第五幕 My resolve was naive
第26話 私たちの覚悟は
ついにこの時がやってきました。ほとんど無理難題と言っても差し支えのない、むしろいけるなんて無謀もいいところです。でも、ここでやらなければ薫さんの安否は依然として不明のままで、もしかしたら今にも殺されかけているかもしれないんです。
「皆さん、準備はいいですね」
「行けるわ」
「任せてよ」
「ああ」
「もちろん」
「頑張ってみるわ」
「ふん」
皆さんもいい感じの調子ですね。これから死地に行く覚悟を持った人たちがこれだけいれば勝てない戦いではないですよ。
「では行きましょう」
今回の作戦はオラクル・クレストの攻略および、人質がいれば救出を主に攻めに行きます。近くまでは以前のルートとは少し違ったルートをつたって行きます。極力戦闘を避けながらこの人数で動くのは危険と判断し、二人ペアでおよび一人で散開して目的地まで進んでいきます。
「心配ね」
「そうですね」
私とペアの紅羽さんは散開した仲間の皆さんが心配でお互いに振り返ります。もう動いてからかなり時間が経っているのでいるはずもないですし、戦闘音も聞こえないので下手に心配するのはあまりいいことではないので切り替えなければいけないんですが。
「いつ敵と接敵するかわからない状況で心配するなは無理ありますよ」
「でも、アタシたちは進まなくちゃね」
以前と違って今回は確実な攻略が目的なので緊張感がまるで違います。少しずつ目的地が近づくたびに重たいプレッシャーを感じるようになってきました。
「そうですね。私は私がすべきことをするまでです」
言ってしまえば今回は件の元凶を叩くだけでいいんです。全滅ではなく対象の排除のみといえば簡単ですね。しかし、そこに立ち塞がるのは数多の敵です。そこが問題なんですよね。
なんてことを考えていたらもう目的地が目の前です。
「集合場所は大穴の近くでしたよね」
「そうね」
この調子ならすぐに合流できるのだろうと意気込んでいたところ、予想通りに着々と散開していた皆さんが合流できていきました。
「全員揃いましたね」
序盤はいい感じに組み立てられているのを感じます。まあ、最初の方はこのくらいでないと数万の軍勢を相手取るには安いものだと思っておくのがいいですね。
「では作戦開始です」
オラクル・クレスト攻略をスムーズに行うためには連絡されるより前に先に制圧することを念頭に動きます。敵性がいればすぐに叩いてバレないように隠していきます。万が一バレたとしても人数がいるので散開して撹乱することができるため、以前の潜入の際よりも格段に攻略が楽になります。
「まず一個!」
前方にいた敵性小隊を確認した紅羽さんが先陣を切り、私とベルナールさんと吹雪さんで後に続きます。
「
紅羽さんの放つ連撃は小隊二人を薙ぎ倒していき、後に続く私たちが一人一人にマークできる状況をつくってくれました。
「ッ!」
私たちは各々考える理想の一閃を放ち、小隊を機能不能にします。
「次行きますよ」
さっさと戦闘不能にした敵を見えずらいところへと隠して先に進んでいきます。しかし、やはりここの建物は広く複雑になっているので接敵するリスクと回避できるようなルートの豊富さが共に共存しており、常に全方位を警戒せざるを得ません。それによって気を張っている時間が長く、精神的な疲労がくるのも時間の問題だと感じます。
「疲れるわ」
「少しメルカは気を張りすぎだ。少し俺が変わろう」
精鋭の剣士ではあるのですが、まだ学生の身でこの作戦に投じている二人には交代で警戒してもらうようにはしています。しかし、持って二時間?いえ、それよりも少ないように感じられますね。
「前方敵発見!数は5!」
「いきます!」
しかし、この状況下では誰も待ってはくれません。ゲームのように一旦ストップできればいいのですけれど現実はそう甘くはありませんから。
速戦即決でその部隊を叩き潰し、悟られないように物陰に隠してまた先へと進みます。多分この先何回かこれをやってたどり着くのかと考えた矢先、背後に気配を感じて防御態勢に入りました。
「アハ、アナタやっぱり疾いわね」
「ぐッ!ビアンカ・マトグレス!」
大きな金属音と共に少しの距離吹き飛ばされた私は剣をまた構え始めて皆さんに告げました。
「先に行ってください!ここは私が引き受けます!」
幹部クラスの敵性に会うとは思いませんでしたが、この人の異能力は
「いえ、アタシたちが、よ!」
紅羽さんがビアンカさんに斬りつけに行くも転移で避けられてしまいました。しかし、彼女は覚悟を持って私の隣に立っていました。
「ここで会ったんだもの、いい機会だわ。アタシたちがアンタを蹴散らす」
紅羽さんがビアンカさんに啖呵を切るように叫びます。
いい感じにあの人のヘイトが私たちに向いていたので、皆さんは前に進めたようですね。
なら、ここで私たちは勝たなければいけません。リベンジマッチといきましょう。
「ここで時間はあまりかけられません。さっさと倒しますよ」
「ええ、そのつもりだわ」
紅羽さんは覚悟を持った面持ちで剣を構えます。私もこの目の前にいる敵、ビアンカ・マトグレスへと意識を向けて剣を再度握り直します。
「いくわよ!」
「状況開始!」
慣れたようにいつもの紅羽さんが先陣を切るフォーメーションでビアンカさんへと鋒を向けます。
「
初手から過剰とも言える連撃を軸に紅羽さんは仕掛けて行きます。しかし、全ての攻撃が軽くいなされてしまって一向にダメージというダメージが与えられていない状況でした。
「私のことを忘れてもらっては困ります」
私は連撃を繰り返す紅羽さんとは逆方向から強力な一閃を放ち、相手の態勢を崩すことを念頭においた連携攻撃でなんとか隙ができないかと模索してみます。しかし、難なく私の攻撃は弾かれてしまい、挙句には彼女が使用する能力で距離を取られてしまいました。
「チッ!」
「そんなんじゃ面白くないわ、もっとアナタの本質を剥き出しになさい!」
結局は相手を攻撃することという程で、実際には殺すことを目的としていない太刀筋には所詮この程度しか効かないというわけですね。
「いいいでしょう、こちらにも意地というものがありますから」
なんでもお見通しという不敵な笑みは私の中に燻る炎を炊き上げていきます。
もう、こんな事はしないと思っていたのですけどね。
握った剣の柄にまた少しずつ力が加わっていきます。
「
大胆に踏み込んだ一歩は強烈な速度を身体に乗せ、仲間の連携を前提としない我が道を行くような傲慢な戦い方へと変化させます。一撃一撃の威力は絶えず致命傷の部分へと捉えてそこへと刃が運ばれて行きます。相手もそれを理解したのか防御に専念するようになっていきました。
「合わせろってことね」
私の戦い方が変わったことにより、瞬時に自身の振る舞う姿を確認した紅羽さんはあえて相手の腕や脚などの部位を選ぶように高速で何度も斬りかかっていきます。
「アハッ!そうそう、そういうの!」
状況的に見れば相手は囲まれている状態で何度も攻撃に晒されている状態ですが、しっかりと私たちの攻撃を防いでおり、やはり余裕というのが垣間見れます。
「なら、これはどうです?」
身体の重さを利用した突き、ですが、これは連撃の布石であり、相手がこれを防いだ瞬間に私は大きく空中に舞い、そのまま連撃を続行します。体術を駆使した変則的かつ強烈な連撃はビアンカさんには少し苦戦を強いているものの、まだまだその身体には刃を一筋とも入れることが叶っていません。
「やるじゃない?」
「それはどうも」
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