第20話 一旦深呼吸

「式野さん!?無事だったんですね?」

 突然の邂逅を経て友人の安全が確認されました。一応これで後一人薫さんの安全を確認できれば万々歳といけます。

「あの仮面を被った人に助けてもらったんだ」

 そう言って指を指す方向には、なんともまあ物騒な仮面を被った黒衣装の男?の人がソファに座っています。

「貴方がこちらの方を助けてくれた方ですか?」

 その姿に怖気付いてはいられません。しっかりとお礼をせねば珀西の使用人として名が廃れます。

「!ああ、そうだ。別に感謝はいらない。オレはオレがやりたいようにやっているだけだ」

 仮面の中の表情は声音だけでは読み取れませんが、まあ、無愛想な人ということはわかりました。ですが、しっかりとお礼は言わせていただきます。

「いえ、それでもありがとうございます。私はあの場で自由に動けない状態だったので、この方を守っていただいたということだけでとても嬉しいんです」

 実直な感想を交えた嘘偽りのないお礼です。しかし、この黒衣装の仮面男は手を無愛想に振ってまた先ほどと同じ体勢に戻っていきます。

「フラれたわね」

「いいですよ!言いたいことは言えましたし」

 先ほどまでこの地下室の中を目をキラキラさせながら見回ってた紅羽さんがこういう時に限って話を聞いているのは少し腹が立ちます。っと、下手に今感情を起伏させると疲れで意識が飛びかねません。今も立っているのがやっとなんですから。

「少し……眠ります」

 ソードケースを床に置き、空いている椅子に座って少々仮眠をとるとします。ここの地下室は避難してきた人が多すぎます。できるだけ場所を取らないよう……に……・


「起きなさい、向日葵!起きなさいってば!!」

 目を開けるとすぐそばに紅羽さんの顔が目一杯に広がっていて不機嫌になりそうです。

「分かってます。聞こえてますから大声出さないでくださいよ」

 久しぶりに椅子で長時間寝ていたので身体の節々が悲鳴をあげていますが、これくらいで根を上げては情けないですし、睡眠をとったのでかなり体力面は休養をとれたのではないでしょうか。

「紅羽さん、私何時間寝てました?」

「三、四時間程度よ。アタシは少ししか寝れてないけどそれで調子が戻るなんてどうかしてるわ」

 普段の使用人仕事が根付いてますからね。短時間で回復するクセはついていますとも。

「言いますね。いいですけど、今日は少し外に出てみましょう。ここの食料も少なそうですし」

「貴女は早くご主人の元に駆け付けたくてウズウズしてるようにしか見えないわ」

 それもあります。私はできることなら単身で動いて薫さんを見つけ出すことを優先したいですが、あの人はそれを望んでいません。今は私の手が届く範囲を守るということ念頭においてこの戦場と化した街を歩きます。一応式野さんの安否は確認できていますし、このような安全なところへと避難はできています。それだけで今は安心できますよ。

「大丈夫です。あの人はそう簡単には死にません」

 ああみえて意外と中身はタフですからね。心配しててもいつもケロッとした顔で目の前に出てきますから。

「とりあえず行きましょう。まだ日は出ていませんから、この時間に動けるだけ動いておきましょう」

「それもそうね。奴らの戦力すら把握できてないもの、下手にわかりやすい時間に出ても背中を刺されるだけだわ」

 戦闘技能も作戦立案もしっかりできる紅羽さんは隣に立ってくれるとなると頼もしい限りです。この少ない戦闘でしっかりと状況を理解できているのはすごいことですから。

「では、状況開始です」

 地下室から出て、ここにきたルートを辿って屋根伝いに歩いていきます。相変わらず街はほとんど人が歩いておらず、聞こえるのはどこかで行われている戦闘の音のみです。

「この音……どこから?」

 紅羽さんもこの音に気づいているようで眺めのいいはずの屋上でキョロキョロと辺りを見回しています。しかし、なぜ戦闘していると思われる方に灯りがないんです。普通なら人がいる場合そこに灯りがつきます。しかし、戦闘してるのにも関わらずそこに誰もいないようなんです。

「工作されているんでしょうか」

 あの異能力、現実では疑い深いことが目の前で起こる現象、それならきっとあり得るはずですが、どうやってこちらからの視認を阻害しているんでしょう。

「下手に近づかないのが安牌ね」

「ですね」

 戦闘は極力避けれるのなら避けておいたほうが良いですね。正体不明の敵とやり合うのは無謀もいいところです。例えば私がスーパーヒーローだったら話は別ですけど、私は一般市民です。

「もどかしわね」

「ええ」

 紅羽さんも同じ気持ちのようです。それでも、今はセーフハウスとなっているあの場所に届ける食料を引っ張ってくることが重要事項です。

「あそこなら」

 屋上伝いに目星のついた荒らされたコンビニエンスストアに指を指します。流石に全ては持っていかれてないだろうと思い、紅羽さんに警戒を頼んでお店の中へと入っていきます。

 暗いのといつ接敵するかの緊張状態でいつになくビクビクしながら棚の中を物色していきます。

「これは……イケそうですね」

 ソードケースの余剰部分にできるだけ食べられそうなものを詰め込んでいきます。すると、奥から私ではない誰かの物音がします。一気に私の緊張は張り詰めて戦闘態勢へと切り替わります。店内で抜刀はあまり良い策ではないので少しずつ出口に向いている背から出口へと向かいます。

「ーーッ!!」

 暗い店内から飛んできたのは炎の弾でした。

 異能力者との接敵です。これは魔法のものではありません。今一番会ってはいけない要注意人種、私の中でこの状況下を収められる案を高速で演算します。

「爆発!?」

「ダメです!そこから動いては!」

 異変に気づいた紅羽さんは駆けつけようとしますが、私は大声を張ってそれを静止しようと試みます。しかし、相手はそう落ち落ちと舞ってはくれません。

「炎の使い手?」

 黒の舶刀が使っていたのは瞬間移動でしたが、人によって能力の違いがあるようですね。よくわかりました。斬れない相手ではないということを。

「いきますよ」

 暗闇の店内を壁や倒れた棚を踏み台にして相手を撹乱します。あえて射線を見せて無駄撃ちを誘発して弾切れがあるのかを見極めます。

「弾切れを気にする動きがない…」

 魔法であれば体内のリソースや周囲の環境下から何かを吸収するはずなんですが、今のところ襲撃者の放つ炎の弾にそういった動きが見られません。むしろ、どうしたらそんなに撃てるんだと思うくらいにデタラメに撃ってるとさえ思えてきます。

「でも、甘いですね」

 あえて誘発させた炎の弾で爆発した跡を私の風の魔法で掬い上げてお返しします。

「ぐっ!」

 瓦礫と熱風に一瞬の怯みが生じたたため、壁を蹴ると同時に衝撃インパクトを踏み込んだ足裏に仕込んで高速で私の間合いに持ち込みます。

「寝ていてくださいね」

 サンフレアをソードケースごと振り込んで襲撃者を攻撃します。このソードケースは大口径の銃弾でも耐えらる強度を持っています。当たったらとんでもないですよ。

「よし」

 悲鳴もあげず伸びている襲撃者を近場にあった支えそうな縄を使って縛り上げて屋上にいる紅羽さんと合流します。

「情報源ゲットです」

「良いわね向日葵。コイツから何が出てくるか楽しみね」

 紅羽さんは邪悪な笑みをして縛り上げた襲撃者を小突いています。これでかなり今回の問題解決に向けて動き出した感じがします。

「一旦帰りましょう。物資もいい感じですし」

「コイツは引き摺っていくわ」

 とりあえず辿ってきた道のりを折り返し、もはや一時の拠点と化している地下室へと帰ってきました。

「食料はありがてぇが、なんでテロリストを連れてきた?」

 怪訝そうな店主ですが、この地下室に身を潜める人々はいつ殺してやろうかという殺意に満ち溢れた目をして襲撃者を見ています。

「保管庫ってありますよね?」

「裏だ。ついて来い」

 カウンター裏に行く店主を縛った襲撃者を引きずりながら紅羽さんとついていきました。

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