第27話 勇者、足を引っ張る

 そのころのバーセロー。

 副隊長の指揮のもと、守備隊はモンスター群を迎え撃っていた。



「弓隊、構え!」

 副隊長の号令がかかると、城壁の上に並んだ弓兵たちが一斉に矢をつがえて弓を引き絞る。狙うのは二百メートル先のモンスターたちだ。

「放てっ!」

 鋭い声とともに弓弦がうなり、千を越える矢が敵へと降り注いだ。



「グギャ!」

「ガァッ!」

 うめき声があがり、2~3割のモンスターはその場に崩れ落ちる。

 だが残りの者たちは歩みを再開する。



 すると、近くの城壁の塔からキィンと澄んだ音が聞こえ、塔の上に魔法陣が広がった。

「よし、魔術隊攻撃始めっ!」

 副隊長が再び号令すると、塔の魔術士たちは一斉に杖を振った。



 塔から吹き上がった無数の火球は、城壁の下へと雪崩を打って落ち、先ほど以上の数のモンスターが炎に包まれて倒れ伏した。



 だが、それでも生き残った者たちは一歩も退くことなく歩みを止めない。

「くっ」と副隊長は歯噛みした。

 思ったよりモンスターの数が減らない上、複数の巨人モンスターが健在だからだ。



 その巨人一体一体を囲むようにしながら中・小型のモンスター達が進み、矢や火球が飛んでくれば、自らそれらに当たりにいっている。

 まるで巨人モンスターたちを守るように。



――コイツ等は統率されている!

 ただ自然発生したモンスターパレードではない・・・・・・副隊長は背筋が寒くなるのを感じた。

 巨人たちはそれぞれ巨大な斧や鎖付きの鉄球を携えている。それらで城壁を崩されれば、一気に街の中に攻め入られてしまう。



――市民の避難もまだ完了していないというのに・・・・・・!

「パーデス隊長は?ニセモノの勇者の討伐に向かったと聞いたが?」

「はっ、まだお戻りではないようです」



 兵士の返答に、

「全く、間の悪い・・・・・・!」

 と副隊長は首を振った。



 何もこんなときにニセモノなど来なくても良いだろう、とため息をつきたくなる。

 とにかく、このまま防戦を続けていても突破されるのは時間の問題だ。



 副隊長は覚悟を決めると、側付きの下士官に

「城門を開けてくれ」

 と言った。

「えっ?」

「私が囮になって奴らの注意を引く。騎馬隊を集めてくれ」

「っ・・・・・・!」

 悲壮な決意に下士官が頷きかけたとき、



「ハーッハッハッハッハ!!またせたな、野郎どもー!!」

 と大声が響いた。



「誰だ?」

 声がしたのは、左のほうに見える高台。

 そこに馬に跨がった4人の人影が見えた。



 剣を掲げた者の斜め上には、光輝く女性の姿。

「勇者ゴーマン、ここに見参っ!!」



「勇者!?じゃああそこに見えるのは――」

「聖剣の精霊、アウローラ様だっ!」



 ウォオオオと歓喜に沸く兵士達。

「あれが、噂の?」

 と副隊長はつぶやく。



「ハアッ!!」

 かけ声とともにゴーマン達は馬を駆って丘を下り始める。



 魔術師が杖を掲げると魔法陣が展開して、雷の束が飛び出した。

 雷は次々と枝分かれして、雑魚モンスターたちを蹴散らしていく。



 巨人達も、新たに出現した「敵」に気づき、そちらへと動き出す者も現れた。

「副隊長、これは!」

 目を輝かせる下士官に、「うむ」と頷き返す。

 希望が見えてきたかもしれない、と彼らが考えた矢先、



 一体の巨人がぐっと姿勢を低くすると、一気にゴーマンのほうへとジャンプした。そして空中で鎖付き鉄球を振り回すと、勇者へと振り下ろした。



「ぬぉっ、あっぶね!!」

 鉄球はゴーマンの手前に落ち、驚いた馬から振り落とされた。

「くっそがっ!!」

 尻餅をついた勇者は悪態をつきながら立ち上がった。



「デカブツ野郎が・・・・・・この俺様とタイマン張ろうたぁ、いい度胸じゃねぇか!」

 ゴーマンは唾を吐くと、腰の聖剣を抜いた。



「いくぞぉ!ハッ!」

 瞬脚スキルで加速すると、一気に突撃した。だが――



 巨人モンスターはその図体からは想像できないほど素早く剣をかわした。

「ぬぉっ、ととっ!!」

 思わずつんのめったゴーマンの後頭部めがけて、巨人は鉄球を落とそうとする。

「くっ、ああっ!」

 ギリギリのところで鉄球をかわし、地面を横転しながら必死に間合いを取った。



「っの野郎!・・・・・・おい、ワルヨイっ!何してやがる、防御はお前の専門だろうがっ!」

 と言い出す勇者。



「うるさいっ、こっちはこっちで手一杯なんだよっ!」

 十メートルほど離れたところで盾戦士が抗議する。

 彼の後ろには魔術師と治癒術士がいて、3人はモンスターたちに取り囲まれていた。



「だいたい、てめぇ一人で突っ走っておいて、都合が悪くなったからって頼ってくんじゃねぇぞ!」

 女性陣をかばいながら、盾戦士は非難する。



「ホントよっ!アンタは私らを守る立場でしょうが!」

「早く来てよっ、死んじゃうでしょ!?」

 魔術師と治癒術士は真っ青な顔で勇者に叫ぶ。



――な、なんだ、この者たちは?

 副隊長は戸惑った。



 これが、勇者パーティ、なのか?

 それにしては、ちょっと弱すぎないか?



 むろん、同じモンスターたちに手こずっている自分たちが何か言えた義理ではないけれど、それにしたってもう少し上手く戦うものじゃないか?



 副隊長は、過去にいくつかの冒険者パーティとともに魔物討伐をした経験があったが、B級やC級といったランクのパーティでも、彼らよりは技量もチームワークも優れていたのでは、と思い始めていた。



――いや、そんなはずは・・・・・・仮にも勇者パーティだぞ?

「あのぅ副隊長、いかが致しましょう?」



 部下の表情を見て、彼らも疑っていることに気づく。

「と、とにかく援護だ!勇者殿を援護するぞ!」

 彼らの実力はともかく、助けに来たことには違いないし、自分たちがやろうとしていた囮になってくれているのだから、手助けしなければならないだろう。 



「いいから、とにかく戻れっ!」

 とワルヨイが怒鳴る。

「うるせぇ!簡単に言うなっ・・・・・・くっ!」

 ゴーマンは雑魚モンスターから投げられた何かを剣ではじいた。

 すると、それはパンっと弾けて、中から何本もの鎖が飛び出し、

「っ!」

 鎖が全身にからみついて、ほどけなくなった!



 そして彼の頭上に大きな影が迫る。

 ニィっと邪悪な笑みを浮かべた巨人が、ブゥンと鎖を回し始める。

「ぐっ、ああああっ!」

 


 ゴーマンは叫びながら、自由の利かない身体で芋虫のように這いながら逃げようとするが、1メートルも動かないうちに、鉄球の回転のほうは目にも止まらない速さになり、



「ああああああああああっっっ!!!」

 絶叫する勇者へと振り下ろされようとしたとき、



 ザッッッッッ!!!

 鋭い風切りの音とともに、巨人の身体は上下まっ二つになった。



「っ!?!?」

 何が起きたのか分からないゴーマンの目の前で、巨人の上半身は鉄球ごと、烈風に吹き飛ばされていった。



「なっ!?」

 城壁にいた副隊長たち守備隊も目を疑った。



 突然風が吹き抜けて、巨人達の身体が一斉に、粘土が引きちぎられるように吹き飛んでいったからだ。



 見ると、その扇形の風波の「始点」に、一人の少年が立っている。

 身の丈を超える剣を構えながら、ふーっと息を吐いた彼の側には、美しく光輝く女性の姿があり、その後ろには銀のたてがみを輝かせる一頭の狼が控えていた。



「攻撃を続けてくださいっ!相手に陣形を立て直す隙を与えないでっ!」

 少年の澄んだ声が戦場に響く。

「何をしているっ!勇者レイクスの言葉が聞こえないのか!?」

 そう言って少年を補佐する凛とした女性の声に、副隊長は直感した。



「まさかこれが、いや、この人たちが・・・・・・本物の勇者、本物の、精霊っ!」

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聖剣の精霊は、勇者よりも追放された僕がお好みのようです!?~木の棒でも伝説級の武具に変える”精霊の加護”を受けて無双します!~ まめまめあいす @orufelut

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