第9話 繊細ながらも大胆に

「あの人が今回の相手ですか」

 メルカ・クレハートさん。見事な赤毛のポニーテールが周囲の光を帯びてまるで燃えているようにたなびいています。

「次は貴女ね。私の相手は。てっきりカリムがくると思っていたのだけれど、そうじゃなかったのね」

 どこか憂いを抱いたような表情で彼女の持っている剣を見つめて私にそっと告げます。

「先ほどお相手させていただいた方には残念ですけど、私が勝ち上がらせていただきましたよ」

 この方と先ほど戦ったカリムさんはお知り合いでしょうか。まあ、でも、戦いの場での理不尽は日常の範疇ですよ。

「そう、なら貴女が私を楽しませてくれるのね。期待しているわ」

 光の幕が上がり始めると私に形成される刃を向けながら告げてきました。

「上等ですよ」

 私は喧嘩を売られた気がして、出現したサンフレアを構えすぐに戦える準備をします。

 お相手の剣はエストックですか、剣から察するに連撃とスピード特化のタイプでしょうね。私的にはあまり戦いたくはないタイプです。それでも、今はしのごの言ってられないですからね。

「いきますよ」

 試合開始の笛が鳴り響くと同時に目の前まで間合いを詰められていました。

「そうきますか!」

 猛烈な速さで繰り出される突きは私の思っている以上に威力があり、私の頬をあと少しでというところを突き抜けていきました。

 相手の行動を予測して避けて正解でした。防御したのなら確実に崩されているほどの威力です。

「避けるのね」

 そう呟いたかと思っていたら、突き出していた刃をそのままに切りつけようと連撃を繰り出してきました。

「!?」

 当たるという寸前で自身の持つ剣で防御しましたが、どうも予測できないような連撃をしてくるので対応にワンテンポを要するような形になってしまっています。

「私もそれくらいの芸当はできますよ!」

 防御し弾いた一瞬の隙を利用し、薙ぎ払うような一撃を相手に放ちます。

「ふふ、いい攻撃ね」

 まるでわかっていたかのようにひらひらと舞って私の攻撃を回避しました。

「いいですね、まだまだ!」

 薙ぎ払う一撃の次は叩きつけるような上段の一撃で、相手の回避を刈り取るように間合いを詰め寄りつつ放ちます。

「楽しくなってきた」

 相手は少し私からの攻撃の軌道を逸らすように剣を置き、最小限で私の攻撃を防ぎます。

「そうですね」

 状況的には互角に見えます。でも、まだまだ私も相手も状況を伺っていて本命を残している状況という感じです。この焦ったい睨み合いは先に仕掛けたどちらかの勝敗を分けるような、そんな感じの雰囲気をお互いわかっている上でどうするかを見極めているカタチです。

「このままだと埒があかないですね」

 お互い仕掛けるタイミングをずっと見計らっているので、どちらも相手を誘うような攻撃をしては返しを繰り返す拮抗した状態でしたので、ここら辺で仕掛けてみましょうかね。

「!」

 一定の間隔で互いに交わしていた剣の軌道を加速させ、私の有利な空気へと持っていこうとさせます。

「もう少し詰めさせていただきますね!」

 あたりに響き渡る金属音が少しずつ大きくなるにつれて私の攻撃がより鋭く、そしてのしかかるような重たい一撃に変わっていくのをこのサンフレアを通して深々と感じます。

「これは!」

 加速していく攻撃の最中に多分悟ったのでしょう。今までの攻撃とは違う、確実で正確に首を狙う一撃に。

「もう遅いです」

 攻防一体の動きはまさに無敵であり、隙なんてものはないに等しいんですけど、少しの隙間に、針の穴を通すように剣を刺せば簡単に崩れるものなんです。

 確信を信じた勝利の一撃。そんなものを返す人間は少ないハズでした。でも、

「甘いよ!」

 確固たる一撃のはずでしたが脆く荒々しい金属音をたて崩れ去りました。

「な!」

 勝利を確信した油断で大きく姿勢を崩してしまいました。

 これはまずいです。確実に負ける体勢です。

衝撃インパクト!」

 刺突による攻撃をギリギリで衝撃の反動で身体をずらしましたが、左足にヒットしてしまいました。

「素敵な身のこなしね。私貴女のこと気に入ったわ」

「それはどうもです」

 極限まで研ぎ澄まされた防御性能に、素早く隙を捉える高速攻撃。

「私はあなたのこと気にいりません」

「あら、振られてしまったわ」

 勝ち筋は未だ見えずといったところでしょうか。いえ、ここで引き下がるわけにはいきませんよ。私だって強さというもの証明するためにここにいるんですから。

実行エグゼキュート

 回せ。回せ。私の知る体を巡る力の根源を。

「いきます」

 先程開けた間を即座に詰めながら鋭い一撃による牽制を叩きに行きます。

「!重たいね。どこから…!」

 まだ余力があったのかというような反応でしょうが、お生憎様体力に関して言えば私の自慢できる部分の一つでして。

 牽制として放った一撃をかわさず受け流すようにしましたが、この間合いは私のものです。受け流された刃を身体の動かさる角度いっぱいを使い剣を次の攻撃に繋げます。自身の身を一回転させて放つ一閃を行いましたが、惜しくも避けられてしまいました。それでも私は攻撃を繋げることをやめません。無理な体勢で相手が避けたためにそこへと一点に刃を突き刺していきます。

「なん…」

 私の放った刺突が見事相手の横腹部に命中し、この時点で致命的損傷によるダメージアウト一歩手前の状態になりましたが、どうせトドメを刺すかそういった状態にしなければ剣士という種類の人間は動き続けるので首元に沿わせるように剣を置きます。

「獲りましたよ」

 これで勝ちです。

「負けたよ。君、強いね」

 光の幕が下がり始めると息をついたメルカさんに話しかけられました。

「いえ、まだまだ至らないところばかりですよ」

「謙遜?まあいいわ。貴女、なぜ私にトドメを刺さなかったの?」

 痛いところを突かれた気がして少し心臓が浮く感じがしました。

 正直言うと私はあまりトドメを刺すという行為自体かなり抵抗があります。私の家系は特にを突き詰めているような家系でもあるので。だから、私は本当に殺さなければいけない、殺したくなるような人間でなければ首に剣を通すことができません。

「私の気持ちの問題です。気にしないでください」

「そう、ならその問題はやく何とかしないと重要な局面で痛い目を見るわ。それだけ」

 的を得た的確すぎてぐうのねも出ないような言葉に私は少し怯んだように一瞬だけ時間が止まる。

「ッ、ご忠告どうもです」

 わかっていますとも。私にはその弱点によってこの前紅羽さんに苦汁を飲まされましたから。だからこそ、この場で全てを振り切ってみせましょうとも。

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