第8話 探索師、人助けをする
馬車を追いかける男たちは、手に刀を掲げ口々に前方にヤジを飛ばしている。
騎手の一人は、巨大なペナントをなびかせながら走っている。
それはこの辺りで有名な盗賊団”黒血の牙”の旗だ。
奴らを止めないと!
”黒血の牙”にではないけれど、僕の故郷も盗賊に苦しめられてきた地域だった。
それを退治できるだけの力があるならば、どこに迷う理由があるだろう?
そう思って僕が振り返ると、お姉ちゃんは何も言わずに手を伸ばしてくれた
その手を取って精霊の加護を受取ると、僕は両足に力を込める。
”かわのくつ”の跳躍力で一気に空へと舞い上がる。
斜め前方45度には、逃げていく馬車と、それを追いかける騎馬団。
馬に乗った男たちは刀を掲げ、馬車に向かってヤジを飛ばしているみたいだ。
「はぁっ!」
僕は空中から木の棒を振り下ろした。
三日月型の剣風が一直線に地上へと駆け下りて地面をえぐり、馬車と盗賊団の間に巨大なクレバスを作った。
「な、なんだぁ!?」
「ぐあっ、お、落ちるぅ!!」
慌てて男たちは手綱を引くけど、多くの馬は間に合わずに、騎手を乗せたまま割れ目の中に落ちていった。
それでも2~3騎は上手く手綱をさばいて、なんとか馬の首を返すと元来た方向へと逃げていく。
「そうは、させないっ!」
僕は軽く空中を”蹴って”方向をわずかに変えると、奴らの行く手を阻むように地面に降りた。
ザザザザッ!
着地すると、大量の土が舞い上がって盗賊たちへ飛んでいき、
「ぐぁあっ!!」
「おおっ!!」
土くれは馬と人の胴を真っ二つにした!
えっ!?呆然とする僕の視界が鮮血で染まる。
そうか、僕が一瞬でも触れたものは全て”精霊の加護”を受けてとんでもない殺傷力を秘めた武器になってしまうのか!
なんて力なんだっ!
「ぐっ、てめぇ、よくもっ!」
紙一重で馬から下りて”土の刃”を避けた男は、剣を抜くと僕をにらみつけた。
人相書きで見覚えのある顔、こいつが”黒血の牙”の首領か。
血走った目に殺気を漲らせた大男。
昨日までの僕ならば、目も合わせることはできなかっただろう。
でも今は違う。
相手がどう動こうとしているのか、どう対処すべきか手に取るように分かるから。
「むざむざとやられる俺じゃねえぞ!」
向こうは相打ち覚悟で挑むつもりみたい。
でも、そんなことはさせないよ!
一瞬の隙をついて首領との間合いを詰める。
「!?」
驚く相手の首ねっこを掴むと、僕は腰に下げた空のアイテムボックスの口に突っ込んだ。
「むぐ――」
声を上げる間もなく、大男は小さな箱の中に吸い込まれていった。
このアイテムボックスも”加護”を受けることでほぼ無限の奥行きを手に入れている。
中は迷路状になっていて、僕しか適切な出口は作れない。
街に着いて、騎士団に身柄を引き渡すまでここで大人しくしていてもらおう。
「んー、レイくんは優しいねぇー!」
「別に情けをかけたわけじゃないよ。ここで死なせたら、奴らが今まで奪った金品のありかも分からなくなっちゃう」
それじゃ被害に遭われた方の為にならないからね。
「それより、お姉ちゃん。今みたいなの、なんとかならない?」
さっきの土みたいに、意図しないで触れたモノまで凶器になってはたまらない。
お姉ちゃんはバツが悪そうに頭をかいた。
「アハハ、ごめんね!言ってなかったよね、『設定』いじればどこまでを”加護”の対象にするかは決められるの」
「もう・・・・・・」
頭の中で念じると、歯車のマークが現れる。
マークを押すと、加護対象を決める画面が出てきたから、自分の装備、所有物のみを加護対象にするようにチェックした。
うん、これでよし!
そのとき、馬車の音が聞こえてきた。
見ると、先ほどの馬車がこっちに向かってきていた。
馬車が僕たちの前で止まると、中から一人の男性が転がるようにして出てきた。
「ど、どなたか存じませんが本当に、本当にありがとうございますっ!なんとお礼を申し上げたら良いか・・・・・・!」
男性は地面に頭をこすりつけるようにしながら、
「私、バイヤルと申します。この辺りで商いをしております行商人にございます」
「レイクス、といいます」
と僕も自己紹介すると、
「レイクス様、どうか折り入ってお願いがございます!私の護衛を引き受けていただけないでしょうか?」
バイヤルさんは切羽詰まった目で見つめてきた。
「えぇ、構いませんよ」
それくらいお安いご用、と引き受けると、
「おぉ!なんと、なんとありがたいことかっ!あなた様はまさに天からの使いですっ!」
「そ、そんな大げさな・・・・・・」
と思わず頭をかくと、
「いいえ、そうとしか思えませぬ!今の私は、私だけの命ではないからです」
バイヤルさんはきっぱりとそう言った。
「と言いますと?」
僕の疑問に、行商人は意を決した顔でこう答えた。
「私はある密命を受けているのでございます、現在、国境で魔王の先遣隊と戦っているドルフェルン辺境伯様からの!」
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