第22話 探索師、女騎士と顔を合わせる
城の応接室に入ると、ドルフェルン辺境伯が待っておられた。
「忙しいところ、申し訳ない」
「あぁっ!レイクス!無事だったのねっ!」
「ぎ、ギルド長!?」
出迎えてくれたのはギルド長のルクシアさんだった。
僕の姿を見るなり、わっと駆け寄ってきた彼女を慌てて抱き止める。
「どうしてここに?」
「あなたの小屋が吹き飛ばされていたから、心配してたのよ・・・・・・っ」
と言ってルクシアさんは涙を拭った。
そっか、そういえばそうだった。
あんな状態を見れば、確かに誰でもびっくりするよね。
「ご心配おかけしました」
と応えると、ルクシアさんはうぅん、と首を振って笑顔を見せた。
「それにしても、僕がここにいるとよくわかりましたね?」
「そりゃもう!ドルフェルン領都はあなたの話題で持ちきりなんですもの!英雄が伯爵様の元に舞い降りたって!」
舞い降りたって・・・・・・喜んでもらえるのは嬉しいけどどんな伝わり方をしてるんだろう?
そう考えていると、ルクシアさんは後ろを振り返った。
「こちらの、エリスさんがここまで連れてきてくださったの!」
その言葉に、軽鎧をまとった女性が進み出た。
この人がナマクラン侯爵家からの使者なんだね。
若草色の綺麗な瞳をしていて、気品のある人って感じだ。
「エリス=ロブソンと申します。アウローラ様、お目にかかれて光栄です。そして・・・・・・あなたが、レイクス殿ですね?」
「は、はい・・・・・・」
と頷くと、エリスと名乗った女性騎士はなぜだか、まじまじと僕のことを見つめてくる。
ど、どうしたんだろう?
「あ、すみません!あなたのダンジョンレポートを読ませていただいて、ずっとお会いしたいと思っていましたので・・・・・・!」
エリスさんはハッと我に返ると、パッと頭を下げた。
「そ、そうだったんですね、それはどうもありがとうございます」
すると、お姉ちゃんが大きく咳払いをした。
「で、用件は?」
うぅ、ざわざわと殺気を放っててなんだか怖いぞ・・・・・・
エリスさんは、失礼いたしました!とお詫びしてから、
「申し訳ありませんアウローラ様、なぜ勇者パーティから離れられたのか、お聞かせ願えませんか?」
と切り出した。
「良かろう」とお姉ちゃんは頷く。
お姉ちゃんがパーティを抜けて僕と一緒にここまで来た顛末を、エリスさんは静かに頷きながら聞いていた。
「なるほど、ご事情よく判りました。確かに、ゴーマン以下4名の者は横暴な言動が目立ち、勇者として不適格であると我々も思います」
とエリスさんは言った。
おや、侯爵家でも問題は把握してるみたいだね?
「ですので、我々としましても速やかに”薔薇の鷹”を処分し、レイクス殿を勇者としてお迎えしたいと考えているのです!」
そう言って彼女は一通の書簡を僕に差し出した。
それを開くと、
確かに、ゴーマンさんたちとの契約を破棄して拘禁することと、僕、レイクス=ファンダムを新たな勇者として認定して侯爵家で迎えたいという内容が書かれていた。
「この書面にあるのは、侯爵本人のお考えですか?」
「はい」
「これを書かれたのは、ナマクラン侯爵家全権使サビエとなっていますが?」
「侯爵様より、勇者の方をお迎えする任務の一切を預かっている者です。ですので、侯爵家の総意と受取っていただければ――」
「果たしてそうですか?いざ侯爵家の屋敷に行ってみたら、『”薔薇の鷹”と和解しろ』『精霊と勇者ゴーマンを再契約させろ』と侯爵様が言われる可能性もあるのでは?」
「いえ、そのようなことは――」
「ない、と断言できるのですか?」
「それは・・・・・・」
エリスさんは口ごもってしまった。
もし侯爵様が、新たに僕を勇者として雇うことになるなら、最初に”薔薇の鷹”を選んだことは「間違い」だったと認めることになる。
そんな、貴族としての面目を失いかねないような真似をするだろうか?
貴族様が自分の権力を盾にして、下々の者に無理矢理言うことを聞かせるというのはよくある話。
『勇者パーティを処分する』というのは、臣下、つまりサビエさんやエリスさんが勝手に決めたこと、と侯爵様本人が強弁して、薔薇の鷹に従えと強要してくることは十分に考えられる。
「念のため申し上げますが、別に侯爵様に歯向かおうというのではありません。僕がアウローラ様からお預かりしている力は、来るべき魔王軍との戦いに用いるべきもので、決して侯爵家や王国に弓を引くつもりはないのです」
と僕はエリスさんの目を見つめながら話した。
「しかし、いえ、そうであればこそ、一つのお家で事を決めるのではなく、王国の皆様にご納得いただける形で勇者を決めるべきだと思うのです。そのために僕はこれから王都に参上し、王家立会いの下でお話をしたいと考えています」
「っ!」
エリスさんは唇を噛んだ。
僕がドルフェルン様に目配せすると、彼は頷いた。
「既に王都へは入城を許可いただくよう請願書を出している。私自身も今回の戦いについてご報告しなければならんのでな。レイクス殿とともに王都に上るつもりだ」
「ドルフェルン家で勇者殿を囲うおつもりかっ!?」
食い下がるエリスさんに、ドルフェルン様は静かに諭す。
「それを決めるのは私ではない。あくまで国王陛下に全てお任せするということに過ぎん。勿論、レイクス殿は私の恩人だからな、そのお方のために私が力を尽くせるのであれば、これほどの喜びはないと思っているがね」
するとエリスさんは床に跪いて頭を下げた。
「どうか助けると思って私と共にナマクラン家に来ていただきたい!侯爵様のお屋敷では既に、アウローラ様をお披露目するための式を用意して親族や縁戚の方もお招きすることになっているのです!このままでは――」
「侯爵が恥をかいてしまう、と言いたいのか?だがそれはそちらの都合。我々が付き合う義理はない」
とお姉ちゃんは冷たく突き放す。
エリスさん自身は偉ぶったところのない誠実な人のようだし、今の状況は気の毒だと思うけど、こちらとしてはわざわざリスクを負う理由はない。
「っ・・・・・・!」
エリスさんはぎゅっと拳を握って黙っていたけれど、
「判りました、では・・・・・・」
と言って立ち上がり、細剣の柄に手を掛けた。
「このエリス=ロブソン、レイクス=ヴァンダム殿に決闘を申し込むっ!」
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