第3話 仕事を制すんば休みを得ず

 退屈なのは学校だけではありませんでしたね。ため息がでかけちゃいましたよ。

「大丈夫かい、向日葵」

 私の仕事である薫さんの使用人という仕事があるのです。

「いえ大丈夫です。薫さんが頑張っているんですからまだまだできますよ」

 使用人の建前の嘘を使って抜け出そうとするがこの人には通じないんですよね。

「本音は?」

 出ましたよ。このいつもの絵に描いた私の思考を覗き込んでいるような言葉。

「了承しましたぁ、早く上がりたいです」

 こうなると正直に言わないとずっと尋問してきますから。

「正直でよろしい。そろそろ終わると思うからそこのソファでゆっくりしてていいよ」

 こういう時は優しいんですよね。いつも何考えているのかわかんないんですけど。ともあれゆったりできる時間は嬉しいんです。

「わーい」

「こら、お行儀悪いでしょ」

 思いきり私がソファに飛び込んだのをみて薫さんが冗談めかしに茶化して、そしてすぐにまた資料に目を通し始めました。

「ここはこうで…」

 薫さんはかなり大きな企業を任せられています。お父様が謎の不審死によってすぐに代が変わりすぐさま企業を任せられる立場についたのです。薫さんには幼少期から使用人として使えていたのでことの成り行きをただ眺めているだけだった私には薫さんの苦労は分かりません。

 先日お邪魔した施設へはこの企業が運営する技術【Swordソード Regulationレギュレーション Systemsシステム】通称SRSと呼ばれる剣士競技のための技術を運営しています。簡単にいうとホログラムによる剣の模擬戦というものです。斬られれば痛いですが、当たったなあという感じの痛みに設定されています。勝敗はどちらかが敗北宣言をするか、AIによる判定で続行不能なダメージを負っていると判断されると敗北になります。

 ちなみにプレンティアの代表である剣聖さんにSRSはお墨付きをもらっているんです。

「さて、帰ろうか」

 ゆったりゴロゴロとソファでしていたらもう仕事を終わらせてやがります。

「了承しました。もう少しゆっくりしたかったんですけどね」

 もう少しは長引くものですからそろそろ切り替えないとなんですけどね。

 そういえば帰りに寄りたいところがあるんでした。

「薫さん、最近できた噂の喫茶店に寄りたいんですけどいいですかね?」

「そうだね。いくとしようか」




「ここのコーヒーの味、ちょっと独特でしたね…ッ」

 件のお店は内装もよく、スイーツも美味しかったのですが、コーヒーが口に合いませんでした。

「そうかい?僕は程よくいいと思ったんだけどなあ」

 味覚は人によって違いますが、この人は言ってはいけないのですがバカ舌なのでいつも味覚のことなると信用なりません。

「そうですよ。ッ!」

 後ろに誰かつけていますね。気づいてはいましたけど殺気が感じられたので黒です。

「向日葵、軽くシメる程度で頼むよ」

 薫さんも気づいたらしく、私に行けといったハンドサインを出す。

 私は犬じゃないんですけど。

「了承しました」

 私はそう告げながら背負っている大きなソードケースを縦向きから横向きに変え、露出した柄をレバーのように傾けると、ソードケースのロックが外れるんです。そしてそのまま勢いでソードケースを開けてサンフレアを抜刀させます。

状況開始エンゲージ

 身の丈ほどの大剣を掲げ、大きく身を翻して襲撃者の裏に回り込み、襲撃者の背中へ峰での攻撃を打ち込む。

「ガアぁ!」

 殴打された勢いと背後に回られた困惑で変な悲鳴が襲撃者から鳴る。

「あなたは殺す価値に値しません」

 思った通り片手からナイフが出てきましたね。日和のこの地域は比較的治安はいいんですけど、たまにこうやって金で釣られた暗殺者もどきがどこかのSRSの技術が欲しい誰かさんから送られてくるんですよね。

「彼大丈夫?結構いい音してたけど」

 使用人の心配ではなく襲撃者の心配してどうするんですかこの人は。

「ええ、大丈夫だと思いますよ。明日明後日は痛みで動くことすらままならいと思いますけど」

 ソードケースへとサンフレアを納刀しながら答えます。

「まあまあ重症じゃない?うん、まあいいか。自業自得ってことで。さあ行こうか」

 薫さんはまた帰路へと歩みを進めるように歩いていく。

「了承しました。今度はどこに寄りましょうか?」

 私はそれに追いつくように小走りで駆けて寄りにいく。

「向日葵が行きたいところでいいよ。僕は」

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