第19話 焦燥はすぐ後ろ

 屋根伝いに歩くこと数分、目的地であるソードショップに到着しました。

「ここね。通りの外れの路地裏なんて隠れ家にピッタリじゃない」

 見た目はいかにもな武器屋といった路地裏にひっそりと佇み、常連さん以外お断りといった感じのお店です。しかし、こういった知る人ぞ知るような場所こそ人が逃げ込むにはちょうどいい場所だと思えてきます。

「入ってみましょう」

 ドアノブに触れ中に入ろうとするとドアが何かに引っ掛かって開きませんでした。これは人がいる可能性をあげているようなもので少し希望が湧いてきます。

「すみません!開けてくれませんか!私たちは味方です!」

 中に聞こえるような音量で店内へと呼びかけますがまるで反応がありません。

「下がって向日葵。ぶち抜くわ」

「へ?」

 私が感覚的にバックステップで下がると間髪入れずにドアに向けて剣撃を放ちます。

「やるならちゃんと聞いてくださいよ」

 正直びっくりしましたし、危うく抜刀するところでした。

「またやることがあったらそうするわ」

 ひらひらと手のひらを振ってドアの残った破片を蹴り壊して店内に入っていきます。しょうがなく思いながらも続いていくと店内はおそらく能力者によって荒らされた普通ではあり得ない痕跡が多数散見されるひどい状態でした。

「他のソードショップもこんな感じで潰されtいるわね。置いてある剣が全部破壊されてる」

「本当ですね。これじゃこういったお店は全滅っぽいですね」

 他に店内にないかと店内の奥へと少しずつ入っていくとカウンター横あたりにみたことのあるモニュメントが置かれていました。

「これってSRSの認識デバイスですかね?に似てるだけにしても意味深…」

 試しにサンフレアを差し込んでみると、予想通り何かが起動するような物音がし、どこかで床が擦れるような音が店内に響いてきました。

「なんの音?!」

 店内の音を聞きつけ、別で店内の様子を観察していた紅羽さんが飛んできます。

「どうやらここの店主さんが一枚上手だったようですよ?」

 私がそういって指を刺し示したところには人一人が通れるような小さな地下へと続く階段が出来上がっていました。

「まさか本当に隠れ家になってるなんてね」

 隠し階段を見た紅羽さんは目を輝かせ、モニュメントと扉を交互に見ていました。

「行きましょう」

「ええ」

 この先にいると思われる人たちが味方である確証がないため警戒態勢で階段を降りていきます。先ほどまで目を輝かせていた紅羽さんはまたすぐに緊張状態に入ったのはこういった状態だからなのか以前とは雰囲気がまるで違って見えます。

 階段を少しずつ降りていき、厚そうな扉の前まできましたが、これノックしてもあちら側聞こえてるんですかね。

「すいません!誰かいませんか!」

 とりあえずノックをしながら扉前で呼びかけてみますが、以前としてこの厚そうな壁のような扉の奥からは反応すらみせません。

「ここもぶち破る?」

「まだダメですよ」

 攻撃姿勢に入る紅羽さんを静止しながらとりあえず扉を叩いていますがまるで反応がありません。そんな中とびらと階段の間の小さなスペースを観察します。天井角に二つの監視カメラと一方のみに設置されたマイク、そして扉の上の方に覗き穴が目立たないようついていました。

「多分、あちら側からこっちの状況は見えているようです」

「そう、あちら側も厳戒態勢ってわけね。納得だわ」

 私が指を刺した方向を見るや否や納刀し、先ほどまでの険しくなっていた顔つきが少し緩んでいました。

「話だけでも良いですか?敵でない証明は難しいですけど、この剣たちが証明になるはずですから」

 そう言いながらあちら側からわかりやすいところで剣をみせます。

「私のはコレよ」

 私に続いて紅羽さんも二対の剣を並べるように自身の前に出して見せます。

「これで信じてはもらえないとは思っていますが、一応味方である証明です」

 剣聖戦に出ていた私たちの剣ならプレンティアの人たちに認知されていると思います。彼らのほとんどは基本的に人物ではなく剣で覚えている人もいたりするので。

 すると、今まで静かだった扉から何やら物音がし、怒火に設置されているスピーカーから扉の向こうにいるであろう人物の声が聞こえてきました。

『たった今確認が取れた。お前たちが剣聖戦に出ている人間だということはわかった。しかし、まだ味方だと言える確証がない』

 真っ当な意見です。現在の状況から整理するに剣聖戦を行っている競技場付近から広がるように周囲に被害が広がったと考えることが予想されます。そんな爆心地にいたような人間はもっと警戒されるに決まってますね。

「そうかもしれないですけど、こちら側は先ほどあのテロ集団と戦闘しています。そのせいでこちらも手負いです」

 向こうも頑なですが、こちらにも退けない理由がありますからここは押し通らせていただきますよ。

「そして、こちらには剣聖戦本戦までいった剣士が二人もいます。ここの防衛に一役変えますよ」

 そう告げると向こう側の声が少し賑やかになっている様子で徐々に扉にその声が近づいてくるのがわかります。

「やっとね」

 重たく響きながら開くドアが開き始め、今まで私たちが対面していた壁の奥が目に映り始めます。

「よぉ、遅くなったな嬢ちゃんたち」

 扉から出てきた人物は筋骨隆々でいかにも強そうなオーラを持ったシルエットをした男性でした。

「扉を開けていただきありがとうございます。少しで良いので少し落ち着きたいのですが…」

扉を開けてもらって早々で不躾ではありますが、正直もう身体に力は入りませんし、もう魔法もあと一回発動できるかどうかのリソースしか残っていません。

「あ…ああ、構わない。入って右奥に空いてるスペースがある。何か飲み物を出そう」

 予想以上にダメージを受けている私たちを見るや否や、かなり驚いた表情で中へと誘導させてもらいます。するとその時、奥から足音がこちらに近づいてくるのが聞こえ、その足跡の持ち主はよく知った声の私がよく知っている人物でもありました。

「月下さん!無事だったのね!」

「式野さん!?」

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