第14話 風にも負けず
「
一度あの剣槍を振り下ろせば突風が吹き荒れ、近づこうものなら一切の攻撃を受けつけようとしない強力な一撃一撃を放ち相手を黙らせるなんて飛んだチートもちじゃないですか。そのくせ少しの粗でさえ力でどうにかカバーしてきます。
「もっと歯応えのある奴だと思っていたんだが思い違いか?」
「な」
聞き捨てなりませんねその言葉。私だってこんな圧倒的力によって振り回されたことないんですからこっちだって聞いてませんよって話です。
「でも、不甲斐ない戦いはしたくはありませんから」
私だって不甲斐ない姿で負けるよりも、華々しく散った方がいいと思っていますから。
「いい目になってきたじゃねぇか」
ニヤリと笑みをこぼしながらそれでも鋭い眼光をしているベルナールさんに再び剣を向け、私は剣に誓います。
「
速戦即決を決めました。戦いをこれ以上長引かせても向こうの方が確実にスタミナが多く、消耗が速いのは私です。それに、ぐだぐだ考えていたって始まりません。
「いい判断だ」
私はすぐに間合いを詰めます。一度あの攻撃を喰らえば即ダメージアウトなのは間違いありません。ですが、私の体術を活かせば難なく躱せるはずです。
「せああ!」
牽制として放たれた一撃をギリギリ身体が後ろに飛ばされない程度に剣に掠めさせ、地面を滑るようにその掠めた際に貰った衝撃を使い私の間合いをつくります。
「ここまで来てみせましたよ」
「イイ気に乗るなよ」
剣を振り抜こうとした瞬間嫌な予感がしてすぐに回避行動を取りましたが少し遅れたようでした。
「ぐぅッ!」
ベルナールさんは剣槍を巧みに操り、弾かれた勢いをそのまま剣槍を回転させ連撃を仕掛けてきました。あとほんの0.6秒くらい遅かったら確実に敗北していたであろうギリギリのタイミングで私の左腕を掠めていきました。掠めたといってもしっかりダメージ判定が出ており、本当にギリギリでした。しかし、まだ私の攻撃を緩めることはできません。
「だああ!」
叫びが出るほどの一撃を、肉を斬らせて骨を断つなんていう言葉通り自身にダメージを負いつつもやっとベルナールさんに剣が届いたと思いました。ですがまだ、私の攻撃は届きませんでした。
「コイツを抜かされるなんて思ってもいなかったぜ、イイ感じになってきたなあ月下!」
腰に隠し納めていたブロードソードで私の攻撃を防ぎきっていたのです。
「まだ!」
防がれたことを瞬時に確認し、すぐさま回し蹴りをしつつ剣に身を乗せた突きで追撃を仕掛けます。
「私は!」
身を任せたような突きを放ちますがこれも剣槍で絡めとられ防がれてしまいました。
「ぐぬぅ」
ベルナールさんもこの攻撃には対応できてはいるようですが消耗させれている感じがします。
「
お互いに剣が絡められ拮抗状態に陥っているところに私の背後から魔法を放ち、力負けを補いつつも自身を身体ごと押し込ませます。
「もっと!まわして!」
私は叫びながら魔法の威力をブーストさせ、さながらジェット機のように後ろから大きく噴射した魔法で切り開こうとします。
「まだだ!」
相手側も負けじとこの鍔迫り合いのような拮抗した状態に応戦し、どっちつかずの状態になりました。しかし、私だって馬鹿みたいに一点突破だけを狙っているわけではありません。
「今!」
グリップを鍔部分の根本から回転させ、逆手状態にさせます。タイミングが難しかったですが、うまく絡まっていた剣が解け、いきなり自由になった剣槍のせいでベルナールさんは少しバランスを崩していました。
「ッ!」
ここで最後のダメ押しでもイイのですが、多分切り返され捲られる気がします。先程までの戦いから逆算して私の最適解を導き出そうと考えますが、もうネタ切れです!即興でどうにかするしかないですね!
一旦私はディレイを掛け、攻撃を仕掛けます。私のワンテンポ遅れた攻撃姿勢にベルナールさんの防御体勢が一瞬で組み上がり、うまくディレイの意味がなった気がします。
「
足裏に二門の魔法を発動させ、地面を滑走させるようにした状態でベルナールさんの裏を取りました。
「ーー!」
グリップを元の位置に戻し、確実にダメージアウトを誘う最後の一手に踏み込みます。息を大きく吸い、身体に駆け巡るものを身体に感じて放つ私の一撃。しかし、
「やるじゃねぇか、油断も隙もねぇ!」
後ろへと剣槍とブロードソードを持ってきて私の攻撃をうまく挟んで防いでいるのでした。
「まずッ!」
またまたほんの数ミリで致命傷な一撃が私の肩に掠めていきます。ギリギリ間に合った回避でしたがここからどう切り返しましょう。もう手がないなんて口が裂けても言えないですね。
回避行動した後に剣槍の腹を蹴り、間合いを少し取ります。
「そうだ。もっとイイ戦いにしよう」
多分次のぶつかり合いで勝負が決まります。私の使えるリソースも少ないですし、多分向こうも私を殺しにかかってくる模様です。
「いくぞ!」
大柄な体躯を持つ男がよく通る声を出し、こちらに突進してくる様は怖すぎて正直一歩退がりそうでした。ですけど、私だって剣士なんです。こんなところで退がりません。
「ええ」
まず最初に放てれたのは上段からの振り下ろし、私は動きに合わせ回避行動を取りつつ剣槍の有利な間合いを取らせまいとこちらも間合いを詰めます。しかし、叩きつけられた剣槍を素早く引き戻し、中段から放たれる一閃によって生み出される暴風によってのってきたスピードが落ちていきました。それでも、私は前へ進みました。剣を持つ手に力が入らないと思えるくらいに疲弊しています。だからこそ、私はこの人に勝ちたい。
「ー!」
声にならないものが口から漏れ出しながら出した一撃は見透かされていたかのように軽くいなされました。
「それ!でも!」
私に残った最後の力を振り絞って剣をグリップごと回転させ逆手状態にし、殴るように切り抜けました。
「な!にぃ!」
ギリギリ致命傷の部分に命中し、ダメージアウトでした。
試合を終えるブザーが鳴り響き、私は疲れのあまりにへたりこんでしまいました。
「やりました。やったんですね」
身体中が酸素を求め、過呼吸になるほどの呼吸量が私に襲い掛かり、私にこの試合に勝ったぞという実感が湧いてきます。
「月下、イイ戦いだった。ありがとさんよ」
心配して顔を覗き込んできたベルナールさんから手が伸びてきました。
「私こそ、ありがとうございました」
私はベルナールさんの手をとり、身を起こしてもらいます。
「驚いたぜ、あの風から抜けてくるなんて思ってもみなかったわ」
「ベルナールさんもこれで剣聖じゃないなんておかしいくらいに強かったですよ」
するとベルナールさんは少し照れた様子になりました。
「あんがとよ、オマエさんも同等だと思うがな」
光の幕が下がっていき、私とベルナールさんは次にまたやろうと約束を交わして別れを告げました。
「これ、次の試合までにいけますかね」
私はこの試合で本気を出しすぎました。そう、次の試合のことを想定した動きではなく、目の前の相手に全てを出してしまいました。
「次、どうしましょう」
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