第三幕 My soul like blaze seeds
第12話 嵐の前の静けさ
身体が熱く燃えて、血も肉も私を構成する全てが煮え滾るような感覚に襲われていました。
熱く、深く、眩しくて、溺れそうで、身体がうまく動かないくらい圧倒的なもの。
「予選全抜きです」
勝ちというものでしか味わえない、ひどく最高で、酔ってしまったら出られないくらいに最悪な不思議な気分が私に押し寄せていました。
「勝ち上がったものね。私も間近でみれて嬉しいよ。」
本戦は明日からなので今は試合会場近くのホテルで一息つけている形です。
「それにしてもすごいね、ここのホテル。部屋は大きいし、出てくるご飯は豪勢で」
私が誘ってはいないにしろ、行き先も目的も近いので
「とんだVIP対応ですね。まあ、一応
本当に
「いい人だよね。
「少し訂正したいのですが、あの人は私のお兄さんなどでもないですし、いい人と言ってもいいのかわからない性格していますよ」
私の口からはとんでもない早口で色々な訂正をしようと試みる文言が飛び出していきました。
「そうなの?私はてっきり血の繋がったお兄さんとばかり…。そういえば名字違ったね。いつも側にいるっていう印象しかないから勘違いしてしまったわ」
「ならいいんです」
少しよくないことを言っている気がしましたがまあいいということにしましょう。いえ、なぜ一緒にいることがバレているんですか。それちょっと詳しく聞きたいんですけど。
「それにしても月下さんの予選最後の戦いっぷりはすごかったよ。みていて手に汗握るって感じがすごいしたもん」
「あはは、お褒めいただきありがとうございます。でも、不甲斐ない戦いをしないために必死でしたから、覚えてることなんて少ないですけどね」
お恥ずかしながらあの時の私は冷静に考えて行動に移している時間などありませんでした。ひたすら絶え間のない攻撃を耐え続け、隙ができた時に全力で振り抜いていく、今考えるとよくこれで勝てたと思えるほどに余裕がありませんでした。
「あの時に感じた私の歪みはまだまだ矯正できていないようですし」
サンフレアを収めた大きなソードケースに目を向け、また剣に誓うように力のない誓いを放ちます。
「そうなの?私からみていたものだと最初こそ押され気味だったけれど中盤から拮抗してみえたよ」
「そうみえていたのなら少しホッとします。実情は拮抗どころかいつ殺されるのかわからないような殺気を浴びて押されているような感じでしたよ」
「殺気…。そう、あの時とてつもないものを二人から感じたけど、それなのね」
そう、普通の人間は曝されることのないものです。あっても憎しみや妬みというものです。それらとは比べ物にならないくらいこの殺気や殺意というものの感情の力は絶大な力を持っており、勘のいい人ならば瞬時に気がつくレベルで強いです。
「ええ、あの時私をあの人は全力で殺そうと巧みに翻弄してきました。もう、死ぬかと思いましたよ」
笑って流そうとしましたが、どうやら式野さんは気になることがあるようでした。
「ただの試合でそんな殺す殺さないをやってのけるなんて面白いわ。なぜそこまで…?」
「そうですね、まずこの試合に使用されているSRSが重要になってきます。このSRSが登場する前は実体剣での決闘でしたので、そりゃ当てれば負傷しますし痛いです。そんな中で少しずつこの剣士競技に腐敗が進んでいっていったのは有名な話です」
「それは知っているわ。日和でも少し電子ニュースで流れてきていたもの」
そう、少し昔のプレンティアでの剣士競技では汚職や出来レースが横行していました。それだけで止まっていれば良かったもののプレンティアの政治のシステムは他の国とは違い、剣士の頂点【剣聖】が統治するというものです。それが裏金やなんやらで剣聖という地位が貴族の間では買い物感覚で行けるようになってしまっていたのです。
「はい、そんな腐敗した中で誕生したSRSは画期的でした。これは言ってしまえば拡張現実の一種です。魔法と科学の合わせ技でそうみせているというだけです。それでも、しっかりと本気でぶつかり合える場があるというのは剣士たちにとっては素晴らしいことだったんです」
「なるほど、そういった経緯だったのね。死ぬ死なないは別にしても本気で斬り合える場所というものはそりゃあって話ね」
「ええ、私も剣士の端くれですから思うんです。この場は特別だと。私が剣を持っても大丈夫だと思わせてくれるんです」
剣士が剣を持つ理由は人それぞれですが、それでも剣を思いっきり振り合って語り合える場所というものは画期的なんです。
「そっか、それなら明日も楽しみじゃない?」
「え’’、まあそうだと思いますよぉ」
痛いところを突いてきますね。
「ふふ、まあ、前以上に強い相手が多いものね。私は頑張ってとしかいえないのだけれどね」
式野さんは少ししょんぼりとした顔をして私に告げます。
「いえ、私は応援してくださるだけでいいんですよ」
私は式野さんの近くへと寄り手を握ります。
「私は勝ってみせますよ。だから、みていてくださいね」
「うん」
お互いの目線が交錯し、少し恥ずかしくなってお互い微笑み合いました。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
私は大きな照明の電気を消し、カーテンを開けるために窓際に歩みを進めます。
「ん?」
ふと窓の外を見つめると少し不穏そうな行動をしている集団を見かけました。ああいった手合いはどうせチンピラの類でしょうからあまり気にとめていませんでしたが、剣を抜刀していることに少し違和感を覚えました。
「月下さん何かあった?」
「いえ、なんでも」
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