第15話 辿り着くは

 控え室は以前と比べ物にならないくらい人が少なく、そして、期待や夢に溢れた空気は殺伐とした自身の正義と張り詰めた緊張とで重苦しい空気になっていました。

 いや、重いですぅ。一回戦目での空気もそうでしたがそれ以上に重いです。

「これじゃ疲れなんてとれませんよ」

 先のことを考えられていなかった格上への挑戦で全部出し切ってしまった私は控えの端っこで居心地の悪い気持ちで座っていました。

「あら、勝ったのね」

 私の横に誰か来たと思ったら並風ナミカゼさんじゃないですか。

「ええ、それでこのザマですけどね」

 ぐったりとした体勢で笑って誤魔化します。

「そう?いい戦いだと思ったわ。剣聖と同等の実力を持つベルナールさんに対してしっかりと勝ちを収めたもの、誇れることよ。まあ、後先考えなかったことはどうしようもないと思うけれどね」

「そうですよねぇ」

 褒めてくれていると思ったら最後に大きな棘で刺されたようで変な返事が出ました。

「次ですね、貴女ととの殺し合いしあいは」

「ええ、楽しみだわ」

 そう、次の本戦2回戦目は並風さんとの試合になります。この大会は予選から本戦までほとんどがランダムで相手が決まります。【剣士ならばその場で対策できる】なんていう心情のもとで構成されている大会ですのでこういったシャッフル方式らしいです。他の大会はまたレギュレーションが違っていますけどね。

「少し仮眠をとります。時間になったら起こしてください」

 私が思っていたよりも疲労が蓄積されていたらしく、瞼が重くなってきました。

「そう、わかったわ」




「起き…さい、起きなさい」

 少しずつ視界と頭がクリアになっていき、現状を理解していきます。

「そろそろですか?」

「そうね、もうあと一戦くらいかしら」

「ということは2時間程度ですね。どこかで長引きました?」

 身体を伸ばしながら立ち上がり、控えにあるモニターを見つめます。

「一組かなり拮抗した戦いだったわ、1時間?くらいね。なかなか決まらずだったから少しイライラしたわ」

「そうですか」

 思っていたよりも眠れたので良かったのですが、これほどまで長引くのはなかなかないことなのでとんだ誤算でした。

「貴女にとっては良かったんじゃない?」

「そうなりますね。おかげでいつもの状態で戦えますよ」

 私の状態はまあいつもと同等か限界以上くらいには出力できるでしょう。問題はこの戦いにどう向き合うかですね。

「誓いは守りますよ」

 私は気持ちが滲み出るかのようにボソリと呟きます。

 この約束のためにここまで来ました。もはや約束ではなく剣への誓いにもなってしまっているくらいに私の中ではこの戦いは重要な一部だと思っています。

「そうでないと困るわ」

 私の呟きをバッチリ聞いて不敵な笑みをこぼして告げます。

「さあ、時間よ。行くわよ」

 不敵な笑みになったかと思うと急にスンといつもの表情になり、スタスタと廊下へと歩みを進めていきます。

「私も動きましょう」

 私も後を追うようにソードケースを背負い込み、廊下へと出て歓声の鳴る方へと歩みを進めました。

 ソードケースはいつもよりも重く感じ、その代わりに私の中に溢れる闘志が血を駆け巡るかのように身体が熱く燃えています。

「あの時の約束を果たしてその先に」

 競技場に足を踏み入れると会場からの熱気を直に受け、また少し怯んでしまいました。

「この熱気は慣れそうにもありませんね」

 ソードケースを展開し、サンフレアをデバイスに差し込みます。

「やっとここまで来たわね、月下向日葵!」

「ええ、これで貴女との因縁も収束できますよ」

 光の幕が上がっていき、私たちの手元に剣が投影されていきます。

「行くわよ、月下向日葵ツキシタヒマワリ!貴女を今度こそ!」

 すでにスイッチが入っている並風さんをしっかりと見つめ、私は剣を掲げます。

「この剣に誓いましたから、私は全力を持ってして貴女、並風紅羽さんを殺します!」

 試合の火蓋が切り離され、お互いに間合いを詰め合い、鋭い金属音を響かせました。そして、次の一手をお互いに放つといったところで私たちの耳元で呟く人物がそばに急に現れました。

「ワタシもそのお遊びに入れてくれない?」

「「!?」」

 急なことで一瞬私と並風さんは時間が止まったかのように身体が硬直しましたが、直後の爆発音で状況を判断し、お互い謎の人物からバックステップで間合いを取りました。

 私の思考は状況の確定させることで手一杯でした。なんでここに?爆発はどこ?式野さんは、薫さんは無事?以前として頭が追いつかないまま幕の下がる舞台の上で思考が安定しません。

「動きなさい!月下向日葵!死にたいの?」

 咄嗟に並風さんの声に反応し、飛んできたサンフレアを受け取り安定しない思考のまま臨戦態勢をとり、襲撃者と呼ぶべき人影へと剣を向けます。

「アナタはどなたです?」

 剣を向けられているはずの人影は輪郭がはっきりしていくにつれ、ニヤニヤと嫌な笑みをしながら私に眼差しを向けていました。

「そんなことどうでもいいでしょう?ワタシは貴女と踊ってみたいのだけれど?」

 明らかな敵性人物ですが、どうにも引っかかるんですよね。本気で殺す気があればもう私たちを殺しているはずです。なのにさっきから殺気は私たちに向けて放たれているんですよね。

「月下向日葵!コイツを一旦どうにかするわよ!」

「ええ!」

 どうにもこうにも状況がとんでもない方向に向かったがための共闘です。

「こんなことで一緒には戦いたくはなかったですけどね」

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