殺さんばかりの目つきで睨むと、3人の後を追いかけていった。



 少しすると、リーゼスの部屋の空間がぐにゃりとゆがみ、中から魔族の女が現れた。昨日、リーゼスにレイクスのことを報告していた女だ。



「バーセローでの魔獣召喚、成功いたしました」

 女の報告に、リーゼスは頷いた。

「あぁ、ご苦労」



「あの者たちを自由に行かせてよろしかったのですか?」

 女は薔薇の鷹たちが去っていった方角を見て怪訝な顔をした。



「あぁ。奴らがどう動こうとどうなろうと構わない」

 とリーゼスは笑った。



 恐らく奴らは、モンスター群に手も足も出ないだろう。

 精霊に逃げられ、加護を失った状態では当然のことだ。

――いや、たとえ加護があったとしても、それを使いこなせるかどうかは怪しいか・・・・・・



 奴らが醜態をさらせば、それを雇っていたナマクラン家の権威も地に落ちるだろうが、今のリーゼスにとってはそれもどうでも良かった。



――我の目的は、最初から聖剣の精霊ただ一つ。

 彼女を手に入れるために、魔王討伐軍の司令官を務めるナマクラン侯爵の配下に潜り込んだのだ。

 


 予定より少し遅れてしまったが、もうすぐ聖剣の精霊アウローラと接触できる。リーゼスは高揚を感じていた。



――奴を捕らえて、魔宮に引き渡す。それが私の任務だからな。

 聖剣の精霊がいなくなれば、勇者や魔王討伐軍は剣を折られたも同然になる。魔王軍が断然有利になるというわけだ。



 もちろん、相手は強大な能力を備えた精霊だ。

 倒すだの捕らえるだの、そう簡単にできるわけがない。



 だが、リーゼスには目算があった。

 そのために、わざわざモンスタースタンピートを起こしたのだ。



――アウローラたちもこれは見過ごせないはず。必ずおびき寄せることができる。そしてそのときは必ず・・・!



 リーゼスはフードの下で冷たい笑みを浮かべた。

「さぁ、我々も行くぞ!」

 ローブを翻すと、リーゼスと配下の女は煙のように部屋から消えた。

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