第4話 探索師、真の勇者への道を歩み始める
・・・・・・や、ったのか?
信じられない気持ちで手の中の定規を見つめていると、「レイくぅんっ!」という声とともに抱きしめられた。
「すごい、すごいよレイくんっ!ここまでできるなんて!」
「ぼ、僕も驚いてます。相手は神様の使いなのに!」
こんなすごい力をゴーマンさんは使ってたのか!?
「うぅん、あんな三下にこんな手厚い加護するわけないじゃん!レイくんには特別っ、これこそが私の全力全開の加護なんだよっ!」
ピコーンと頭の中に音が鳴る。
『ただいまの戦闘で、5,083,924の経験値が得られました。これにより、剣士レベルが91まで上がります』
うわっ、すごい!洪水のように、レベルアップとステータスアップの通知音が鳴り響く。
レベル91?ゴーマンさんは確かこの前レベル80になったって話だったよ?
そんな、たった一振りで僕が追い越しちゃうなんて!
もしかして、このままいけば本当に勇者になれちゃうんじゃないか、なんて調子の良いことを思ってしまう。
「・・・・・・おのれ、小僧がっ!」
「!」
再び見上げると、先ほどの老人が悔しそうな表情でこちらをにらんでいた。
「下級とはいえ貴様も神族、倒すまではできないか」
とお姉ちゃん。
それでも、ローブのあちこちから煙が立ち上り、確実にダメージが入っていることは分かった。
「人間ごときに刃向かわれるとはな・・・・・・まぁよい、ここからは儂一人でやるだけよっ!」
老人が両腕を広げると、光のオーラが一段と強まった。
まだやる気なのか?と緊張が高まったとき。
「そこまでです」
と女性の澄んだ声が頭の中に響いた。
誰?と思っていると、
「ウィンベル様っ!」
とお姉ちゃんは叫んでその場に膝をついた。
ウィンベル様?まさかご本人?
僕も慌てて膝をつく。
「ギルモア」
「はっ」
名前を呼ばれた老人は一層深く頭を下げる。
「下がりなさい」
「っ!」
「聞こえませんでしたか?下がりなさいと言ったのです。そなたが勝手に行動した事については、追って処分を言い渡します」
氷のように冷たい響きにギルモアは身震いしながら、姿を消した。
「アウローラ」
今度は打って変わって優しいお声だ。
「はっ!」
「まずは謝らせてください」
と女神様は切り出された。
「あなたから『勇者を変更したい』という申し出を何度も受けていたのに、何も出来ずにごめんなさい。せめてもと思って、あなたが勇者パーティを離脱したことを、天界の誰かが勇者たちに告げ口しないよう監視していたのですが、ギルモアがまさかこんな強行手段をとるなんて・・・・・・」
「いえ、そんなっ!ご深慮のお言葉痛み入ります!」
そう答えるお姉ちゃんはさすがに緊張しているみたいだ。
「・・・・・・レイクス、というのですね」
「は、はいっ!」
まさか僕まで声をかけていただけるなんて!
思わず声が上ずってしまったけど、ウィンベル様はフフッと笑って
「素敵な勇者ね」
と言ってくださった。
「あなたとは、また日を改めてお話したいわ。今日はこちらも少しバタバタしているものだから」
「はい、ありがとうございます!」
「それじゃ、またね」
と女神様の声は去って行かれた。
「今のって、僕を認めてくださった、ってことですよね?」
「うんうんっ!本っ当に良かったぁ!まぁ最終的には神様たちの合議会で決まることだから、まだ正式じゃない、け、ど」
急によろけたお姉ちゃんを慌てて支える。
「お姉ちゃんっ!?」
「大丈夫。”全力加護”なんて初めてだったからちょっと慣れてないだけ」
そう言ってすぐにしゃんと立ったけれど、なんだか心配だ。
「街に戻ろうよ。どこか宿をとって休まなきゃ」
「レイくんってば、私なら大丈夫だって!それに街に行ったらレイくんが爪弾きに遭うかも」
確かに、今じゃ街全体が勇者パーティに忖度している状況だ。
精霊であるお姉ちゃんは姿を隠せるけど、僕はそうはいかないし・・・・・・
でも、僕がどんな目に遭ったとしても、力になってくれたお姉ちゃんに少しでも恩返しがしたい!
そう思っていると、お姉ちゃんは微笑んだ。
「言ったでしょう?キミの持ち物は全て聖具になるって。それは何も武器に限った話じゃないのよ?」
「・・・・・・そうか!」
お姉ちゃんの言葉の意図が分かった僕は、早速”宿”の材料集めを始めた。
樹木に引っかかっていたシーツを下ろして、木と木の間にロープを張る。
四方にシーツを張って、天井にも幕を張ると、即席テントのできあがり!
たったこれだけなのに、今まで泊まったどんな宿よりも温かい空気がテントの中には満ちていた!
草むらの上に残りのシーツをかけるだけで、ふかふかのベッドもできるし、加護の力を改めて知らされた。
「素敵なお宿をありがとう」
と身体を横たえたお姉ちゃんは微笑む。”精霊の加護”は1回授受をすれば1日持つらしく、今はお姉ちゃんの顔色も戻ってる。
「いえ、どうしたしまして・・・・・・それより」
「なぁに?」
「なんで、僕と同じベッドに入ろうとするんですか?」
「いいでしょー?私はキミのお姉ちゃんなんだから」
いやその理屈はよく分からないけど。
すると、お姉ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「それとも、一緒だと何か困ることがあるのぉ?」
「えっ!?」
思わず心臓が跳ね上がる。
そんなわけが・・・・・・いや、たぶんない、けれど!
顔を紅くしていると、お姉ちゃんは無邪気そうに声を上げて笑った。
うぅ、本当に姉目線で見ているんだなぁ。なんか複雑な気持ちだ。
まぁ確かに、僕は一応12歳だけど、そうは見えないってよく言われるしなぁ・・・・・・
「あ、あのっ、寝言とか聴かれたら恥ずかしいから・・・・・・おやすみなさいっ!」
そう言って一人でシーツにくるまる。
お姉ちゃんの不満げな視線がしばらく背中に刺さっていたけど、やがてフッと吐息が聞こえて
「おやすみ、レイくん」
と言ってもらえた。
一晩で大事件が起こりすぎて疲れていたからか、僕はすぐに眠りに落ちた。
といっても、これからもっと大変なことが待っているんだろうけど・・・・・・
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