聖剣の精霊は、勇者よりも追放された僕がお好みのようです!?~木の棒でも伝説級の武具に変える”精霊の加護”を受けて無双します!~

まめまめあいす

第1話 探索師、勇者パーティを追放される

 僕はレイクス。

 2年前に故郷を出て以来、ある冒険者ギルドで探索師をしている12歳だ。


 今は栄えある勇者パーティに雇われて、忙しい毎日を送っている。

 大変な時もあるけれど、故郷に残してきた小さいきょうだいたちを養うためには、弱音を吐いてはいられない。

 そう思って日々頑張ってきたんだけど……



「あぁ、そういえばレイクス。お前、今日でクビな」

と勇者パーティ「薔薇の鷹」のリーダー、ゴーマンさんは酒場で突然言い出した。



 僕はあっけにとられて

「え?」

 としか言えなかった。

 え?くび?


 

 すると、ゴーマンさんの隣に座る魔術師のタカビィさんがブフーッと吹き出した。

「ちょっ、リーダーったらまだコイツに言ってなかったのぉ!?」

 手を叩いて笑うタカビィさんに

「っせーな、忘れてたんだよ!」

 ゴーマンさんはうるさそうに舌打ちした。



「あの・・・・・・冗談、ですよね?」

 恐る恐る聞いてみる。

 今は二人とも、僕が接いだお酒を飲んで酔っ払っている。

 だから、これはただの冗談なんだろう、うんきっとそうだ!


 

「いや、冗談ではない。前々から決まっていたことだ」

 そう言ったのは、盾戦士のワルヨイさん。

 彼はお酒を飲んでないし、冗談を言う人でもない。ってことは本当に僕はクビ――



「っ!」

 雷が落ちたようなすさまじいショックが全身を走って、膝をつきそうになる。



「ちょっと、ボサっとしてないでアタシにも接ぎなさいよっ!」

 治癒術士のイビータさんの怒鳴り声が遠くに聞こえるくらい、頭がぼうっとして

「なんで?」

と思わず口にしていた。



「あ”ぁ?『なんで?』だと!?すっとぼけたこと言ってんじゃねぇよ!」

 ゴーマンさんはイラついた声を上げると、剣を抜き放った。



「てめぇは、この俺様が分け与えてやっている”聖剣の加護”を全っ然活かせてねぇからだよっ!!」

「っ!」

 鋭い切っ先を向けられて、僕は思わずひるんだ。



 その剣は、聖剣ヴァイスカイザー。

 半年前、彼が聖なる岩から抜いてみせた勇者の証。

 500年前、先代の勇者が魔王を倒したときの名剣で、今なお世界最強と謳われる伝説の剣。



 それに対して、僕は戦闘スキルを持たないただの探索師だ。

 もし本気で斬りかかられたらひとたまりもないだろう。



 このヴァイスカイザーが特殊なのは、持ち主に与えられるいろんな”加護”、つまりステータスやスキルのレベルアップ効果を持ち主以外にもシェアできるってこと。


 

 パーティ仲間が剣士なら攻撃力や武技スキル、魔術師なら魔力量や魔術スキルが上がってるってわけだ。



「貴様は探索師。だから俺様が”加護”をシェアしたことでルート探知スキルのレベルが上がってるはずだ。だが、今の貴様はどうだっ!」

とリーダーは声を荒げる。



「早くたどり着けるルートが開拓できるようになったのかと思えば、期待外れ!遠回りさせたり、同じ所に戻ってこさせて、まるっきり無駄足じゃねぇか!ルート探知スキルってのはお飾りか!?チンタラチンタラ何やってんだてめぇはっ!」



「すみません、でも、早くたどり着ければいいってものではないので……」

 前にも説明した気がするけど、と思いながら、僕はもう一度話すことにした。



 高難度ダンジョンは意思も知能もあって、こちらの動きに合わせて臨機応変に対応してくる。



 でも、”加護”でレベルアップしたルート探知スキルなら、どんなダンジョンでも全範囲がカバーできるから、先のフロアや部屋で何が待ち構えているか察知して回避できる。



 確かに、時には同じ部屋に戻らざるを得ないときもあるから、申し訳ないとは思っている。



 でも、その分、別のところで時間を節約できるように努力はしているんだ。

 例えば、これまでの半分の時間でトラップ解除をしたりとかね。



 最近気づいたのは、その場で一番難しいトラップを解ければ、いくつも解除しなくていいから一番早く済むってことかな。



「・・・・・・というわけで安全確実なルートをとっているのですが」

 と言い終わらないうちに、



「るせぇ!そういう言い訳はもううんざりなんだよ!!」

 ドンっとテーブルが叩かれ、シンと静まりかえる。



「……てめぇ、自分のスキルに酔ってんだろ?」

「え?」

「スキルレベルが上がったからって調子に乗ってじゃねぇって言ってんだよっ!なんでもお見通しだからって頭自体がよくなったつもりか?回りくどい道ばっか取らせて軍師気取りかてめぇは!」



 スキルに酔ってる?軍師気取り?

 意味が分からない。僕ってそんな風に思われてたの?

 受け止めきれない言葉が頭の中でぶつかり合う。



「そうそう、トラップ解除もさぁ、小難しいのを解いて得意になってるだけなんじゃないのぉ!?」

 とタカビィさんもリーダーの意見に乗っかる。


「おまけに、アイテム残数の確認させようとか休憩時間を決めようとか、戦いになれば隅っこで震えてるだけのガキが偉そうにさ!」



「お前がくだらないことをしている間に、我々は確実に成長したんだ」

 ワルヨイさんはやれやれ、という様にあきれ顔をしている。


「加護によるスキルレベル向上だけではない、俺たち自身が経験値を重ねてステータスを上げることで、勇者パーティを名乗るにふさわしい力を手に入れたんだ。お前の小手先の戦略など必要ないほどにな!」



「だいたい~、うちのリーダーが優秀だったから聖剣に選ばれたわけでしょぉ?」

 イビータさんはケラケラと笑いながら、リーダーの腕に身体を寄せる。


「多少敵の数が多かろうと問題ないじゃない?そもそもあんたの出る幕なんて最初っからないのよぉ!」



 僕が頭の整理をできないで固まっていると、ワルヨイさんがのぞき込んできた。

「どうした?もしや図星だったか?」

「なっ!ーー」



 違う!と言う前にゴッと強い衝撃が腹に来た。

 蹴られたとわかった瞬間には、僕は壁に叩きつけられていた。



「ぐっ!」

「失せな、クソガキがっ!」

 リーダーの罵声が頭に響く。



「正体表したねぇ、小僧が!」

「リーダー、もっとやっちゃってよぉ!」

 と女性陣がはやし立てる。



 くそっ、違う!そうじゃないのに!

 本当にパーティのためを思ってやってきたのに!



 そのとき、リーダーは何かに気づいたような顔で

「お前はどう思う?アウローラ」

 といった。



 すると聖剣の中から少しためらう気配があった。

 やがて剣はパッと輝き、光の粒が奔流になって現れると、瞬く間に人の形になった。 


 聖剣の精霊、アウローラ。

 聖剣に宿る彼女は勇者と契約し、その者に一騎当千の加護を与えるとされている。


 銀の甲冑を纏った女騎士といった風貌の精霊は、天井近くからこちらを見下ろしている。



「おぉ、アウローラ様だ!」

「なんとお美しい……」



 酒場にいた客たちは次々とその場にひれ伏した。

 勇者パーティも膝をつき、精霊と対等であるとされる勇者以外は誰も立っていない。

 僕も慌てて床に正座して、そっと見上げた。



 綺麗に編み上げられた輝く髪。

 長いまつ毛に縁どられた涼やかな瞳。

 そして全身を包む金色のオーラ。

 今まで何度もお目にかかったけれど、そのたびにドキッとする美しさだ。



 アウローラ様自身は敵と戦わないけれど、戦いの指揮を執っているときの立ち姿は凛々しいし、ダンジョンの攻略が終わってパーティが喜んでいるときも、彼女だけはクールなままどこか遠くを見ていて、そんな横顔に憧れてもいた。



 一体、彼女はどんなことを語るのか……

 心臓が張り裂けそうになりながら待っていると、アウローラ様は桜色の唇を開いた。



「私は勇者と契約し、勇者の言葉に従い、勇者のために力を尽くす者。ゆえに人同士のいさかいに口を出す気はない。だが、一つ言うならばーー」

と一旦言葉を切って、僕に視線を向けた。



「真の勇者のために”加護”の力を使えないのであれば、この場から立ち去らねばならない、ということだ」



「えっ……!」

 全身から血の気が引いた。



 つ、つまり、僕はリーダーのため、パーティのために力を使えていないってこと?

 精霊から見ても、僕は”加護”の力を無駄にしているっていうの?

 そんな、そんなっ……!!

 足元がガラガラと崩れ去るような感覚がして視界がぐわんぐわんと揺れる。



「ハーッハッハッハ!!決まりだなぁああっ!!」

 リーダーの勝ち誇ったような高笑いが耳に木霊した。



 *     *     *



 僕は今、トボトボと裏通りを歩いている。

 時計を見ると、あれからまだ10分ほどしか経ってないけど、なんだかずいぶん前の事のような気がする。



 あの後、酒場じゅうの人間から罵倒され野次られた僕は、首根っこを捕まれて外に放り出された。

 取りすがるまもなく扉を閉められ、僕は仕方なく自分の家へ戻ることにした。



「どうして・・・・・・っ」

 ため息をつきながら、僕は血がにじむほど自分の両手を握りしめた。



 いや、まぁ、勇者パーティを追放されたこと自体は受け入れられないことはない。



 ”薔薇の鷹”は幼馴染同士で構成されているけど、僕だけは雇われの身だった。

 元々、彼らからの当たりは厳しかったり、邪険に扱われることも多かったから、僕自身も彼らは苦手だと思っていたし、所詮はただの契約関係だったんだって、そう割り切ることは難しいことじゃない。


 

 でも、とため息が出てしまうのは、聖剣の精霊・アウローラ様のことを考えているから。

 彼女の言葉が頭の中によみがえってくる。



 あれはやっぱり「お前は役に立っていないから出ていけ」って意味だよね?

 そのことに正直、傷ついていた。



 ゴーマンさんたちはその場その場で戦うことが専門だから、僕のやり方を理解してくれないのは、仕方ないっちゃ仕方ない。



 でも、精霊は違うはずだ!勇者に対して助言もする彼女は、もっと全体的に戦いや攻略を見ているものだと思っていた。



 それに、アイテム補給や休憩についてリーダーに進言して拒否られたときも、アウローラ様が採用してリーダーにもう一度言ってくれることがあった。



 だから、あの時も僕は少し、いやかなり期待していた。

 もしかして、僕の働きを認めてくれるんじゃないかって。

 そして勇者パーティの勘違いを諫めてくれるんじゃないかって。



 でもそれは幻想だった。

 僕は彼女からも、うぬぼれ野郎だと突き放されてしまったんだ……!



 くそっ、なんで、なんでなんだよ!

 そう考えると、胸の奥をぐっと押さえつけられたような苦しい気持ちになって涙が溢れた。

 もうたまらなく情けなく悔しかった!



 いや、やめよう。こんなことを考えるのはよそう!

 ハハッ、別段おかしなことはないじゃないか。そもそもうちのリーダーに聖剣を抜かせて勇者にしたのはアウローラ様じゃないか。



 勇者としてふさわしいと考えたから、リーダーを選んだわけで、その彼の意見に同調するのは当然のことだろう。



 そもそも、彼女とはほとんど話したことはないんだもの、勝手に幻想を抱いて勝手に幻滅したのは僕のほうってわけだ!



 自嘲気味に笑って、涙を拭いて前を見ると、もう家の前まで来ていた。

 家っていっても、ただの掘っ立て小屋なんだけどね。



 正直、パーティからもらう給料だとまともに宿代が払えないから、街外れの土地をタダ同然で借りて自分で建てた小屋だ。



 扉を開けて「ただいま」とつぶやこうとしたとき、


「レイくん!」

と女性の声がした。

 

 ぎょっとして振り返ると、眩い光球が現れ、その中から誰かが出てきた。


 その人は、見覚えのある女性。

「アウローラ、様!?」

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