第17話 探索師、女神と語らう
「う、ん・・・・・・」
不意に花の香りがして、僕は目を覚ました。
「っ!?ここは?」
辺りを見回すと、そこは見たこともない草原だった。
満天の星空の下、夜露に濡れた白い花があちこちに咲いている。
僕はどうしちゃったんだ?
急いで記憶を遡ってみる。
えぇと、確か、僕たちは魔族との戦いに勝って、奴らは砦から撤退していって・・・・・・辺境伯ドルフェルン様は無事に城を取り戻されて・・・・・・僕たちは伯爵様に温かく迎えられて、一番良い部屋で眠って・・・・・・
じゃあ、これは・・・・・・?
「ここは貴方の夢の中よ、レイクス」
と女性の声が聞こえた。
この声は、ウィンベル様!?
「前に言っていたでしょう?貴方とは改めてお話したい、って」
なるほど、それで、夢の中に会いに来てくださったってことか。
「さぁ、こちらにいらっしゃい」というお声に惹かれて、僕は草原を歩き始める。
ほどなく、小さな丘の上でテーブルセットの前に座る女性の姿が見えた。
「こうして顔を合わせるのは初めてね」
とウィンベル様はにこやかに微笑まれた。
「レイクスです。あの、もしかして天界のほうで何かご見解が出たのでしょうか?」
天界は僕を勇者として「消極的に認める」ということだったけれど、それについて新たに進展はあったんだろうか?
けれど、女神様は苦笑して首を振った。
「残念だけど、まだ何も。だから今日はこっそり来ちゃったの」
「だ、大丈夫なのですか!?」
現時点では、天界サイドの方が、許可なく僕たちに接触することは許されていないんじゃなかったっけ?
「フフっ、だからこっそりなのよ。まぁお茶が冷めないくらいの時間ならここに居られるわ、どうぞ」
席を勧められて座り、紅茶をいただく。
爽やかな香りとほどよい甘さで、ほっと胸の中が満たされていく。
「・・・・・・勇者として、本格的に旗揚げすることにしたのね」
というウィンベル様の言葉に頷く。
「はい、少し早い気もしましたけど、でも悪くない状況だと思っています」
「あら、それはどうして?」
「一つ目は王室がお味方してくださると思われるからです。王国にとって、魔族先遣部隊との戦いは頭の痛い問題でした。だからこそ、勇名高いドルフェルン様を防衛部隊の司令官に任じて戦わせたのです。
今回、防衛部隊内でクーデターが起こってしまったけれど、それはドルフェルン様に手腕がなかったからとか人望がなかったからってわけじゃない。
最大の原因は王国の慢性的な財政難だった。戦地に対して満足に補給を行えなかったことが兵士たちの不満を招いてしまっていたんだ。
「でも、この戦いが片付いたことで王国は楽になれたはずです」
「王国に対して恩を売れた、ということね。二つ目は?」
「二つ目には、僕自身が国境の危機を救うという実績を作ったからです。危急の用ではないダンジョン攻略ではなく、実際に国に迫った危険を取り除いた、これは人々に対して強い印象をつけた、と思います。・・・・・・すみません、傲慢な言い方ですけど」
ウィンベル様は笑いながら首を振られた。
「何言ってるの、勇者ならそれくらい強い押し出しでいかなきゃ!」
と女神は笑う。
「素晴らしい答えよ。私も神の端くれだから、天界に逆らうようなことは言えないけれど、個人的に、あなたにならアウローラを任せられる。少しも後悔しないわ」
「そう言っていただけて嬉しいです!」
ほっと胸をなで下ろすと、女神様はふぅっとため息をついた。
「こんなこと言うと、娘をお嫁に送り出すみたいでちょっと寂しいけれどねぇ」
「ハハっ、お嫁にって・・・・・・」
苦笑いしながら紅茶に口をつけようとすると、
「だってあなた、あの子のこと好きなんでしょう?」
!?!?
思わずお茶を吹きそうになった!
「な、なっ!?」
何言うんですかっ、と言いかけて、止めた。
そっか、さすがにお見通しだよね。
「・・・・・・ずっと、憧れていましたから」
初めて会ったときから、ずっと。
「でも、アウローラ様は僕のことを異性として見ていないみたいですし・・・・・・」
「えぇ?貴方は本気でそう思ってるの?」
と面白そうにウィンベル様は覗き込んでくる。
「だ、だってあんなに大胆にいつもスキンシップをしてくるし」
「フフン、なるほどねぇ」
女神様は意味深な顔で笑うと、星空を見上げた。
「まぁ距離感をつかめてないだけじゃない?あの子にとっては、あなたが初めての異性なんだから」
「!?」
「あぁ言っておくけど、あのバカ勇者はノーカンよ?アウローラは指先一つも、あの男には触れさせなかったから」
とウィンベル様は付け足した。
正直驚いた!
てっきり、お姉ちゃんは先代の勇者にもお仕えしていたんだと思っていたから。
「アウローラの前には先任の精霊がいて、先代の勇者と契約していた。そして魔王との戦いが終わり、アウローラはその精霊の能力を受け継いで500年間眠っていた、というわけ」
「精霊の能力。勇者に加護を与える力ということですね」
「そう。その先任の精霊もまた、さらに前の精霊から加護の能力を受け継ぎ、魔王軍との戦いの中で磨きをかけていった。それを何度も繰り返して今の力があるのよ」
なるほど、と僕は思った。
いくらお姉ちゃんが強力な精霊でも、あれほど規格外の力を使えるのは不思議だと思っていたから。
「話が逸れちゃったわね。と・に・か・く、貴方はアウローラの初めてのオトコになれるかもしれない、ってこと!」
「っ!!」
思わず、一糸まとわぬ姿のお姉ちゃんを想像してしまって、慌てて頭を振る!
「ウフフフフッ!いいわねぇ、若いって」
今日イチ笑っておられる女神様に、僕は赤面するしかなかった。
うぅ、心を読むなんて卑怯だっ!
「フフ、ごめんなさい。・・・・・・でも、個人的には本当にあなたに期待しているから。何があっても、貴方にはあの子の傍にいてあげてほしくて。私も出来るだけのことはしますからね」
真剣な眼差しに、僕も背筋をピンと伸ばした。
「はい。ありがとうございます、頑張ります!」
どんな未来が待っているかはわからない。
でも、僕としてはお姉ちゃんとずっと一緒にいたいし、ウィンベル様と同じように、そのために出来ることはなんだってするつもりだ。
お姉ちゃんに対する気持ちは・・・・・・まぁ、これは相手があることだし、僕があれこれ考えたって始まらない!
とにかくもっと立派な頼りがいのある勇者になること!
そうすれば、お姉ちゃんを護ることにもつながるし、きっと恋だって!
女神様は満足そうに頷いて「よろしくね」と優しく微笑んだ。
「あら、もう時間みたい。じゃあ、またね。貴方に天と地の祝福があらんことを・・・・・・」
優しく温かな光が頭の中に広がって、僕の意識は溶けていった・・・・・・。
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