第11話 冷える太陽と燃える氷
湧き立つ歓声が肌に刺さります。よく知らない場所でたくさんの人間に囲まれ、そこで相対するは剣士
「また戦えて光栄だよ
鋭い瞳と打って変わってとても楽しそうな声音でこちらに話しかけてきました。
「ええ、あの時以来ですね吹雪さん」
勝機は五分五分?いえ、多分それよりも少ないですね。
緊張の汗が額を伝ってきます。
「まだ始まってもないのにこんな緊張するなんて」
吐き捨てるようにこぼれた言葉を噛み締め、準備の完了した状態で競技場に上がります。
「さあ、そろそろだよ…!」
吹雪さんがそういうとあたりに光の幕が上がり、手元に得物が形成され始めます。
「私は勝ちます。勝ってみせますよ、今回だって!」
形成されたサンフレアを構え、私が私なりに下した覚悟を抱えて叫びます。
「よく言った!」
試合開始とともに吹雪さんは目にも止まらぬ速さでこちらに詰めてきました。
「!?」
以前との戦い方とは違い、守り主体から攻め主体の戦い方になっており、一瞬私の頭がとびかけて防御がギリギリになってしまいました。
「びっくりしたでしょう?私にだってまだまだ隠してある戦法があるってこと!」
ええ、びっくりしましたとも。以前までと戦い方がガラッと変わるなんて戦いはあまり経験したことはないので、これこそ吹雪さんが使用する初見殺しですね。
「細身の刃でこの重さッ!以前も感じましたが、これこそが本来の戦い方ですね!」
吹雪さんの剣は確かにあの時の重さです。しかし、あの時とはやいばから伝わる意志がまるで違うと確信できます。放たれる剣気は以前とは全くの別物ですし、眼から漏れる光は私を確実に殺すと言わんばかりに私の姿を捉えています。
「そうだよ!これが私だ!」
私を捉えた一閃が私の腹に目掛けて瞬間的に迫ってきます。
「だったら!」
剣のグリップを半回転させた逆手状態にして放たれた一閃を防ぎます。
「私はまた貴女に勝ってみせましょう!」
「それだよそれ!私が見たいものは!私が戦いたい者は!」
互いの刃が迫り合い、私の血も沸き上がるような感覚に興奮します。
「もっと回しますよ」
吹雪さんは私を弾き飛ばし、再度剣を構えています。
「さあ、もっと私と踊ってよ?向日葵!」
お互いに間合いを詰め、刃と刃を交えながら切り抜けます。
お互いに少しずつ少しずつダメージは負っているものの、どうにも決定打にかけるような浅い攻撃ばかりが私たちを包んでいきます。
「どうにもって感じですね」
以前よりかはダメージを入れることはできるのですけれど、それ以上に攻撃の手数が多すぎて攻撃に転じる隙が見当たらないんです。
「どうしたの!私はまだ!これじゃあ死なないよ!」
上段から中段、素早い二連攻撃から私の懐に入るような身のこなしによって私を圧倒してきました。
「ッ!まだ!」
バックステップでギリギリ攻撃を避けてから私も身を剣に委ねた突きを吹雪さんに向かって放ちます。が、吹雪さんも軽々私の攻撃を避け、次なる攻撃に身を転じようとしています。
「だからって!」
次なる攻撃を放とうとする隙を私は見逃しません。
「私の攻撃が届かない通りなんて!」
吹雪さんの攻撃を掻い潜りながら懐に潜り込み斬り上げます。
「ありませんから!」
「いいね!それ!」
しかし、またもや私の攻撃は防がれてしまっていました。
やはり以前の戦い方の鉄壁さがここでも発揮されているなんて思いませんよ、普通は。
「
突如放たれた氷の刃が私の頬を掠めます。
ああ、私は浅はかでした。同じ日和の出身だったからって魔法が使えないわけないですよ。
「久しぶりだから外れちゃったか、次、いくよ」
「上等ですよ」
そこからの戦闘は苛烈を極めるような魔法と剣撃の合わさる戦いでした。一方が攻撃を放てば相殺するように一方も同じような攻撃を合わせるように動いています。
「そこ!」
私の回避の合わせた魔法による氷弾を撃ってきます。
「
私もそれに負けじと魔法で魔法を相殺しながら、粉々になった氷の破片から這い出るように攻撃を仕掛けます。
「からの」
足に魔力を集中させて、攻撃のフェイントを入れながら身を捻る!
「
吹雪さんの頭上を一転二転しながら背後をとります。
「やるね!」
撹乱するための動きをしっかりと見切って吹雪さんは反応して見せました。
「これもしっかり見ていますか!」
急いで攻撃を中止し、着地と同時にバックステップで距離をとります。
「埒があきませんね」
ジリジリとスタミナを削られる状況に少しずつ自身のうちに秘めていた焦りがみえはじめてきているのを感じます。ここで切り返さなければ吹雪さんの土俵へと持っていかれてしまい、そうなれば私が確実に負けます。
「どうすればいいかなんてわかっているつもりなんですけどね」
次の攻撃で仕留めるだけでいいんです。それができるかどうかは私の技量次第ってところですね。それではどうするか、決まっています。
「
私にある今現在吹雪さんに通用する手札はこれしか切れません。一度みせた相手にもう一回ワイルドカードは通用するかどうかはわかりませんが、これしかできないといった形ですね。
「あは、待ってたよそれを」
私の認識する全ての能力のリミッターが解除されている状態、本気のそれ以上の状態です。だからこそ、私は場合によっては出し惜しみをします。
「私はこの剣に誓います。貴女を殺すということを」
大きく踏み込んだ地面をバネがギリギリまで絞られた状態から解放するような力で地面を蹴飛ばします。
「それだよ!私が
吹雪さんは信じられないくらいに笑顔で私を見つめてきました。
私の殺気と吹雪さんの殺気によって信じられないくらいに鳥肌がたち、背中が冷たくなっています。
「ッ!!」
私に襲いかかる嫌なものを振り払いながら吹雪さんに剣を伸ばします。一寸の迷いもなく一筋の線は吹雪さんを確実に殺すための軌道を辿り、あと寸前というところで防がれてしまいます。
「!前と違う…?」
防がれたとしても私は殺すために次の最適解のために次への動作を入れ込みます。
「これは…!」
私の放つ一閃一閃は確実に攻撃が防がれても相手へ効果的に作用する部分を狙い、剣がそこに到達します。吹雪さんは1回目の防御で理解してしまいましたが、そこではもう遅いですよ。
「もっと…回して」
私に残るもの全てを使い切る勢いでスピードを出していき、剣の一振り一振りが私の放つ切り札であるように全てをそれらに注ぎ込みます。
中段、防御、下段、回避、間合いをもっと詰めて脚に斬り払い、蹴りを入れながらバックステップ、なんて単調に格闘ゲームのようなコマンド選びをするような形で放っていきました。吹雪さんに反撃の機会なんて与えません。私が今この戦場を支配しているのですから。
「んな!」
ここでようやく吹雪さんは決定的になる防御ミスによる身体ののけぞりによって、確実で着実な私の勝利に近づけました。
「やっと剥がれましたね」
このチャンスは絶対に逃さないとばかりに吹雪さんの武器を持つ腕部を斬りつけ、武器を飛ばします。
「終わりです」
「
首に入れる寸分の狂いもない一閃が吹雪さんの首にしっかりと入り、悪足掻きも虚しくダメージアウトのブザーがなりました。
「勝てました…ね」
久しぶりに人の首に剣を入れました。そうせざるをえない相手であったことは確かです。この人は私が殺さないといけないほどに狂っているとこの試合で認識させられました。
「流石だね向日葵、私が望んだ以上だよ」
座り込んでいる吹雪さんに手をかし、起こしていると光の幕が下がっていきます。
「いえ、私もこの感覚に久しぶりに辿り着けて良かったので、私も貴女に感謝を申し上げます」
「そうかな?君はその状態にはもうたどり着いていたと思えるのだけれど、まあいいか」
私に足りないものはまだありますが、この試合は再認識できることが多く私の糧になったと思っています。
「今回はありがとうございました。ぜひまた手合わせを頼みますね」
私は笑いかけるように吹雪さんに嗾けます。
「そうだね、私からもお願いするよ。ただ、次はどちらの戦術も通用しないから気をつけないとね」
「ええ、次に剣を交えるときも私が勝ってみせますよ」
「いうねぇ。ワクワクしてきた。また戦おう向日葵」
「はい、また」
お互いまだ吹雪さんを起こした時に手を繋いだままでしたが、そのまま握手をしてお互い行くべき場所へと歩みを進めました。
「次から本線ですか」
正直いえば私はここからが怖いと感じました。吹雪さんのような実力の持ち主やそれ以上の方がゴロゴロといるのです。
「それでも、約束は果たしてみせます」
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