第3話 探索師、精霊の加護を受けて、最強無比の力を手に入れる


 アウローラ様はキリっとした眉になって腕組みをしている。

 以前のクールで凜々しい感じというより、いわゆる「ドヤ顔」って感じだ。




「お、お姉ちゃん?」

「そうよ、私はこれからレイくんのお姉ちゃんになるからねっ!・・・・・・ダメかな?」

 とアウローラ様は小首をかしげる。




 あぁ、そんな風に言われると断れないなぁ・・・・・・

 まぁ実際、アウローラ様のほうが年上なのは間違いないし。




「それはいいんですけど、勇者っていうのは・・・・・・僕、何の戦闘スキルも持ってないんですよ?」




 一人の人間が習得できるスキルには偏りがあって、僕みたいに補助系のスキルに適性がある人間が、戦闘系スキルを習得することはほぼ不可能といわれてる。

 だから僕も探索師の道を歩んできたわけだけど・・・・・・






「別に戦闘スキルなんて必要ないよ!私が全力でレイくんに加護を与えるからね!」

「加護・・・・・・スキルのレベルアップ効果ってやつですね?」




「うぅん、そんなまどろっこしいことはしないよ。なんてったって、私の加護でレイくんの持ち物が全っ部、”聖導具”になるんだから!」




 どういうことだろう?と頭に疑問符を浮かべていると、アウローラ様は「例えば・・・・・・」と言って庭先に転がっていた木の棒を手に取った。



 


「キミがこの棒を持てば、それは伝説級の武器になる。キミがこれを一振りするだけで、剣風が敵をなぎ倒す!これなら戦闘スキルは不要だよね?」





「!」

「レイくんが今来ている服も帽子も、ハイドワーフが作った防具より遙かに強くなる!だから敵の攻撃を避ける必要もない!どう?悪くないでしょ?」





「確かに・・・・・・」

 それが本当ならものすごく魅力的なことだけど

「あの、アウローラさま――」





「お姉ちゃん!」

 突然、僕の言葉を遮った精霊は、そういって頬を膨らませた。





「これからは『お姉ちゃん』って呼んでほしいんだけど・・・・・・!」

「は、はい。分かりましたお姉ちゃん」





 僕の回答に満足したアウロ・・・・・・もといお姉ちゃんの笑顔はとても美しいけれど、なんだか妙なことになったなぁ。

 ずっと弟が欲しい願望、みたいなのがあったんだろうか?





「それでその、ゴーマンさんへの加護はもうしない、ってことなんですよね?それって大丈夫なんですか?」




「・・・・・・大丈夫よ!」

 いや、今の間は絶対大丈夫じゃないよね!?




「だぁってぇ、もうあんなヤツ、加護を与えるどころか近寄りたくもないんだもの!」




 

 でも、勇者と精霊の契約は二人だけのものじゃない。

 精霊は天界からの命令で勇者の加護を請け負っているんだから、勝手な契約破棄は許されないはずだ。





「もし今回のことでお姉ちゃんが天界から罰せられたりしたら、その、、申し訳ないっていうか」

 と僕が頭をかくと、美しい精霊は驚いたように大きく目を見開き、瞳を潤ませて





「あぁ、レイくん、レイくん!!」

 と抱きついて頬ずりしてきた!





「キミってば本当に・・・・・・っ!やっぱりキミをえらんで良かったよぉーー!!」

「むぐぐっ!」



 柔らかな感触に包まれて三度思考が停止しかけていると、お姉ちゃんは抱擁から解放してくれた。





「心配してくれてありがとう!でもきっと大丈夫!まぁ確かに、天界には頭のかたーいのが多いけど、私の上司のウィンベル様は話の分かる方だから・・・・・・」





 ウィンベル様!?

 天上神ゼベル様の娘で、今は天上と地上とを繋ぐお役目を担っておられる女神様!

 地上でも信仰者が多い神様だ。

 そんなすごい方が上司なんだね!




 そのとき、お姉ちゃんはハッと振り返った。

 え、何?

 と思った瞬間、視界全体がまばゆい光に包まれて・・・・・・





 ズッッッッガァアアアアアアン!!

 すさまじい衝撃で地面がひっくり返るかと思うほど揺れた!





「くっ!」

 揺れが収まるまで数秒間腹ばいで耐えた後、顔を上げると





「っ!」

 衝撃的な光景が広がっていた。


 僕の小屋は跡形もなく吹き飛び、周囲の地面も半径10メートル以上にわたって大きくえぐれていた。





 一体どうなって・・・・・・

 っていうかお姉ちゃんは!?





 お姉ちゃんは僕の前に立って両手を前にかざしていた。

 そして、彼女と僕を囲むように金色の丸いバリアが張られていて、その中だけが無事みたいだった。





「お姉ちゃん!」

「大丈夫よ」




 そう言いながら、お姉ちゃんはキッと上空をにらみつけ、

「何のつもりだっ!」

 と鋭く怒声を放った。

 僕と話しているときとは違う、聞き慣れた女騎士風の声だ。





 その視線の先には、5人の人影が宙に浮いていた。

 それらは皆、顔がつるっとしたマネキンのような姿で、白光のオーラを纏い、光の弓を携えていた。





「この子を、レイくんを巻き込むなっ!」

 お姉ちゃんが叫ぶと、5体の弓手の後ろで、空間がぐにゃっと曲がった。

 そしてローブ姿の何者かが現れた。





「邪魔だ、そこをどけ。アウローラ」

 とローブを纏った者は老人のような声で言った。





「っ!?まさか貴様ら、レイくんを狙っているのか!」

 信じられない、というようにお姉ちゃんは声を震わせる。





「仕方があるまい。その小僧がいる限り、お前は精霊としての責務を――」

 光の斬撃が弓手やローブ姿に襲いかかり、老人の声は途切れた。





「ふざけるなっ!!そんなことは絶対に許さないっ!!」

 光の剣をかざしながら、お姉ちゃんは叫んだ。

 怒りのためか、彼女が纏っている光のオーラは10倍以上に高く立ち上っている!


 



 どうやら、彼は天界からの使いで、僕を抹殺しようとしているらしい。

 そうすれば、お姉ちゃんは勇者ゴーマンの元に戻る、と考えているみたいだ。

 突然自分が放り込まれた立場に、背筋が凍る。





「そもそも天界の許可を得てこんなことをしているのか?ウィンベル様はなんと言っておられる?」





 すると、お姉ちゃんの声に応じるように、かき消えたはずの老人は復活した。

 5体の弓手も、何事もなかったかのように宙に浮いている。





「それを貴様が知る必要はない」

 という老人の声を、お姉ちゃんは鼻で笑う。

「フン、独断でやっているのか?ならば貴様とてタダでは済まんな?」





「黙れっ!たかが精霊風情が粋がりよって!貴様程度の力ではこやつらを倒すことはできんのだぞ?」

 老人があざ笑いながら手を上げると、5体の弓手たちは再び弓を引き絞り始めた。





 さっきの攻撃か!と身構えたとき、

 お姉ちゃんは振り返った。





「お願い、レイくん!力を貸して!」

 澄んだ瞳いっぱいに願いを込めるように、お姉ちゃんは僕を見つめてくる。





「わかったよ、お姉ちゃん!」

 と答える。





 相手は神の使いなんだぞ、敵うのか?と囁くもう一人の自分を

 やらなきゃやられるだけだっ!と隅に追いやって、アウローラ様の手をとる。


  



「撃てっー!」

 老人の声が響き、再び光の矢が迫る中、僕たちの手のなかから光が迸る。


 



 そして、頭の中に声が流れ込んできた。


『レイクス=ヴァンダムを”精霊の加護”受諾者として認証します。受諾者の各装備のステータスが向上します。”ぬののぼうし” 対物理防御、対魔術防御は99999まで上昇。対毒、対マヒ、対気絶、対沈黙、対石化、対闇、対詠唱遅延・・・・・・付与効果は超感覚、超思考・・・・・・”ぬののふく”は――」





 とても全部は追えないくらいステータスが上昇する。

 飛んでくる矢が急にゆっくりに見えるようになった。これが超感覚、ってやつなのかな?





 とにかく、僕は地面に転がっていた棒を手に取る。

『”きのぼう”を加護の対象とみなし、ステータスを極限まで向上させます。攻撃力は・・・・・・」



 再びステータスアナウンスが脳内に流れるけど、確認している暇はない。

 急いでお姉ちゃんを庇うように前に出ると、ちょうど5本の矢が目の前に迫っていた。




 さっき僕の小屋を地面ごと吹き飛ばした矢だ。


 ギギギギギンッ!!


 横に構えて盾のようにした棒に、5つの鏃が刺さった!





 いや、刺さってない!?

 鏃は棒の表面で鋭く火花を散らすだけで、少しも傷をつけていない!

 すごいっ、ただの木の棒でこんなことができるなんて!





「フンっ!」

 少し力を入れて押し戻すと、光の矢は回転しながら空高く舞い上がり、次々と爆発した。

 爆発の光に照らされた老人は、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。





 さぁ、今度はこっちの番だ!

 僕は棒を剣のように構えると、相手に向けて横薙ぎに振った。

 光を纏い、三日月のような剣風が一直線に飛んでいく。





「くっ!」

 老人は光のバリアを展開し、5体の弓手もそれに合わせてバリアを広げる。

 けれど、剣風はバリアをすり抜け、中にいた者たちを紙のように切り裂いた!





「ぐあああっっ!」

 叫び声と共にローブ姿はかき消え、真っ二つになった弓手たちも光の粒になって爆散した。


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