第21話 力の使い方

 薄暗く音も私の靴の音しか聞こえない静寂の中、襲撃者を固定した椅子へと向かいます。

「頼む!命だけは!お願いだ!」

 襲撃者の声が音が完全に閉じ込められた部屋に響き渡ります。もちろん殺しはしません。私のポリシーに反しますし、むしろ今から吐いてもらう情報を全て吐いてもらわないといけませんから。

「では、目的はなんですか?この区画を完全に掌握した理由は?」

 久しぶりに低い声を出しました。人を脅すためだけに使うこの声音はあまり私的には好みでは無いんですが。

「言うから!命だけは助けてくれ!」

 命乞いをする襲撃者は資格が封じられているため自身の置かれている恐怖で椅子が揺れるほどに震えていました。しかし、そんなことはお構い無しに剣を抜刀して鋒を首に当ててその冷たさを認識させます。

「ええ、しっかり使える情報を吐いてくれればの話ですけど」

「ーーッ!!」

 そう言いながら首に当てていた刃を太ももへと斬りつけて浅い傷を浴びせます。視界を封じられた状態の襲撃者は斬りつけられた痛みと恐怖でで悲鳴をあげましたが、すぐに髪を掴み揺さぶりをかけます。

「動脈を斬りました。すぐに処置をしなければ貴方は死にます。早急に情報を吐けば手当てはしますよ」

 迅速かつ的確な尋問術、本当はこんなもの使いたくはなかったのですが、こういったことはもうしないことを願います。

 痛みと恐怖で混乱した襲撃者は「助けて」と言う言葉を吐くのを諦め、つらつらと情報を吐いていきました。

「俺たちはなんでここに来たのかわからない。これは本当だ。知ってるのはメインとか、幹部の連中しか知らない!俺たちはついてくれば楽しいことができると聞かされただけだ!」

 呆れました。ザコの主体性がなさすぎですね黒の舶刀は。むしろこう言った組織はこのような人間が集まった方が上手くいくんでしょうね。

「そちらは今どこに?」

 剣を地面に突き立てて部屋中に金属音を響かせます。すると襲撃者はビクッと身体を跳ねさせ、また口を開きます。

「オラクルのビルだ。競技場の近くの方の。そこに用があるだのを耳にしたが真偽は俺にはわからない!」

 ふうむ、困りましたね。まあ、この情報を元に次回行ってみるのもありですね。次です次。

「貴方がたのその異能力は誰からもらったものですか?」

 これは外せません。その力は私たちにとってあるはずがないものなんです。先天的であればどこかで必ず聞くハメになります。なので私はこのようなことを聞き方をしました。

「これは俺たちがまだあのクソみたいなところで燻ってた時にちょうど現れた誰かもわからない男からもらったんだ。この力は人によって違う、人によって使える力の規模もな。首領であるメインに関しちゃあとんでもないって話はよく聞いた」

 なるほど、このチンピラ共を統率するくらいの強さを持っていると考えるとすごそうですね。ならばあとはもう一つだけ聞いてみますか。

「では黒の舶刀は総勢何名いるんですか?大体でいいです」

「国に残っているのを合わせて二万だ。プレンティアに来ているのでざっと数千」

 まさに規模が違いますね。一騎当千では足りないです。やはりここのお隣は治安が終わってますからね。宗教関連など色々な問題で退廃した国だと聞いていますけど、これでは国がテロリストを育てているようなものですね。

「そうですか、これで一旦は終わりです」

「なら!」

 希望の見えた襲撃者は嬉々として身を乗り出しますが、脳天に柄を振り込んで殴り倒します。

「終わりなので寝ていてください。この件が終わるくらいまで」

 悲鳴すら出さずに気絶する襲撃者の後片付けをどうしようかと考えながらこの部屋を後にします。

 別に殺しはしてません。人の死ぬ力加減はわかっていますから。

「これは困りましたねぇ」

 予想以上に大変です。当たり前ですね。あんな力を手に入れてしまえば思い上がって孤立しますよ。それにあんな力を持った人間が数千ですか。もはや戦争ですね。そろそろ剣聖さんたちが動いている頃合いですけど、この規模だと剣聖の頂点であるノアさんが動く案件です。

「で、何かわかったの?」

 曲がり角で壁に背を預けている紅羽さんが私に投げかけます。

「まあまあってところですね。現在の状況は大体把握できましたが、かなり私たちの取り囲む状況は悪いと感じました」

 これに関してはお手上げです。プレンティア政府は動こうにも未知の敵に侵されている状況で下手に動けませんし、制圧された区画の市民も疲弊、私がどうこうできる問題ではないのです。

「諦めるの?」

 諦める?私のすべきことをせずにここで燻っていろと?私は………!

「諦めませんよ。私はまだやるべきことをしていません。絶対に薫さんの安全を確保するまではこの戦場でこの剣を掲げていきます」

 私がすべきことをしていないのですから。ここにいる以上最低限のことすらできていない以上はそれを達成するために動きます。

「ま、いいわ。貴女が動きたいように動いて。アタシはアタシがしたいようにするわ」

 紅羽さんはため息混じりにそんなことを吐き捨てましたが、どこか私の言った言葉に安堵を覚えたような表情をしていました。

「次の行き先は?」

「オラクル社の建物、オラクルクレストです」

「結局そこね」

 結局そこしか行き先はないのでしょうね。では、どうやってそこへと侵入しましょう。紅羽さんが最初に言ったようにすぐに見つかって殺されるのがオチです。

「ただ、どうしましょうかね」

「とりあえずぶち抜くわよ」

「うえっ?」

 紅羽さんの口から飛び出た言葉は最初に言っていた言葉とは完全に別物で私は呆気に取られました。

「それは……どういう?」

「今回のことでわかったわ。コイツらはまだ能力自体に慣れていない。それに加えてあろうことか兵器の類をこの区画で見ていない。貴女とアイツが戦った時に感じたわ。いけるって」

 根拠は分かりますし、相手の手の内が大体把握できるようになった状況下では今ならいけると思えます。しかし、その余裕で突き進んで返り討ちにあうことなんてよくある話です。

「そんな無茶な……」

 紅羽さんの言っていることは大体わかります。私も一瞬考えましたから。

「それに、なんとかカットラスのあの異能力者たちは幹部以外の能力は大したものではないと思うわ。あれは基本コケおどし、初見殺しのようなものね。だから短期決戦でいけそうだと踏んだわ」

 正直いうといけてしまえそうといえます。そう上手くいくことはないと思うますけど、侵入程度ならばいけてしまいそうと思えてしまします。

「行きましょう、オラクルクレストへ。貴女は私を信じてください。私も貴女を信じています」

「そう願うわ」

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