第18話 急がば回れ
重い身体を動かし、市街地エリアまでコソコソといましたが、
「誰もいない…ですね」
「ま、予想はしてたけれど、ここまでゴーストタウンみたいになるなんて」
少し前まではこんな静けさはなく、たくさんの人の往来や声が聞こえていたハズなんですけど。
「中心になる大通りから外れてるからって訳ではなさそうですね」
建物を挟んだ大通りへと狭い路地裏を掻い潜って見にいきますが、予想通り静かすぎる通りを目にしただけでした。
「ここら一帯のエリアも封鎖区域なんでしょうね。ま、政府もしっかりとしてるんじゃない?」
あたりをキョロキョロと警戒する私と違い、紅羽さんは大通りに面している建物を観察しているようでした。
「向日葵、あそこ見て。あそこからなら屋根に登れる」
紅羽さんが指差すところには建物に隣接した外付けの非常階段がありました。
「これなら上から状況確認できますね」
大通りの人の気配がこないことを確認し、素早く外付けの非常階段のある路地裏へと位置を移します。
「思っているよりもこのテロ組織、小規模なんでしょうか?」
不時着した場からここまでそれらしき人影はおろか、人の気配すらないとなると奇妙ですし、小規模であっても一時的な交戦があってもおかしくないと思っていたのですけれど。
「向こう水な行動じゃなくてしっかりと計画を練ってるってことよ。きっと」
非常階段へと侵入するために残り少ないリソースを使って身体を浮かせ侵入し、階段を駆け上がっていきます。
「着きましたね…。ッ、なんですかこれ?」
屋上へと上がり、目に映った景色は美しい街だったものの残骸でした。
「何か爆発した跡?それでもこの有様じゃ…」
半径3KMに渡り何かが爆発したか、もしくは焼き尽くされたように街が瓦礫の山になっていました。
「燃え尽きた後でしょうか?いえ、それでは短すぎます」
離脱した時かここまででそんなに時間は経っていません。しかも、黒煙の一つも空に上がっている様子でさえ確認できていなかったんです。
「異能力テロ組織集団なんてフィクションだけでしょ、普通」
この瓦礫をあのテロ組織がやったなんて言われたら、そんなこともできるのかなんて納得しそうですけど、流石にこれは私の中にあったここまでじゃないと思っていた一定のラインを軽く超えるものでした。
「競技場は!」
すぐに競技場のあった場所を確認すると半壊した一応競技場だったということがわかる建物が目に入ります。
「なんですか…これ…?」
到底現実とは思えないような光景が目から脳へと神経を伝ってまるで烙印のように焼き付いていきます。
「その、まだ諦めないでとだけ言っておくわ」
あまりにも予想外なことの連続で、取り乱してしまっている私を紅羽さんは心配して宥めるような言葉を投げかけてきます。
「そうですよね…、そう、です。とりあえず競技場に戻って私物の回収と他に人がいないかを確認しましょう」
不安と焦燥に駆られながら一旦冷静になろうと大きく息を吸い、自分自身に提案するように次なる目的を設定しようとします。しかし、
「それはあまりいい考えではないわね」
予想外に紅羽さんはしっかりと状況を理解している上ではっきりとNOと答えました。
「どう…してですか?」
思っていたこととは全く反対の反応を受け私は顔を伺うように理由を聞きます。
「ここらのエリアで一番目立っているランドマークはどこか知ってる?あの競技場と隣接するオラクル社の二つよ。そんなところに突っ込んでいったってテロリストにすぐ見つかって殺されて終わりだわ」
かなり冷静な分析で私は何も言えませんでした。それどころかその発言を受け、先ほどまでの不安や焦燥が吹っ飛んでいくほどにすんなりと受け入れもしました。
「すみません。少し焦って冷静な判断ができなくなっていました。ありがとうございます」
「何言ってんのよ。大切な人があの場にいたんでしょ?それなら仕方ないじゃない」
この人味方側にいるとなんて頼もしいんでしょうか。少し前の戦闘でもしっかりと自分の役割と私の動きに合わせた連携をする動きを見せていました。
そんな紅羽さんを焦燥でブレた視点からもう一度目に捉えると、不思議と先ほどの弱々しかった彼女と今目に映る自信に満ち溢れた頼もしい彼女が全くの別人かと思えてしまって、それでも同じ彼女なんだと思い、私は自然と口角が上がっていました。
「何よ?何かおかしかった?」
いきなりニコッと笑った私をみた紅羽さんは気持ち悪そうな顔をします。
「ふふ、いえ、頼もしいなと思いまして」
「何よそれ」
「気にしないでください」
とは言ってもどこに人がいるなんて分かりっこありませんし、ランドマーク以外で人の集まる場所なんて地元じゃない場所でピンポイントでわかるなんて無理ですね。
「あれ?紅羽さんてプレンティアにきて何年です?」
「4年」
「なら人のいる場所わかるんじゃないですか?」
私は二つ大きな見落としをしていました。なんで4年もこの地を踏み締めた人間が近くにいるのに気づかなかったのでしょう。そして、
「知らないわ。ここの街来たことあまりないから」
こんな簡単なことにも気付かないくらい疲弊していることを。
「そうですよねぇ。困りましたねぇ」
もはや正常に機能しない頭を精一杯使うように唸りながら頭を抱え込んでしまうほどこの先へ行くための道のりが詰んでいました。
「あ、まだ電波は生きてるのね。さすが衛生通信」
私の所持しているものはサンフレアと付属するソードケースだけというのに、紅羽さんは一応携帯端末を所持していたらしく、端末内のアプリで地図を開き、私に次なる目的地を示します。
「ここ行くわよ。ソードショップ」
プレンティアのプレンティア人のための魂と言えるような場所を指していました。
「なんでここなんですか?」
私がポカンとした表情に紅羽さんはニヤリと笑い私にこう答えます。
「私たちが剣士だからよ」
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