第13話 嵐を纏う者
一つ日にちの境界線を越えたら昨日の夜の高揚感などは嘘のように吹き飛んで、次に戦うことになる人への緊張が押し寄せてきます。
会場へと向かい選手控えで戦いの準備をします。流石に本戦に挑むメンツはどれも殺気だっていて怖いんですよね。空気が重くて重くて仕方ないですよ。
「貴女は、
この声は私がこの大会に赴く理由となった
「お久しぶりですね並風さん。調子はいかがですか?」
「調子もなにも見ての通りよ。それよりも貴女、約束はしっかり守ってもらうわよ」
「わかってますって。そちらも負けてくれないでくださいね」
私たちは静かに牽制をしながらライバルとしての格を落とさないように立ち回っていました。
「まあ、最終予選のあの動きは良かったわ。アレができるのならアタシの時でもできるでしょ?」
まさか直球で褒めてくれるとは思いもしなかったので少し面食らったような顔をしてしまいました。
「そう…ですか。なら良かったです。この調子で貴女にも勝ちますね」
「それはどうかしら?アタシだって強くなったもの、そう易々とは首をとられるワケにはいかないわ」
互いに少しずつですが強くなっていることはお互い顔を合わせた時点で察せていますから、あとは戦ってそれを証明するだけです。
「いい心意気ね。まあ、それくらいじゃないと張り合いがないもの。それじゃ、アタシは行くから」
嵐のように私の平穏をかき乱しながら過ぎ去っていきました。
「頑張ってくださいね」
そう並風さんに告げるとこちらを向かずに右手をあげて分かったと手振りで答えます。
「私もそろそろですね」
刻々と自分の番が迫ってくるのを感じます。緊張とワクワクが入り混じって今までに感じたことのないものが私に襲ってきます。
「私もそろそろ動きますか」
控え室を後にし、次なる戦いへと赴いていきましたが、ここである人物とすれ違います。
「あれは…」
それは昨日寝る前に窓の外で偶然見つけた不穏な動きをしていた人物に似た服装の人物でした。黒のフードとローブで誰かなど判別つかないほどにしっかりと不審者をし人物が私の隣を過ぎていきます。
少し驚き、振り返ってみると先程の人物は消えており、本戦に挑まんとする剣士の方が控えていただけでした。
「緊張で幻覚でもみてしまっているのですかね」
そう私は呟き、また歩みを進めました。少し暗い通路を進み、眩い光が漏れる方へ入っていきます。
「ん…」
私の目に入り込んできた光は徐々に実体を帯びていき、予選の時に見ていた景色とはまた違う、歓声も、観客の熱意も何もかもが以前よりましてボルテージが上がっている状態が私の目に映りました。
「これは…不甲斐ない戦いはできそうにないですね」
観客から発せられている熱が私の肌に刺さり、武者震いをしてしまうほどの迫力が私の五感を刺激して離れません。
「そろそろですか…」
私は取り憑く緊張を追い払うように舞台に上がります。
「やあやあ、今回の相手が君かな?」
筋骨隆々の大柄で金髪オールバックの男性、確か名前は、
「俺が今回の君の相手、ベルナール・アイゼンだ。よろしくぅ!」
また、体育会系の方ですね。なぜ、私の相手にくる男性陣はこの方のような人が多いのでしょうか?控えにはそうでもない人もいましたのに。
「月下向日葵です。よろしくお願いしますね」
私がそう告げると光の幕が上がり始め、先程までの緊張が嘘のように消えてゆき、私に宿る闘志に熱がつきます。
「さあ、準備はいいか?」
この人、今まで戦ってきた人とは違うタイプの人です。放った一言の威圧が強いんです。
「ええ」
私は初めてSRS内での戦闘で冷や汗をかいていました。
この人は只者ではないです。一瞬のうちにがらりと先程までの印象を変えるような威圧。
「誓いはまだ果たしていませんよ向日葵…」
私は自身に向かって呟きました。どうしようもなく感じられる圧倒的力の前に少し怖気付いてしまっていることがわかってしまったからです。
「いくぞ」
そう言いながら相手の得物である身の丈の数倍の大きさを誇る剣槍を荒れ狂った嵐のように振り戦闘態勢に放っていました。多分私への配慮でしょうね。怖気付いているのがバレバレだったみたいです。
「私も…いきます!」
お互いが同時に間合いを詰め、自身らの有利な間合いにするべく激しい攻防が始まりました。相手はリーチの長い剣槍であり、牽制から放たれる一撃が重たいときました。
「ぐぅ」
一方が通さないと圧倒的リーチと力の差で推しとおり、一方は体の身のこなしと速度を持って対抗する力と技の迫り合いに私はどうにか勝機を抱けるようなうまい話はないかと模索します。
力が強過ぎます。リーチじゃどうにもなりません。相手の敏捷性は然程ですがゴリ押しで打開されます。私のさんフレアでさえ大きな大剣だというのに。
刃と刃がぶつかり合うたびに大きく後ろに後退させられています。
「なんて力をしているんですか」
剣から受ける衝撃がモロに私の手のひらに伝わってもう手が痺れてきました。
「もっとだ!」
大きく振りかぶった攻撃が私の頭上から振り下ろされますが、これくらいの攻撃は余裕で回避できました。しかし、
「へ…!」
突如振り下ろされた地点から突風が発生し、体勢を崩されかけました。
「
魔法でなんとか浮いた体の状態を元に戻せましたが、これほどまでの威力があるなんて。
「
馬鹿力なんて言葉が甘く聞こえるくらいの威力を誇る相手の勇姿にそう呟かざるをえませんでした。
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