第25話 狙うは烙印
「嬢ちゃんたち無事だったか?って今度はいっぱい連れてきたなぁ!」
無事セーフハウスに着き、店主の方が以前とは違って暖かく向かい入れてくれることをしみじみと思いながらも依然として状況が好転していないことに内心モヤモヤがあります。
「少しの間この方々もお邪魔になりますね。店長」
「構わねぇけどよぉ、あの屈強な人はベルナールじゃないか?」
「そうですよ。嵐鷹のベルナールさんです」
「こいつはたまげたな。有名人じゃねえか」
深く関心した店主さんは椅子に座って水の入った瓶を手に取ります。
「まあ、これが終息するまではそんな悠長にしてられんがな」
どこか遠くを見つめて手に持った蒸留水を一気に飲み干します。
私も早くこの状況が終わって欲しいと言う思いはありますし、あわよくば薫さんのついでに黒の舶刀を壊滅できたらなんて考えもしましたけど一人二人増えたところで軍勢には勝てません。先ほどの戦闘でそれをよく実感しました。
「上層部の方たちには早めの対応をお願いしたいですね」
「まったくだな」
プレンティアと言う国の上層は剣聖戦と言う名がある通り、剣聖と言う人たちによって政治体制が敷かれています。良くも悪くもこの国はその人たちで回っているのですけれど、いつもよりも対応が遅いことに事の重大さと言うのをしみじみと感じます。
ここ以外にもこうやって潜んでいる市民もまだいるということは今回の吹雪さんたちとの合流できたことで再確認できました。避難できた人たちももちろんいると思いますけど少ないでしょうね。
「帰ってきたのね」
「式野さん」
私は彼女と共に無事に帰ることもしないといけません。薫さん一体どこへ行ったのでしょう。
「あの人は見つかった?」
「いえ、全く痕跡一つも見つけられませんでした」
「それに死にかけたし、もう踏んだり蹴ったりだったわ」
紅羽さんがソファーに豪快に座って私たちの会話に割り込んできます。
「それはなんともまあ」
「心配しないでください。この通り五体満足ですから」
「そういう場合じゃないわ。もっと身体を大事にしてね」
あまり困らせないようにと思って放った言動は返って困った顔をさせてしまいました。
「ま、それでも今回は無駄ではなかったわ。あそこはきっとアイツらのアジトよ」
「そう考えるのが妥当かもですね」
あの敵の量にかかっていたクォーターの能力による認識阻害、密偵の量といい尋常ではありませんでした。そうなると企業のお偉方はあそこに捉えられていると踏んでもいいと考えられます。黒の舶刀の目的なんて知ったことではないのですが、この場合になると薫さんの無事が揺らぎます。
「結局はあそこの攻略が薫さん発見の一番の近道ですか」
そうなると戦力が足りませんね。
「吹雪さん!」
「はいはーい」
困った時は近くにいる剣士の方たちです。
「不躾で申し訳ありませんが、またあのオラクル・クレストに行きたいんです。同行をお願いしたいのですけどいいでしょうか?」
「いいよ。結局あそこを叩かない限り事態が進むことがなさそうだし、仮にも私らは剣士だよ?この国を守るために剣を掲げあって奮起するのは当然、でしょ?いいよね君たちも」
私の提案を何食わぬ顔で了承し、むしろ一緒にいたベルナールさんたちまでも巻き込んでいきます。
「ああ、いいぜ」「むしろ燃えてくる」「また変に突っ走る」
後ろに控えていた方たちも二つ返事で了承してくれているようですし、あと一人、私たちが確実にあの場所へと辿り着ける最後のピースを埋めるとしましょう。
「貴方にもきて欲しいんです」
そう言って仮面を被った彼へと私は向き合います。
「なんでオレなんだ?」
まあ、普通ならこういう疑問も出るはずですけど、私には彼は私と同じ匂いがするんです。
「貴方は多分
私がそういうと近くに立て掛けてあったバイオリンケースに触れました。まあ、図星と言うところでしょうね。
「ふん、オレがお前達に手を貸すね、いくらだ?」
「ああ、そう言う類ですか」
「そうだ、オレもタダで働く訳にはいかない。相応の額を請求する」
なるほどですね。まあ、彼なりの流儀でここに流れ着いたのでしょうね。
「ええ、なら言い値で構いませんよ。この動乱が収まったらになりますけどね」
「ふむ、それではお前に不利じゃないか?」
「それはそうですね、法外な値段をふっかけられれば無理ですけど、貴方はそんなことしないでしょう?」
今までの言動からすればこの人は多少なりともまともな人間でしょう。
「仕方ない。わかった。しかし、きっちりと対価は支払って貰うぞ」
「契約成立です」
これで遠距離に対しての有効な手となり得ます。私の魔法も、吹雪さんの魔法も遠距離に対してはさほど有効打にならないとこの前の戦闘で思いました。だからこそ、この方の力を借りればかなり攻略が楽になると踏みました。
「では、明日の早朝から攻略開始です。いいですね」
「「「「ええ」」」」「「「ああ」」」
「こんな時間までご苦労ね」
あたりが暗くなり、街灯さえつかない街中を見渡すために屋上にいた私に紅羽さんが声をかけてきました。
「紅羽さん、貴女もお休みになさってください。明日は激戦になると思いますから」
「それは貴女もでしょうに」
私の言ったことに呆れた様子で近くに座ります。
「ねえ、貴女もアイツのこと怖い?」
「そうですねぇ、私はいつだって怖いですよ。相手も自分も」
「そう、アタシも怖いわ。また死ぬんじゃないかって、でも、今は貴女がいる。今度は絶対に負けない。負けたくないわ。絶対に捩じ伏せて頭踏んづけてざまあみろって言ってやるわ」
汚い言葉遣いでも気高く吠える紅羽さんは暗闇に刺す一筋の光のように私の眼を突き刺します。
「ええ、必ず勝ちましょう。そして、この状況を少しでも良くしましょう」
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